Vol.0232 「NZ・生活編」 〜レモンの木のある家〜

まるで私達を待っていてくれたかのような家でした。不動産屋が束になった鍵の中からいくつも試し、やっとドアが開いた瞬間、す〜っと招き入れられるような気がしました。「いいじゃん、ここ!」と、家族みんなが一斉に声を上げ、それぞれが寝室に、テラスに、窓からの景色に見入ってしまいました。「ママ〜、チムニー(暖炉のつもり)があるよ〜♪」 暖炉のことばかり気にしていた次男の善が真っ先にリビングでそれを確認したかと思えば、私は私でランドリールームの広さや、使い勝手の良さそうな明るいキッチン、そこから見える裏庭に見とれていました。

こんなに何もかも理想通りとは! いいえ、この日当たりと明るさ、端正な間取り、年季の入った生垣、かなり草花の植わった庭、こぢんまりとした裏庭やそれに続くテラスなどは、正直言って理想以上でした。裏庭のある家に住んだことがないので、住空間からなだらかに続く裏座敷の、なんとも言えない密やかさは実に新鮮でした。外なのに室内のようにくつろげそうな気がします。窓の高さから大きさ、廊下の幅、キッチンの造り、造り付けのクローゼットの数やそのドアまで、文句なしでした。

「この家だ、間違いない。」 ニュージーランドに来て丸3日。中まで見せてもらった最初の物件でしたが、私達4人の腹は即座に決まりました。他の物件を見る必要はまったくありませんでした。「いいね。」「決まりだな。」 夫と目を見交わし不動産屋に向き直った時、私達はもう契約の話を始めていました。一目見た瞬間から縁を感じるような巡り合わせに感謝しつつ、新生活をここから始めることにしました。夫も想いは同じだったようで、盛んに「いい家だな。ラッキーだったな」と繰り返していました。

家探しの条件は6つ。「平屋。3部屋。暖炉付き。前庭と裏庭があって陽が燦々と差し込むこと。子供たちの学校の学区内であること。予算内であること。」 学区内であることを除けば、私が一番こだわっていたことは平屋であることでした。NZの賃貸物件の場合、広告に広さが載ることは皆無と言ってよく、信じがたいほど家の大きさが問題にされません。問われるのは部屋数だけで、その大きさも実にまちまちです。不動産屋が紹介してくれた他の物件は、同じ予算にもかかわらずかなり大きな二階建てでした。

しかし、私はこぢんまりとした平屋にこだわりました。家族4人が身を寄せ合って暮らし始めるにふさわしい、小さな家。ドアから顔を出せば4人の顔が揃い、リビングで暖炉にあたりながらその日の出来事を話し、明るいダイニングで宿題を広げる子供を横目に夕食の用意をし、裏庭に思いっきりシーツを干し、コーヒー片手にテラスで昼寝をするネコたちを眺め、別の部屋に夫の気配を感じながら仕事をし・・・と、私が思い描いていた生活は、お互いの姿が見え隠れする家が舞台でした。見つけた家はまさに思い通りでした。

感激はこれに留まりません。細かいことですが、「ブラインドではなくカーテンのかかった窓、しかもそのカーテンが柄物ではなく白い窓枠に合う無地を・・・」と思っていたら、レースと薄過ぎず厚過ぎない白地のカーテンがかかっており、「部屋は積み木の家のようにどこも四角で・・・」と思っていたら、3部屋ともほとんど正方形でした。角部屋の2部屋は窓がL字型で、これまた思い通りでした。「できたらキッチンで朝食を・・・」と思っていたら、ダイニングがリビングではなくキッチンにつながる間取りでこれも希望通り。

更に細かいことながら非常に重要な点でもあるのが、蛇口。NZではお湯と水の蛇口が分かれ、お湯の方からは触れないほどの熱湯が出てくるタイプが多いのですが(当座の住まいだった2軒のモーテルもこのタイプ。そういえばフランスもそうでした)、これだとキッチンも洗面所も溜め水をして使うしかなく、非常に不便です。ですから蛇口が一つで、お湯の温度が調節できるものを希望していました。比較的古い家ではほとんど分かれたタイプですが、決めた家は改装を済ませているせいか蛇口が一つのタイプでした。おまけにディッシュウォッシャー付き。お客さんがあった時などには活躍してくれそうです。

期待を嬉しい方向にことごとく裏切ってくれた家。その極めつけがレモンの木でした。大きなレモンをたわわに実らせた木がガレージのすぐ脇にあり、いくつかの実は芝の上に落ち鮮やかに輝いています。うちを訪ねて来てくれる人に、「角を曲がるとすぐにレモンの木が見えるから」と説明するのが今から楽しみです。中国人は新年にぎっしりと実のなった、音も色も金に通じる金柑の木を飾って商売繁盛を祈りますが、実をつけた木に豊かさを感じることを改めて実感しました。自宅の庭に、実り、育むものがあるのはいいものです。メドウバンクでレモンの木のある角の家を見つけたら、ぜひお立ち寄りください。ハニーをたっぷり入れたレモネードでおもてなしします。
(↑アンティーク家具の配達のトラックとレモンの木)

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「マヨネーズ」 ニュージーランドに着いた日が土曜日で、翌日の日曜日は訪ねた不動産屋がすべて閉まっていたため、実質的な家探しは月曜からでした。そこで紹介されたのがレモンの木のある家でした。その場では中まで見ることはできなかったため、翌朝10時に出直し、即決しました。ですから最初に見せてもらった家が私達の家となったのです。子供の学区にこだわったため、対象となる3部屋物件はこのタイミングでは5軒あるかないかで、限られた中でここまで気に入った家を見つけられたのは幸運でした。

一昨日の9日にモーテルから移り、家族全員が5〜6枚着こんで買いたてのベッドに毛布一枚で夜を過ごしましたが、昨日には香港からの荷物106箱が届きいよいよ引越し完了。香港を含め1ヵ月半の放浪生活にピリオドを打ちました。さぁ、いよいよ新生活開始っ♪

西蘭みこと