Vol.0267 「生活編」 〜渡る世間はイヌネコばかり〜

先日、可愛いラブラドールを飼っているお宅にお邪魔しました。犬、特に大型犬にとんと縁のない私ですが、愛くるしいつぶらな瞳、ツヤツヤの美しい毛並みをさんざん愛でてきました。とても賢そうな犬の一挙手一投足を眺めながら、つくづく「自分とは相通ずるものがないなぁ」と思いました。私は猫が好きというよりも、「ネコそのものなんだ」と改めて自覚した次第です。帰り道、「ひょっとして人の性格は"ネコ格"と"イヌ格"に分かれるんじゃないだろうか?」と思い当たり、身近な人を「あの人はイヌ、この人はネコ・・・」とやっていくと、面白いくらいきれいに分かれました。

どういうことかと言うと、"イヌ格"は絶対的に他者を必要とする、"かまって欲しい"と思う人々、一方の"ネコ格"は基本形が一人の、"放っといて欲しい"と思う人々です。"イヌ格"は「可愛がられたい」「愛されたい」「遊んで欲しい」「誉められたい」「認められたい」と常に相手を求めている上、「もっと○○したい」「△△に行きたい」とたくさんの要求も持っています。しかし、要求を満たすためであれば、信じがたいほど健気につくし、気に入られるように精一杯努力し、痛々しいほど辛抱することもできます。すべてが自己と他者との関係で成り立っている人々です。

ところが"ネコ格"はこれとは正反対で、ほとんど他者を必要としない独立独歩な性格です。ネコというものは子ネコでもない限りそれほど相手をして欲しい、遊んで欲しいと思っている風はなく、抱かれるのを嫌がったり、昼寝の邪魔になるから一人にして欲しいといった態度です。エサをもらうのもトイレの掃除も、「飼ってるんだから当然でしょう?」といわんばかり。散歩に行きたいがためにリードをくわえて飼い主の周りをウロウロしたりは絶対にしません。
(←手のかからない共同生活者)

必要以上に食べたり飲んだり鳴いたりもしません。いつもその辺を飄々と音もなく歩いているか、これ以上小さくなれないほど丸くなって場所を取らずに静かに寝ているかです。要求がない分、"ネコ格"が必要以上に相手につくすこともへりくだることもありません。手間もかけさせません。その辺はよくよく心得ており、他者と同居しながら自分の領分にこぢんまりとした生活を築いている、手のかからない共同生活者なのです。

「それじゃあ、一緒にいても面白みがない」と思う方は、多分"イヌ格"でしょう。こういう人は本物のイヌを飼うか"イヌ格"の人と暮らし、お互いの要求を聞き入れながら、自分の要求も満たし、持ちつ持たれつ喜びも悲しみも分かち合いながら、ぴったり寄り添って濃く甘くやっていくのがいいのではないかと思います。"ネコ格"は誰かといるのは決して嫌いではありませんが、"べったり"と"干渉"はなにより苦手です。

"ネコ格"がネコを飼ったり、別の"ネコ格"と暮らしたりする場合、根本的にお互いを尊重しているため、見た目には非常に淡々とした関係に見えます。はなはだしくは没交渉のようでもあります。しかし、自分やその考え方が尊重されていることには非常に恩義に感じており、心の中では相手に敬意を払っています。ただしそれをいちいち言葉にしたりはしません。ネコ同士であれば、その辺はわかりあっているのです。

ただし、これが"ネコ格"と"イヌ格"の組み合わせとなると、関係は千差万別になります。"イヌ格"が「本当に愛されてるんだろうか?どうして何も言ってくれないんだろう?」と心配する一方で、"ネコ格"は「どうして自分でできることまでこちらがしてあげなくちゃいけないんだろう? それに"ありがとう"と言っておきながら、今度はこちらができることをわざわざやってくれ、"ありがとうは?"と要求するとは!」と、複雑な関係に混乱していたりします。

「おいしくてお洒落なピザのお店を見つけたから、連れてってあげるよ!」とイヌが言えば、ネコは「別に今は、ピザは食べたくないなー」と、正直に思ったりするのです。ただし、これを言葉にしてしまうと、普段からの態度と相まって横柄なヤツと誤解されることも重々承知しており、究極の平和主義者でもあることから、「うん。ありがとう」と従います。これぐらいの処世術は持ち合わせているのですが、イヌにしてみれば、「きゃー♪お洒落なお店でピザ?行きたぁーい♪」と、もっと熱烈な反応が欲しいところ。

しかし2種類しかいないとなると、男と女のようにいたるところで出会いがあります。なんの因果かネコがイヌを飼ってしまいその要求の多さに息切れしながらも、未知の生き物を一生懸命世話することもあれば、イヌがネコと結婚して、手ごたえのなさに内心がっかりしながらも相手のミステリアスなところには惹かれ続けることも・・・。こうしてお互い微妙にすれ違いながらも、屈折した関係を維持してなんとか渡り合っていく2匹たち。かくして巷はイヌとネコで溢れ、今日もささやかな不満をかこちながら同じくらいささやかな幸せを噛みしめ、平和な営みを続けているのです。

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「マヨネーズ」 興味深いのはネコ好きが必ずしも"ネコ格"とは限らないことです。イヌ好きの"ネコ格"もいます。西蘭家の場合、私以外は全員イヌと見てるので、私はイヌ好きのネコということになります。夫はネコ好きのイヌの典型で、「まっ、キミの好きにしたら」と鷹揚なことを言いながらも、結果的に自分の意見が通らないことに、"ささやかな不満をかこって"もいるようです(笑) 私は3匹のイヌたちと本物のネコ2匹の世話に追われ、誰にも放っておいてもらえず、「時間がニャーい」と叫び続ける天然ネコです。

西蘭みこと