Vol.0251 「NZ・生活編」 〜北から来たアイランダー〜

ニュージーランドで"アイランダー"と言えば、南太平洋の島々からやってきた、ポリネシアン系サウスパシフィック・アイランダーを指します。具体的には、フィージー、トンガ、サモア、クック・アイランドなどの島々から来た人たちですが、普通の日本人だったら名前も聞いたことがないような、更に小さな島から来た人も大勢います。先住民族のマオリは、外見上"アイランダー"と区別できませんが、文化的、歴史的には大きな隔たりがあり、通常は分けて論じられています。

私たちのニュージーランド暮らしは、最初から"アイランダー"づいていました。きっかけは、子どもたちでした。善が最初に見つけた同級生の仲良しはサモア系、温が下校途中で出会ったのはトンガ系アイランダーでした。この2人がそれぞれ西蘭家から一軒置いた隣同士という幸運に恵まれ、あっという間に大の仲良しとなりました。(出会いに関しては「レモン物語」Vol.0247をご覧下さい)この4人に兄弟姉妹や更に近所の子も加わって、寝ている時間以外はずっ〜と一緒という日もあります。
(←ラグビーに疲れたら、みんなでお絵かき!)

なぜ彼らとこんなに馬が合ったのでしょう? 彼らが飛びきりフレンドリーな以外に、私は二つの理由があると思っています。一つは"ラグビー"です。「ラグビーの本場なんだから、さぞや子どもたちは至るところで楕円のボールを転がしてるんだろう」という期待は見事に裏切られ、子どもたちが転がしているのはサッカーやバスケットなど丸いボールばかり。たまに楕円も見かけますが、遊んでいるのは圧倒的に褐色の肌のマオリやアイランダーなどポリネシアン系が多いのです。

残念なことに、ここNZでさえ、「ラグビーは危険なスポーツ」という考え方が定着しつつあり、特に白人家庭では子どもにラグビーをさせなくなっています。それは数字にも反映されており、今や子どもの競技人口ではサッカーが国技のラグビーを上回ってしまいました。その一方で、ポリネシアンの子どもの間ではラグビー人口が増加しており、必然的に楕円のボールを転がす子に褐色の子が多くなっているわけです。

もう一つの理由が"徒歩通学"でした。オークランドの公立小学校は基本的に親が送り迎えをし、日本のような子どもだけでの集団登校や香港のようなスクールバスでの送迎はありません。よほど学校近くに住んでいる子以外は、みな"マイカー通学"となるわけです。西蘭家は学区外のモーテルから通っていた最初の1週間こそクルマで送迎していましたが、新居に移ってからは公園あり、池あり、吊橋ありの通学路があまりにもステキで、雨の日以外、ほぼ徒歩で送迎するようになりました。その途中で子どもたちは顔見知りを作り、3週目には彼ら方から「自分たちで行く!」と言い出しました。

家から学校まで大人の足で15分、子どもがのんびり歩いていけば25分はかかります。ここまで遠いと歩かせている家はかなり少なくなります。息子の白人の同級生の二人は、家が学校から1キロ以内にありながら「小さ過ぎる」、「中学生にいじめられる」などの理由で、家族がクルマで送迎しています。しかし、一般的にきょうだいの多いアイランダーは両親が忙しい上、きょうだい同士で帰れることもあり、歩いている子が多いのです。子どもが6、7人もいれば、親もそんなにきめ細かくはやっていられないのでしょう。ですから家の近所で学校の制服で歩いているのは、褐色の子か息子たちぐらいです。しかし、子どもには大人の目のない登下校の時間がとても楽しいようです。

そんなある日、温が「ママ、日本って島国でしょう?だからボクたちも"アイランダー"?」と聞いてきました。突拍子もない質問でしたが、私はとっさに裏を読みました。「近所に似たような顔つきのアジア人がおらず、学校には韓国人や中国人がいるものの、言語も違って特に連帯感を感じることもなく、息子たちは白人とポリネシアンの二大グループの狭間で、漠然とした帰属意識の欠如を感じていたのではないか?」と。

「そうよ、もちろん。しかもパシフィック・アイランダーよ。日本だって太平洋に面してるんだから。千葉も横浜も目の前の海は太平洋なのよ。でも南太平洋じゃないわね。反対側の北太平洋。だからノースパシフィック・アイランダーかな?」読みは当たりました。温だけでなく、そばにいた善まで喜色満面で、「わ〜い、ボクたちも"アイランダー"♪」と言って、2人で飛び出して行きました。さっそく、みんなにこの事実を伝えるつもりだったのでしょう。

例え褐色の友だちには「ふーん、それで?」という内容であっても、息子たちにとって、これはとても重要な発見でした。彼らにグッと近づき、その輪の中に入ったような親近感を覚えたことでしょう。「日本人もパシフィック・アイランダー」というコロンブスの卵的な言いがかりで、見えない穴が埋まったのです。ラグビーやスケボで泥だらけの子ども服を洗いながら、「"アイランダー"で上等じゃない」と、こちらはしたり顔。

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「マヨネーズ」 白人のキウイに「どうして子どもにラグビーじゃなく、サッカーを習わせてるの?」と聞いたところ、ある人は「ポリネシアンは身体が大きいから、ラグビーだと息子には不利なんだ。本人も怖がってやりたがらないしね。いいね、温は身体が大きくて」と言われ、別の人には「ラグビーだなんて、あんな危ないスポーツよくやらせてるわね。私は絶対やらせないわ」と言われました。息子たちはサッカーもしますが、二人ともラグビーの方が断然気に入っています。"アイランダー"の素質は十分あるようです。

西蘭みこと