Vol.0235 「NZ・生活編」 〜ロード・オブ・ザ・鍋−鍋物語 その2〜

割れてしまったセラミック鍋をめぐって、モーテルのオーナーだかマネージャーだかの上海人と大ゲンカした私。彼女は、「だからあんたの夫に言ったのよ。お宅は人数も多いし、長居するんだから"必ず鍋を買ってね"って。"わかった"って言ってたのにさっさと買わないからこういうことになるのよ」と言っていましたが、これは大ウソです。私たちがチェックインした時、彼女は不在で、代わりに出てきたキウイの男性が問題の鍋を渡してくれ、その夜に"事件"が起きたのですから、彼女が夫を諭す間などあり得ませんでした。

一応、夫にその話を確認すると、「聞いてないよ、そんなの〜。よく言うよな〜(笑)」で、チャンチャン。この辺も中華圏で20年近く暮らしたおかげで慣れっ子です。何といっても"白髪三千丈"の国ですから、この手の話は日常茶飯事。あえて嘘つきと名指しするほどのことでさえないのです。「やっぱりね。でもあれっきり大きい鍋も貸してくれないし、いずれにしても買おうと思ってたので、買っちゃわない?」ということになり、この手の物に詳しい日本人の友人夫婦に付き合ってもらって、さっそく買いに行きました。

実は移住後の楽しみの一つに、鍋のセットを買うことも入っていました。「西洋社会に行くんだから、さぞや厚手の一生使いたくなるようないい鍋があるんだろうなぁ〜♪」と、密かに期待していました。ずっしり重いテフロン加工か、思わず吊るしておきたくなるようなピカピカのステンレスか・・・。いずれにしてもかなり期待を募らせていました。連れて行ってもらったのは家庭用品専門のチェーン店で、ニュージーランドによくある大型店舗でした。鍋コーナーもなかなか大きく、たくさんの商品がありました。

ところがテフロン加工のものはごくわずかで、思ったよりも薄手のものばかりでした。結婚した時にシンガポールで買ったお気に入りの鍋がさすがに古くなったので、泣く泣く処分してきた代わりを探していたため、ちょっとイメージが違いました。そこで第二志望のピカピカのステンレスに照準を切り替えました。ちょうど、熱を通し易く底にコッパーがはまった、実用的かつ見た目もいい、蒸し器も付いた6点セットのバーゲン品がありました。ほぼ希望していた大きさの鍋が揃い、輸入品ではなく国産品という点も気に入り、友人とも意見が合って、それにすることにしました。

他の商品はストックが山積みされているというのにそれだけは3箱しかなく、いかにも見切り品でした。一抱えもある箱を大人でも乗れそうな大型カートに乗せてレジに行き、夫が会計を済ませました。彼はそのまま店の中を走り回っている子供たちを捜しに行ってしまったので、私が箱をレジの台からカートに移しました。その際、「あれっ?」と思い、急きょ開けてみることにしました。持った瞬間、あまりにも軽く、とても鍋が5つも入っているとは思えなかったのです。

空けるや否や、友人と大爆笑。箱の写真と同じ鍋は二つくらいしか入っておらず、フタの大きさもまちまちでした。違うデザインや他のメーカーのものまで入っていて、まさにガラクタばかりの闇鍋状態!戻って来た夫とも、「これじゃあ、舌切りスズメのいじわるばあさんがもらってきた、大きい方のつづらだよ〜」と大笑い。すぐに白人のレジの人に言うと、思いがけず怪訝そうな表情。どう見ても箱の写真とは似ても似つかぬ商品なのに謝るどころか迷惑そうですらあり、これにはさすがに驚きました。

マイクで他の店員を呼び出していたもののなかなか来ないので、夫が残りの2箱をレジに運び、キャッシャーの目の前で商品を交換することにしました。もう1箱を開けてみると、鍋の数こそ揃っていましたが、フタがいくつか足りません。そこで最後の1箱を開け、そこから足りない分のフタを補給し、なんとかセットを完成させました。つまり3箱残っていたものの、ちゃんとセットになったのは私たちが求めた分のみで、後の2箱分はいずれも半端なままでした。

私たちが鍋とフタを合わせながら点検しているのを、呼び出された華人系の店員がジッと見ていました。その様子は見守るというより、余計に持っていかないか見張っているという感じで、腕組みをしたまま手伝おうとはしませんでした。案の定、私たちが揃えたものを彼女が数え直しました。そして驚くべきことに、「どうしてこっちの箱は揃ってないの?」と、まるでこちらに落ち度があるかのように強い口調で聞いてきました。それを聞き、夫と私は狐につままれたように固まってしまいましたが、次の瞬間、二人で吹き出しました。

どう考えてもマヌケな質問です。それを聞きたいのはお客である私たちの方です。箱を開けずに持ち帰った場合、バーゲン品でもあることだし、果たして返品ができたのかどうか?よくよく考えれば金額も張るものですし、けっこうアブナイ話です。その時、「ここで笑えるかどうかが、NZ生活を楽しめるかどうかのカギなんですよね。マジで怒っちゃう人には向かないかも。」と、一部始終を見ていた友人が脇でポソッと言いました。私はその一言にハッとし、同時に、思いがけず実技試験にパスしたかのごとく嬉しくなりました。(つづく)

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「マヨネーズ」 このお店、他の場所にも支店があって、そちらに行ったら「えぇ、同じ店?」と見違えるほどきれいで夫と二人でビックリしました。最初の店は私たちの体験が如実に物語っているように在庫管理がかなりアバウトで、店全体も倉庫のような殺風景な雰囲気でしたが、別の支店はディスプレーも完璧で、店員の対応も段違い。グッと高級感が出てくるから不思議です。「やればできるじゃん、キウイく〜ん♪」は、最近の夫婦の合言葉。

西蘭みこと