Vol.0282 NZ・生活編 〜オタラで逢いましょう 最終回〜

「ほんと?」「うん、ボク見たよ、何回も。」 大雨の中、オタラのフリーマーケット(フリマ)に初参加したはいいものの、店開きまでにかれこれ2時間半を費やし、時間は8時になっていました。その間、次から次へといろいろなことが起きました。今度は隣の中国大陸系の洋服屋で、10歳ぐらいの男の子が父親らしき男性に何度も殴られていたというのです。私は彼らの手際の良さに舌を巻きながらも自分の準備に追われ、突然吹き込んで来る横殴りの雨に右往左往しつつ、まったく気づきませんでした。

「これで殴ってたんだよ。痛いよねー?」と言って、10歳の温はこぶしを固く握って見せました。「どうして?」と聞くと、「テントの張り方がヘタだったんじゃない。あの子がおじさんの反対側を持ってて、何か怒鳴られてたから」 息子はかなり良く見ていたようです。自分と同い年くらいに見えるアジア人同士のせいか、余計気になったのかもしれません。彼ら2人の物慣れた様子も、モタモタしている母親と違って物珍しかったのでしょう。

「ママ、これって"チャイルド・アビュース"?」 "子ども虐待"という日本語を知らない彼は、その部分を英語で言いながら、ハッとしたように男の子に聞こえなかったか横目使いで確認していました。「なるわよ。あの人がお父さんでもね。殴られてもいい子どもなんていないんだから。」「じゃあさ、あの子、子どもホットラインとかに電話すればいいのにね。」と、思わぬことを言い出しました。きっと学校でそう教わっているのでしょう。びっしり並んだ婦人服越しに見える男の子は、背中を丸め、何事もなかったように「ゲームボーイ」の小さな画面に夢中になっています。

父親らしき男性が帰ってくる気配はなく、その後も男の子は一人で店番をしていました。どうやら家族で他にも店を持っているようです。しかし、お客が入ってくると、この小さい店主はしっかりその後を歩きながら、「これが安い」「あれが新しい」と、大人顔負けのセールスをしています。片言の英語ながらツボを押さえたトークで、十分事足りているようです。そのうち彼の学校の先生が偶然通りかかり、「ずい分、英語が上手くなったわね」と言われていました。そんな時の表情は、さすがに普通の少年でした。

「覚えておきなね。子どもを殴るのは親でも絶対にいけないことだけど、殴る親も殴られる子どももいるってことを。でも、あの子は殴られてもケロッとして、一人で店番してるでしょう?逞しくなるわよ。」 私は温の質問には直接答えないまま、そう言いました。男の子が学校で教えられた通り、ニュージーランド版「子ども110番」に電話する可能性はかなり低いでしょう。暴力を肯定するつもりは毛頭ありませんが、彼らの間には殴っても崩れない、しっかりとした絆があるような気がします。長年、中華圏でそんな関係を目撃してき ました。

10時を回わるとやや人出が増えてきました。しかし、大粒の雨が降りだすと、買い物客はさぁーと屋根のある店(隣の少年の店とか"ゼロ番先生"のところとか)に駆け込み、通りに人がいなくなります。私と温はその間、パラソルが飛ばないよう2人で柄を握り締めて踏ん張っているという有様。あまりの寒さに夫にコーヒーを買ってきてもらい、紙コップで暖を取りながら店番を続けました。

フリマは中古品や古着がたくさん出るので、「単価の高いものは売れない」というのが、香港時代の教訓でした。ですから持ってきたものはピアスやリングなどこまごましたものばかりで、平均単価は2、3ドル(約150〜220円)。十数個売れれば、場所代の30ドル(約2200円)が出ます。こんな天気ですから、場所代が回収できれば御の字でした。

フリマが終わる12時直前になると、洋服屋の子どもはせっせと店じまいを始め、いつの間にか戻っていた父親らしき人と、あっという間にテントをたたんでしまいました。彼ら2人は、私の目にはごくごく普通の中国人親子に映りました。子どもは中国人らしい大声で、強風でテントが倒れそうになったことや売上の話を盛んにし、本当に小さい商売人のようです。反対側の"ゼロ番先生"は朝の7時半から「帰る、帰る」と言ってはお客を急かしていましたが、私たちが帰る時点では 強気に商い中でした。

私は最終的に場所代を回収し、夫と私2人分のコーヒー代、「アーバン・サモア」というサモア系の雑誌代(これがかなりオモシロイ♪)がチャラになったくらいのところで終わりました。最後の最後まで雨にたたられましたが、貴重な体験ができ有意義な半日でした。しかし、「もうオタラは勘弁して〜」という家族の率直な意見もあり、今後は「売る人」ではなく、「買う人」として出かけようと思います。天気にさえ恵まれればあのトロピカルなアカるい雰囲気はいいものです。みなさんもぜひ、オタラで逢いましょう♪

(←晴れ間には平和そうに見える西蘭ブース。レインジャケットを羽織ったままで15分置きにやってくる暴風雨に備えました。寒かった〜)


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「マヨネーズ」 ところが、話はこれで終わらず。なんと私たちのクルマは駐車禁止の場所に停まっていたとかで、違反切符を切られてしまいました。これがなんと、60ドル!(場所代の2倍!) 切符を切られた時間は7時37分で、まさに搬入直後数分の出来事。前後のクルマも切られており(中には二巡目のクルマも。うちも間一髪でした)、どうもあそこに停めていた素人さんは一網打尽だったようです。思わぬコスト倒れで、本当にオタラ出店は二度とない^^? 長い間のお付き合い、ありがとうございました。

西蘭みこと