Vol.0238 「NZ編」 〜ダブルスタンダードの隙間で〜

8月にニュージーランドで行われた調査によれば、45%の人が「アジアからの移民が多過ぎる」とし、39%が「南太平洋島嶼からの移民」、同じく39%が「中東からの移民」が「多過ぎる」と回答しています。複数回答を認めたようなので、かなりの人が非白人移民全体に懸念や不快感を持っているようです。この数字を目にして、「ほ〜ら、やっぱりキウイは人種偏見するんじゃない!」と我が意を得たりという移民も、「冷たくされたり、不利になったらどうしよう」と心配する移民もいるかもしれません。

新移民の一人としてこの記事を読んだ私は、「上等じゃない!」と思いました。たった1ヶ月といえどもこの地に暮し、毎日の生活の中にどれほど移民らしき人たちがしっかりと組み込まれているかを見聞してこそ、この数字が意味するところは「悪くない」と感じました。これが香港にいる時であれば、額面通り受け取って「やっぱり人種差別ってけっこうあるのかな?子供は学校で苦労するんだろうか?」と、多少は不安に思ったかもしれませんが、すでに当事者の身、数字を深読みすることができます。

まず最初に、ちょっと想像してみて下さい。日本で暮らす日本人にとり、隣の家がバングラディシュ人、すぐ裏手が中国人、子供の友だちがスペイン人、会社に行けば隣の席の同僚がチリ人、などという状況があるでしょうか?百歩譲ってあったとし、それを「好ましい」と思う人が過半数を超えるでしょうか?個人的にはかなり「あり得ない」と思っています。隣に越してきた人がアメリカ人だったら、「知り合いになれば、英語の勉強になるかも」と、胸算用込みで好感を持つ人もいるでしょうが、フランス語しか話さないモロッコ人や民族衣装に身を包む中東からの人だったらどうでしょう?

オークランドで生活するとなると、こうした状況は現実なのです。バリバリのキウイ・イングリッシュを話しているのによくよく聞けばドイツ人だったり、「アクセントがあるなぁ」と思ったら南アフリカ人だったりと、白人といえども一筋縄ではいきません。息子の友だちもキウイはもちろん、トンガ、韓国、クックアイランド、南アフリカ、サモア、中国、フィリピンなどさまざまな場所から来ており、ここで生まれた第二世代も含めれば、本当にたくさんの移民に囲まれて暮らしています。

更に深読みすれば、アジア人やパシフィック・アイランダーなど一目で移民とわかる人たちを「多過ぎる」と感じる人のかなりが、移民そのものを好ましく思っていない可能性もあります。しかしながら、白人系移民は黙っている限り見分けがつかないので彼らの目に入らず、肌の色の違う人ばかりが目についてしまうのかもしれません。実際はイギリスや南アフリカからの白人系移民が常に上位を占め、先の記事や私たちの移住エージェントも指摘しているように、政府は英米からの移民受け入れをかなり露骨に優先しています。ですから、人目につきにくい、こうした"隠れ移民"も相当いるのです。

その中で、アジアからの移民が「多過ぎない」と感じている人が(多分「わからない」という回答も含め)過半数もいるのには大いに励まされました。アイランダーや中東からの移民に対しては約6割が「多過ぎない」と考えていることになります。私にしてみれば、これは驚異的な数字です。移民と共棲していくことに懸念や不快感をほとんど持たない人が半数以上もいるのです!もちろん、歓迎している人もここに含まれます。いかにこの社会が開かれているのかを、改めて思い知る数字でした。

新聞では連日のように、移民、中でもアジアやインドからの学歴も高く、専門知識もある人々がもたらす経済効果を論じています。不動産ブームを下支えし、人手不足に悩む職種の穴を埋めているのがこうした移民たちであることも認めながら、「いざ自分の部下に英語が完璧でなかったり、正確に話せてもなかり聞きづらいアクセントがある人を雇うか?」となると話は別で、その辺のジレンマも正直に論議されています。この率直さもまた、私には好ましく感じられます。いくら優秀な人だとわかっていてもターバンを巻いた人を最初に雇う時には、かなり勇気がいるでしょう。そこまで優秀でなくても同じような顔つきのキウイを雇いたいと思う心境は十分理解できます。

本音と建前はどこの社会にもあります。ですからNZにダブルスタンダードがあったとしても、それを正面から糾弾できる人はそうはいないはずです。しかし、現在の待ったなしの好景気は、多くの管理職に一線を越えさせています。欲しい人材が見つからなかったり、部下が給料の高いライバル会社へ転職したりしてしまうからです。こうして、好景気に手を引かれ、需要に背中を押されながら、「人種差別はいけない」「誰に対しても平等に」という建前へ、NZの本音がにじり寄って来ているように見えます。

顔つきの違う、異文化の人たちと接する機会が増えれば、「思ったほど悪くない」という手応えとともに、キウイの本音と建前の距離が縮まっていく可能性もありそうです。1ヶ月ばかりのささやかな経験ですら、そんな実感があります。こうして移民は社会に受け入れられていくのでしょう。そしてある日、電話が鳴り、出るとテープが流れます。「ただいま移民政策のアンケートを実施中です。あなたは移民が"多過ぎる"と思いますか?」

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「マヨネーズ」 毎週末、息子の友だちのアイランダーが夕食を食べていってくれます。どの子も普段からナイフやフォークを使っている様子がなく、「手で食べるお料理が多いのかな?」と思っていました。ところが今日の子は「ハシが欲しい」と言い出し、ビックリ!温が「善より上手いじゃん!」というハシさばき(?)で餃子やふりかけご飯をペロリ!

西蘭みこと