Vol.0289 生活編 〜多動微動

ニュージーランドに移住して早7ヶ月が過ぎました。最初の頃こそ1日1日を味わうように深く心に刻みながら過ごしていましたが、子どもが学校に通うようになり、あっという間に日常生活に引きずり込まれてしまいました。その中で、たった4人の家族が面白いほど二手に分れました。2組とは、夫+善の「多動組」、私と温の「微動組」です。前者が生活一新を機に活動の場を広げ、朝から晩まで動き回っているのに対し、私たち「微動組」はその逆です。活動やお付き合いを絞り込み、ややもすれば引きこもり、めっきり動きがなくなりました。もともと両組とも容姿や食べ物の好み、物事への取り組み方など共通するところが多く、分れ方も自然でしたが、ここまで対照的になるとは!

新しいもの好きながらケチでもあり、最終的には気に入ったものにじっくり取り組む「多動組」。あまり器用ではないものの、驚くべきド根性で天然体育会系。ウサギとカメなら完全にカメ。勝利を手にします。幸いここNZはスポーツが盛んで、無料もしくはかなり低料金で楽しめるため、身体を動かすことが大好きな2人はスポーツ一辺倒に。「微動組」の私は彼らのスケジュールに合わせ、昼食や夕食を時間通りに用意するだけで精一杯。

夫の場合、毎朝7時半から5〜6キロのジョギング、月・水曜はラグビーの練習(生涯最もハードな練習を40代目前になってやってます)、土曜は今まではソフトボールでしたが、これからはラグビーの試合へ。日曜はタッチラグビー(タックルのないラグビーのフィジー系チームに参加) 暇があれば、ジムへ。
「なんでオレってこんなに鍛えてんだろ?」
と自問する様子はかなり満足気。「微動組」にはわかりにくい世界です。

善の場合、なぜか突然「メイポール・ダンス」というヨーロッパの伝統的フォークダンス・チームに入り、リボンを持って20人の女の子に混じって踊る日々(男の子は彼含め2人のみ)。毎朝8時から50分の朝練があり、これから週末は月数回、どこかのイベントでフリフリのブラウスの牧童スタイルで踊ることに。

今のところ、放課後は火曜の柔道、木曜のスカウトのみながら、来(きた)るラグビー・シーズン中は2つのクラブを掛け持ちし、三度の飯より好きなラグビー三昧になるそう。これで水・木曜が更に埋まる予定(木は夕食持ちでスカウトと掛け持ちか?)。土曜はお約束の対抗試合、日曜はダンスで予定満杯。
(←みんなが「なぜ善が?なぜダンス?」と首をかしげていましたが、とっても楽しそうで今は納得)

一方の「微動組」。気に入ったことには多大な情熱をつぎ込むものの、それ以外には非常に鷹揚。お金にも無頓着で、あってもなくても困らないタイプ。ウサギとカメなら間違いなくウサギ。ただし、負けても(本当は勝っても)屁とも思わない独立独歩。温の場合、興味がスポーツからスカウトへと急旋回。スカウトでやるすべてのことに首を突っ込み始めました。その結果、皿洗い、料理、裁縫、組みロープ(水上活動での基本)と外で身体を動かすより、室内で指先を動かすように。もともと本好きでもあり、ゴロゴロしながら推理小説を一冊読んでしまったり、MP3でキウイ・ポップスを聴きながら、レゴ社の組み立てロボット「バイオニクル」を組み立て直し、1人の世界へ。

今や「微動組」の大御所となった私。「微動」どころか「不動」じゃないかという日も(笑) 外出が庭までという日もあります。しかも、その庭でさえ、しゃがみ込んで草むしりをしていたり、猫の額ほどの家庭菜園で植え替えをしていたり。室内でもパソコンの前だったり、ビーズのアクセサリー作りやカーペットの雑巾がけなど、座ったりしゃがんだり。最近は人とお会いするのも自宅のテラスで、12月以降で延べ30人以上の友人・知人とお茶や食事を楽しみました。旅行に来た姑一行3人も滞在中は毎日ここを訪れてくれました。

善はどう考えても、このまま突っ走っていくでしょう。もう誰も彼を止められません。本人は、
「ラグビーでオールブラックスになる。ダメだったら日本代表でもいいかなぁ。」
とむちゃくちゃ強気、呑気、無邪気。しかし、この素朴な純粋さは一度失ってしまったら二度と戻ってこないので、親としては、
「いいじゃーん。絶対なってね。楽しみにしてるよ。」
と、焚きつけるばかり。温はすでに、
「一生スカウトやる!」
と断言しており、世のため人のために尽くしながら、真のリーダーを目指して自己鍛錬とトレーニングに励む覚悟のよう。

私も仕事を辞めた後は、しばらく「多動組」でした。当時はSARS回避で日本に居たこともあり、貴重な滞在の寸暇を惜しむようにあれこれ欲張り、運転免許まで取ってしまいました。香港に戻ってからも物珍しさと解放感から、ずい分あちこち出かけました。習い事、ボランティアと、勤め人時代にはかなわなかったことも片端からやってみました。それが1年続いたところで移住し、今は完全に「動」から「静」へ。職を辞した反動を脱し、より自然な姿に変わったようです。夫は今まさに、脱サラの自由の息吹を満喫しています。

スピードもボリュームも違う4人が上手くやっていくには、とことん相手を尊重することでしょうか? 走り出したら止まらない父子を見送り、スカウトの制服にアイロンをかけながら、庭の草木を誰はばかることなく愛で、遊びに来る小鳥のヒナが孵ったのを喜び、1人の時間を慈しんでいます。またいつか「静」から「動」へと軌道修正することもあるかもしれず、今はひとまず慎ましくも心穏やかな日々を楽しむことにします。

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「マヨネーズ」  「善がコレ飼ってもいいかって、ビニール袋にネズミ入れて持ってきたぞ。」
と夫。
「・・・・・」
驚いて声も出ない私。
「ダメって言っといたけど。」
と淡々と言う夫。

「多動組」の2人には、それほど突拍子もないことではない様子。後で善に、
「ネズミなんて汚いのよ。触っちゃダメ。」
と言うと、
「大丈夫。"house rat"だからおうちで飼ってもいいヤツなの。キレイだったよ。」
"house rat"って、まさに"家ネズミ"!ペットじゃないでしょうTT

西蘭みこと