Vol.0263 「NZ編」 〜キウイの計算〜

「えーっと、11.89ドルだから繰り上げて12ドルにしようか? 1週間12ドルだったら、1ヶ月でいくらになる?」 私は10歳の温に聞きました。「4週間で、48ドル?」「そうだね。1ヶ月って本当は4週間以上あるから、1ヶ月50ドルにしとうこうか? それだと1年でいくら?」「600ドル。」 小学校6年生(日本では5年生)ともなれば、これくらいの暗算はできます。「じゃ、それが3年だったら?」「1800ドル。」 温は事もなげに言って、「それがどうかした?」という表情。

「見てごらん、これ。」 私は彼が手にしていた大手量販店のチラシにあったパソコンの売り出し広告を指差しました。「買った時に一度にお金を払えば、このパソコンは1399ドルなの。まぁ、1400ドルってことだよね。ところが来年の1月までお金を払わないで、その後1週間12ドルずつ3年間かけて払うと、今計算したみたいに1800ドルになっちゃうのよ。どっちがいい?」「そりゃ今、全部お金払った方。だって400ドルも安いんでしょう?」「そうよ。しかも3年かけて払う方は手数料に25ドル、3年の間にパソコンが壊れたり盗まれたりしたら大変だから、保険にも入らなくちゃいけないの。だから実際に余分に払うお金は500ドルくらいになるかもね。」

「こんな損する方法で買う人いるの?」と、温はチラシをのぞき込みながら聞いてきました。まさにこの質問を待っていた私は、すかさず「いるのよ!キウイの人はかなりがこうやって買ってるの。」と、言いました。彼は驚いたように顔を上げ、「ホント? 500ドルあったら、いろんなものが買えるじゃん」と、信じがたそうに言いました。「そうなの、そう思うでしょう? かなりのアジア人はそう思うかもね。でも、ここに"1週間たったの11.89ドル!"って書いてあるでしょう? これを見て、 "なーんだこんなちょっとのお金でパソコンが買えるなら買っちゃおうかな〜"って思っちゃう人が多いみたいなの。1399ドルだとすごく高い感じがするでしょう?」

「そっかぁ。それって騙してるの?」「うーん、そうとは言えないけど、週11.89ドルで買った人が、500ドルも余分に払うことになるって気づいてるかどうかよね。お店はパソコンが1台でも多く売れれば儲かるわけだから、"1週間たったの11.89ドル!"という広告を見て、みんなが"安い!これなら買える!"と思ってくれればいいわけ。」「騙してるような、騙してないような・・・。」 彼の正直な一言に、私は思わず苦笑しました。

「でも、どうして損する方法で買っちゃうんだろう?」「損かどうかは、考え方によるわね。"500ドル余分に払ってでも、今パソコンが欲しい"という人もいるだろうから。でもほとんどの人は"1週間に12ドルなら買っちゃおう!"と思ってるんじゃないかな? 500ドルも高くなるって気づいてなかったら、確かに損だよね。"そんなに高くなるんだったら要らない"って思う人もいるかもしれないから。温くんだったら、どっちで買う?」「もちろん、お金貯めて1399ドルで買うよー。もったいないじゃん。」「ママもそうするな。持ってるお金で買えないんだったら、貯まるまで我慢するよ。家とかどうしても一度に払えないものは仕方ないけどね。」

「どうして高くなるのに気がつかない人がいるの?」 「そこがこの国の問題だと、ママとパパは思ってるの。分けてお金を払ったらいくらになるかの計算は、温くんにでもできるくらい簡単でしょう? でも、みんな、あまり比べてないみたいなんだよね。"後からお金を払えば、その間銀行にお金を預けておけるから、銀行から金利がもらえて得する"って言った人もいたけど、銀行からもらえる金利より、お金を借りるために払わなくてはいけない金利の方が絶対の絶対に高いので、それは得にはならないのよ。」

「よく"Interest Free"、"No payment till 2006"って広告に書いてあるでしょう?"Interest"は金利のことだから、"Interest Free"は金利がないってことだけど、それは値段に最初から金利が入ってるからなの。このパソコンは一度にお金を払えば1399ドルで、3年かけて払えば1900ドルくらいになるでしょう? こうやって値段が分かれてるのは珍しいのよ。最初から1900ドルで売ってるものだって、たくさんあるんだから。それって、知らない間に金利を払わされてるようなものなのよ。」

「このパソコンは来年1月からお金を払い始めなくちゃいけないけど、冷蔵庫やバーベキューセットだと2006年からでもOKっていうのがいっぱいあるの。そうするとお金を払い始めるまでの金利も後でまとめて払うから、もっともっーと金利を払わなくちゃいけないの。値段の40%ぐらいが金利になっちゃうんじゃないかな? 逆に言えば、まとめてお金を払えばその値段の半分ぐらいで買えるってこと! 気がつかないうちにすごく高いものを買ってるんだよ。わかるかな?」「うん。でも、どうしてキウイは計算しないの?」 私はこの素朴な質問への答えに窮してしまいました。(つづく)

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「マヨネーズ」 日本で、小中学校の校庭の芝生化が注目されているそうです。すでに1119校が「緑の校庭」を実現しているとか。けっこうな話です。ここNZでは当然ながら、校庭はみんな芝、芝、芝。気候は日本とほぼ同じなので、"経済効率"などというものに縛られなければ、日本でも可能な光景です。芝生化した学校の校長先生が、「芝生を走る子供は表情が豊かで明るい。緑は目にも優しいし、私たちの心も安らぎます」とおっしゃってましたが、まったく同感です。子どもはただただ屈託のない笑顔+裸足で駈けずり転げ回り、気持ちの良さを全身で表現してくれます。信じてみませんか?緑のチカラ。
(←大人も子どもも芝の上でのーんびり。学園祭のひとこま)

西蘭みこと