Vol.0276 NZ・生活編 〜オタラで逢いましょう その3

南オークランドのオタラ。朝7時。フリーマーケット(フリマ)に参加しようと、5時半から場所取りに並んでおきながら、その時点で参加できるのかどうかすらわからずにいました。外は容赦ない雨。場所が確保できたところで、12時までに場所代の30ドル(約2200円)を回収できるのかどうか。軽い気持ちでやってきたニュージーランドでのフリマ・デビューは、かなり厳しい展開になってしまいました。クルマで待つ家族に電話を入れようかとも思いましたが、何と説明したらいいのやら。電話がないところをみると、3人でぐっすり眠り込んでいるのかもしれません。

場所の振り分けをしていたポリネシアン系の大柄な係員は、「ここでいったん終える。続きは後だ。」と唐突に告げオフィスに戻ったかと思うと、すぐにホールの外に出て行ってしまいました。何人かがオフィスに入り、別の係員に問い合わせをしています。30人近い人や会社の名前が読み上げられたにもかかわらず、私は名前を呼ばれませんでした。「ひょっとしたら、昨日の電話で残しておいた名前がリストに入っていないのかも」と思い、オフィスで聞いてみることにしました。

「理由は何でもいい。とにかくここから出ろ。」 若いポリネシアン系の係員が、先に入っていた華人系の男性2人にカウンター越しに言っています。言葉はこれ以上ないほどストレートでしたが、態度はさほど横柄でもありませんでした。不思議なくらい嫌な感じがしません。ほとんど英語を解さない人たちにはこれくらい単刀直入に言わないと、コミュニケーションが図れないのかもしれません。「わかったか?ここから出るんだ。場所の振り分けは俺の担当じゃない。わかったか?」 言われた2人も特に憤慨した様子もなく、中国語で話しながら素直に出て行きました。

私の番です。「申し訳ないんですが、リストに私の名前が入っているかどうかを確認していただけませんか?」 一応、英語でコミュニケーションが図れることを示すために、意識的に丁寧に聞いてみました。彼はジロリと私の顔を見たものの、「理由は何でもいい。とにかくここから出ろ」とは言わず、「ここにはリストはない。」と言いました。確かに大柄な年配の係員が持ち歩いていたファイルは、カウンターの周辺には見当たりませんでした。「外で待つんだな」と言われ、引っ込むことにしました。

最小限の会話。実際に言葉を交わしてみると、態度はぶっきらぼうでも相手を見下しているわけでもないので、強い語調が嫌味に聞こえませんでした。彼の言っていることを理解しているのが見て取れたのか、私に対しては"Understand?"と連発することなく、返答だけをよこしてきました。白人不在、ブロークンな英単語のやり取り、お互いに笑顔はないものの緊張感もなく、彼らはこうして毎週同じことを繰り返しながら、着かず離れずやっているのでしょう。

そうこうするうちに年配の係員がファイルを小脇に外から戻り、「今から場所の振り分けに行く」と言いました。ざわめきが起こり、みんなの顔が色めき立っています。ホールの外でタバコをふかしていた青果商のおじさんは、数十人を従えてホールから出たところの係員にさっと寄り添い、見上げるようにしながら話しかけているではないですか! 大柄な係員が大股で歩くと、後を行く私たちは心持ち小走りになってしまいます。私は素人らしく列のしんがりを歩いていきました。

まずは青果コーナーへ。新鮮な果物や野菜が山積みにされ、雨に濡れて一層瑞々しく輝いています。売っている人たちは競って景気の良さそうな声を張り上げ、雨の中、客引きに余念がありません。そのカラフルで活気あふれる一角にコンクリートを剥き出しにしたまま、誰も出店していない場所がぽつんと一ヶ所残っていました。クルマも通れるほど幅広い道に面した、かなりいい場所です。係員が脇に張りついている青果商にこの場所をあごで指すと、彼は揉み手しながら喜び、すぐにトラックへ戻るべく、駐車場の方に姿を消しました。

残った私たちは店が鈴なりになった細い道に入りました。ところどころに虫食いのように出店のない場所があります。係員は見知った華人たちの名前を呼びながら、空いた場所をあごで示しています。名前を呼ばれた人たちは嬉々とした表情で何度もうなずき、次々と姿を消していきます。こうなっては一刻も早く店を出したいところです。どこも定位置を確保している人たちに挟まれた、人通りの期待できるいい場所ばかりです。

こうして人数が半分ぐらいになったところで、私たちはマーケットの外れに出ました。そこから向こうは街路樹が植わっているばかりで、人出も目に見えて少なくなりました。先頭を歩いていた係員はおもむろに足を止めると、「今日はクリスマス前の今年最後の開催日だ。人数も多いことだし、特別にここも出店スペースにしてやろう。ここでもいい奴はいないか?」と言いました。すでに2時間待った私にとり、場所の良し悪しよりも、あるなしの方が遥かに大事だったので迷うことなくサッと手を挙げました。しかし、挙げたのは私1人でした。(つづく)

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「マヨネーズ」 オタラの顛末報告が終わらないうちに、明日は東オークランドのセント・へリアスという所でクラフト・マーケットに参加することになりました。家からすぐの場所なので助かります。今度はお洒落なビーチというロケーションで、前回とは趣が異なるものになりそうです。急に決まった話で、売り物が揃うのかどうか。これから勝負^^? 

西蘭みこと