Vol.0287 NZ・生活編 〜Listen carefully−耳を澄まして〜         2005年2月23日

「ねぇ、こうやって英語でしゃべってるのって疲れない?」 
先日、我が家で香港駐在経験のあるキウイたちと、ささやかなパーティーをしていた時、ゲストの1人が興味深げに聞いてきました。もう1人の友人も、
「日本語だったら考えなくても話せるでしょう? 大変だと思うわ。」
と、すでに同情モード。2人とも香港での生活を始め、多くの外国人が片言からネイティブ並みの英語を話すのを見聞してきており、いつか誰かに聞いてみたかったんでしょう、
「英語を話すのは疲れる?」
と・・・。

「疲れないと言えば嘘になるけど、それほどでもないかな?」 
私は正直に言いました。
「こんなにブロークンな英語でも長年の慣れで通じさせてしまえるから、少しでも正確に話そうとあまり努力してないのよね、実は。だから、それほど疲れないかも。」
と、笑いながら墓穴を掘り進めると、「すごく疲れる」というネガティブな答えを想定していた2人は、とても意外そうでした。私の場合、英語が第二言語ではなく、中国語に次ぐ第三言語であることも負担の軽減に影響しているかもしれません。母国語以外での奮闘は、むしろ中国語やその次に習ったフランス語で経験しました。

「それよりも、"不完全な英語を聞き取らなきゃいけない相手の方が疲れるんじゃないかな?"と、心配になっちゃうんだけど、どうかしら?」 
今度は私の方が常々聞いてみたかった質問を投げかけました。
「露骨に困ったそぶりを見せたり、嫌そうな態度をとったりすれば"人種差別"って言われちゃうでしょう? でも本当に何を言ってるのかわからない時って、やっぱりあるわよね?」 
2人は曖昧に苦笑しながらも、
「そんなことはない。」
と、優しく、かつ友だちらしく否定しました。

彼女たちは海外生活経験がある分、ネイティブ・スピーカー以外との交流があり、完璧でない英語を聞き分ける耳はかなり鍛えられているはずです。完全な英語しか耳に入らなかったら、香港では暮らしていけません。しかし、ニュージーランドで暮らし、特に外国人との付き合いがなかったり、年長者だったりすれば、なかなか許容範囲の広い耳にはなりません。というのも、ここで暮らし始め、英語での会話でパニックになっているのが、私たちではなく、相手であることがよくあるからです。

普段ブロークンな英語を聞く機会のなさそうな人だと、私たちのようにどこから見ても100%のアジア人にいきなり話しかけられると、それだけでかなりうろたえます。何語を話しているのかさえ、とっさに判断できない場合もあります。英語で聞いているのに、ビックリ眼で
"Do you speak English?"(英語を話しますか?)
と聞かれることもあります(笑) 

すぐに、
「そうか、英語を話してるんだ!」
と気付くと、親切な彼らは真剣な表情で身を乗り出し、全身を耳にして聞き取ろうとします。 そのうち、
「なんだ、けっこう言ってることがわかるじゃないか!」
と安心すると、乗り出した身を引いて落ち着いてきます。

一通りのやりとりがあって、文法やアクセント、使っている語彙に難はあるものの、とりあえず意思の疎通が図れたとなると、彼らはつい気を許してスラングをまぶしたジョークなど飛ばしてきます。親愛の情を示したつもりでも、アジア人はここでハタと行き詰まってしまうのです。打ち解けた雰囲気が急にしらけ、人によっては気まずくなったり、曖昧に笑ってその場を離れたりもするでしょう。せっかくのなごやかムードが台無しです。踏んでいる場数が違うと、終わり方もさまざまです。

しかし、所詮はネイティブ・スピーカーではないのですから、私は「これで良し」としています。わかることはわかっても、わからないことはわからないのです。そこを気にし始めたら切がありません。例えそれが彼らの仕事であったとしても、不完全な英語に誠意に付き合う相手の忍耐に感謝しています。本当はわからないのに、わかった振りをしているのは、彼らかもしれません。どこにあっても、
「あなたの言っていることが全然わかりません。」
と告げるのは、なかなか勇気がいることですから。

Daer Kiwis, listen carefully!
海外からの移民は小さからぬ夢をかなえ、それまでの生活を見切ってここまで来たのです。ですから、かなりの不便には甘んじる覚悟で来ていると思います。少なくとも私たちはそうです。その中で私たちがあちこちでかかわり、交渉したり、説明したり、尋ねたり、申し出たり、主張したり、頼んだりした時、どうか耳を澄まして下さい。聞き取りにくくても、完全でなくても、私たちは英語で交渉し、説明し、尋ね、申し出、主張し、頼むしかないのです。

新しい生活を始めるのは、たやすいことではありません。しかし、私の知る限り、キウイは本当に優しく、フレンドリーで、人種差別も非常に少ないと思います。 "OE"(注:「オーバーシーズ・エクスペリエンス」=海外生活経験。キウイはこれを非常に重視)で同様の思いをした人がいるからかもしれませんが、民族的に人の痛みのわかる、献身的な人たちなのだと思います。私たちが劣っているのは英語力やここでの生活習慣への理解であり、認められて移住してきている以上、それ以外で特に何かを引け目に感じることはありません。どうかご理解ください。そして、私たちに耳を済ましてください。

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「マヨネーズ」
「オーシーツクツク、オーシーツクツク」と庭中がツクツクボウシの声で溢れています。夏の終わりを生き急ぐ、壮絶な鳴き方です。下半身を止まっている木に打ち付けカタカタカタカタ音までさせ、短い生と最後の残光を謳歌しています。

夜になれば一転、コオロギの大合唱。セミの抜け殻を埋めて地に返しながら、見上げる秋の空。


(←洗濯物干し台の柱だけでも10匹分以上の抜け殻が・・・短い時間を楽しんでね)


西蘭みこと