Vol.0298 NZ・生活編 〜同じアホなら回さにゃソンソン♪ その4〜

人から人へぐるぐる回っていくうちに「ゴミ」が「ゴミ」でなくなる瞬間。私は感動と感激に浸りながら夢中でシャッターを切っては、近所を歩き回っていました。普段は住人のクルマしか入ってこないような袋小路にも、見慣れぬ軽トラックやバンが入りこみ、何かの配達のようにあちこちの家で一時停止してはすぐに発進していきます。ものを置いていく代わりに持ち去っていくのが配達とは違います。

探したり拾ったりしている人たちは、みな実に自然で板に付いています。その姿に後ろめたさは感じられません。あごに手をやり真剣に検討している人がいるかと思えば、下の方から何かを引っ張り出しているうちに、きれいに積んであった「ゴミ」の山を崩してしまい、もう一度丁寧に積み上げている人もいます。ベビーカーを押しながら散歩がてらにのぞいている人。上の子は見つけたばかりのオモチャのクルマに跨り、ベビーカーの先を嬉しそうに走っていきます。

近所ながら一度も入ったことがなかった路地を行くと、先ほど見た蛍光ラインの付いた工事用ベストを着た若い男性がブロンドを風になびかせながら、芝を刈っていました。「そうか、彼は芝刈り職人(庭師ではなく芝だけを専門に刈る職業)だったのか。中古自転車の業者じゃなかったのね」と思った瞬間、再び目が合い、お互い思わずニッコリしました。その微笑は通常の会釈を越えた、相通ずる照れ笑いのようなものでした。彼はピンクの自転車を拾うところを、私が見ていたのに気付いていたはずです。物珍しそうに界隈をほっつき歩いているアジア人など、私1人でした。

数日後。早朝から外出し「ゴミ」の山があちこちにできている道を行くと、大きな緑色のゴミ回収車に出くわしました。ニュージーランドでは「ガーデン・ウェイスト(庭からの廃棄物)」と呼ばれる、刈り終わった芝や枝など植物だけを回収する専門業者がいます。この手の緑のトラックはだいたいがそういう業者でした。8時前だったので「こんなに早くから」と意外に思って見ていると、トラックはやや前方で停まりました。

中から同じユニフォームを着込んだ大柄長身、長手長足のポリネシアン系の若い男性3人がわらわらと降りてきました。彼らはすぐ脇のこんもりとした木立のある家の、塀のない庭に入ったかと思うと、すぐに出てきました。なんと全員が、頭の上に椅子を載せ、嬉しそうに飛び出してきたではないですか! 「えっ?庭のゴミの回収じゃないの?」と思っていると、1人が素早く戻り、再び同じ椅子を頭に載せて戻ってきました。全部で4脚。新しそうなカラフルな布張りのパイプ椅子で、その家の前には共布でできたソファーも粗大ゴミ回収用に出してあります。

「そうか!この人たちこの椅子を見つけて木の下に隠しておいたのね。で、仕事に行く前に回収しに来たってわけか!」 獲物をしとめたハンターのように嬉しそうな表情。3人の息の合った素早さ。トラックの上にはやや年配の男性がロープを持って待ち構えています。すべて合点がいきました。あっという間に4脚の椅子はトラックの上に上がり、男性がロープで縛り始めました。ゴミ回収車ですからそれ自体見上げるような高さですが、彼らは更にその上に椅子を運び、寝かせもせず立たせたまま縛り付けています。

「おニイさんたち、いくらなんでも危なくない?」 ゆうに2メートルの高さにある椅子を冷やかし気味に見上げながら私は脇を通り過ぎました。彼らは本当に嬉しそうでまさに喜色満面。英語ではない何語かで盛んに話しながら、わいわいロープをかけています。こちらにまでみんなのウキウキ気分が伝わってきます。みな2年に1回の非日常を楽しみ、金銭を介さずに気に入ったものを手にできたことを素直に喜んでいるようでした。

得した気分。これは個人から業者に至るまで共通した想いでしょう。さらに「ゴミ」になるところのものを瀬戸際で拾い上げ、もう一度蘇らせることができた満足感。これは本人の自覚次第でしょうが、私にとっては「ものへの殺生」を微力ながらも食い止められたことは大きな喜びです。探しものをしつつ目が合った時、ちょっと照れくさそうだったりはにかんだりする人もいますが、お互い「お宝」を手にしながら、知らない同士にしてはなんとも親密な微笑みが交わされます。言葉にはしないまでも、視線の中には「何かあった?」「いいもの見つけたね」という温かいメッセージが込められています。

他人とのほど良いこの距離感。100万人都市の大都会オークランドであっても、ここはニュージーランドなんだと改めて思いました。1人ニコニコしながら「ゴミ」にもらった幸せを噛みしめつつ、ふと、先ほどのトラックを振り返ると、大男達は相変わらず、ああでもないこうでもないとロープと格闘しています。高いところで4脚並んだカラフルなパイプ椅子は朝日を浴びて輝き、遠目には巨大な緑の王冠の、先端で輝く宝石のようでした。カメラがないのが本当に残念な美しい光景でした。


その数日後。昼食近い時間に、聞きなれない轟音が遠くから近づいてきました。「とうとう来たな。」 私はカメラを持って外に出ました。見たこともないほど大きな、道いっぱいのトラックが向こうからソロリソロリと近づいてくるところでした。その周りを小走りの男達が取り囲み、休むことなく次から次へと本当にゴミになってしまったものを放り込んでいます。キャビネットもマットレスもスコップも洗濯かごも何もかもいっしょくたです。「楽しい1週間をありがとう。」 そう思いつつ、私は静かにシャッターを切っていました。 (←やってきたフィニッシャー)

西蘭みこと