Vol.0315 生活編 〜ミセス・ダレカの不思議な家〜

昨年11月に3回にわたってお送りしたメルマガ「ミセス・ダレカ」には、たくさんの反響をいただきました。あれから半年、この家で暮らして10ヶ月になります。1年契約なので2ヶ月以内にはここを出ますが、この家についてもう少し記録を残しておこうと思います。ミセス・ダレカに愛されていたであろう家。「もしかして彼女の魔法がかかってる?」と、何度思ったことか。今ではさすがに魔法も解け、手入れをしないとあっとういう間に大変なことになってしまう、フツーの家です(笑)  まずは引っ越し当初の話から。

入居した8月初旬は真冬でした。毎日のように雨が降り、真夏の香港から来た一家にとっては震え上がる寒さでした。夕方もあっという間に暗くなり、長い長い夜を迎えます。オークランド郊外の住宅街ですから平日は7時を過ぎればクルマの音もしなくなり、11時には明かりが消えてしまう家もあります。雨音か水を打ったような静けさか、夜の気配はふた通りしかありませんでした。

ところが夜半になると、リビングやランドリールームなど人気(ひとけ)のないところから大きな音がすることがありました。思わず夫婦で顔を見合わせ、「泥棒?!」と心臓が止まる思いでした。その音たるや、誰かがドアを開け閉めしたり、椅子を動かすような、聞き間違えようのないはっきりしたものなのです。慌てて見に行っても、ドアも窓もしっかりカギがかかっています。まだ猫もニュージーランドに着いていない頃の話です。物が倒れたり、落ちたりしているわけでもありません。「何だったんだろう?」と再び夫婦で顔を見合わせ、首をかしげ・・・。そんなことが何度もありました。

夫が先に寝てしまっていて、私が恐る恐る見に行ったこともあれば、2人とも寝入ってからあまりの音の大きさに夫が起きだし、家中の戸締りを確認したこともありました。「ずっとマンション暮らしだったから一戸建てだと防犯に不安に感じるのかな?」と、現実的に考えたりもしましたが、音は2人で聞いており、とても空耳とは思えません。しかし、音の出所もわかりませんでした。始めは怖いと思いましたが、だんだん「音の出所を突き止めたい」と思うようになりました。音がするのは決まって誰もいない場所でした。

不思議なことは家の中ばかりではありません。外でも起きていました。引っ越して2、3日経った朝、キッチンに立つとガレージのドアが開けっぱなしになっています。クルマを出し入れする外に面したシャッターつきの出入口ではなく、人が出入りする庭に面した脇のドアです。カギもなくドアノブの調子も良くないので、スケートボードをしまった子どもがちゃんと閉めておかなかったのでしょう。その夜は、私がしっかり閉めて寝ました。ところが翌朝、またドアが開いていました。「風?それとも庭まで誰かが入ってきたの?」 しかし、中にあるものが盗られたり動かされたりした形跡はありませんでした。

その夜もしっかりと閉まっているのを確認して寝ました。果たして翌朝はドアが閉まっていました。「よかった。やっぱり閉め方が悪かったんだ」と思うやいなや、今度は庭を挟んでガレージの反対側にある物置のドアが開いているではないですか! こちらは太いかんぬきを外からかけるので、風や閉め方の悪さで自然に開くものではありません。中は空っぽのままでした。「子どもが、遊んだ後ちゃんと閉めなかったんだろう」と思って2人に聞いてみると、「開けたことはあるけど昨日じゃない、何日か前」という答えでした。

今度は、物置のかんぬきをこの手でしっかり閉めて寝ました。翌朝、ドアは閉まっていました。「な〜んだ、やっぱり閉め方の問題か」と、胸をなでおろし、朝食と弁当を作って子どもたちを送り出しました。いつものように朝食をとったところで洗濯が終わりました。冬は雨ばかりなので洗濯はタイミング次第です。バスケットに山盛りの洗濯物を入れてランドリールームから外に出ると、思わずゾッとしてバスケットを落としそうになりました。

今度は家の周りを被っているレンガについた、床下に通じる小さなドアが全開になっているではありませんか! このドアにも太いかんぬきが付いています。引っ越して来た日に物置代わりにならないか中を確認しましたが、床下の柱が見えるばかりで物を置けそうにはありませんでした。しばらく開けていなかったとみえ、かんぬきは錆び、うんうんやって開けました。子どもが簡単に開けられるとは思えませんでしたが、「遊んでて入り込まれたら困るし、ネコが入っても大変」と、しっかり閉めたドアでした。それが全開に!!
            
(手前左下が問題のドア。階段の左奥がランドリールームのドア→)

夫にはあっさり「知らない」と言われ、学校から帰った子ども達からも「開けたことない」と言われました。開け閉めしたのは私だけでした。「何なの、この家! 夜はガタガタ、朝は順番にドアが開いてて! まるでお化け屋敷じゃない」と思った瞬間、「そうか、お化け屋敷なのか!」と、我が意を得たり。膝を打って立ち上がりたくなりました。その数日後。朝起きると、今度はランドリールームのドアが全開になっていました。(つづく)

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「マヨネーズ」 ミセス・ダレカについては、主婦の方から「見習わなきゃ」という内容のメールを何通もいただきました。(連載はこちらからどうぞ→その1その2その3)私がつらつらと綴ったことをそっくりそのまま信じ、さらにどこの誰だかわからない人を「見習おう」というのですから、その謙虚さに女のしなやかさ、強さ、可能性を感じずにはいられません。こうした素直さ、率直さ、行動力、直観力が人を一歩前へ押し出す原動力になるのでしょう。私も謙虚に学んでいかなくては。

永住権認可でたくさんの「おめでとうメール」をいただきました。本当にありがとうございます。ポツポツお返事させていただきますね。

西蘭みこと