Vol.0317 NZ編 〜不動産チャチャチャーオタフ・ビーチ〜

オタフ・ビーチ。オークランドのシティーとミッション・ベイの中間に位置する小さなビーチ。目の前を真っ白な帆を立てたヨットが、滑るように快走していきます。6月の小春日和。陽の高いうちにビーチに出るにはもってこいの午後でした。「行けばすぐわかるわ。トイレがあるから、その前で待ってて!」と、言っていた友人の言葉通り、小さなビーチにしてはいやに立派な、古めかしいレンガ造りの公衆トイレが鎮座していました。

「これかぁ」と苦笑しながら、その前に立つとすぐに友人登場。久しぶりに会ったので、話題はお互いの近況報告であっちへ飛んだり、こっちへ飛んだり。しかし、いつの間にやら「投資」に絞られていきました。明るいビーチでするにはなんとも似つかわしくない話ながら、彼女が振ってきたので乗ることにしました。
「これからの株式投資をどう思う?」
「お勧めの銘柄ってある?」
「友だちが優良株なら絶対儲かるって言うんだけど・・・」

質問には直接答えず、
「けっこう株やってる? 新規上場するベクターって知ってる?」
と、外堀から埋めにかかると、答えはいずれも「ノー」。なるほど、やっぱりそうか。それならば、
「ここから短期のキャピタルゲイン狙いはリスクが高いかもよ。」
と、話の矛先をずらすと、
「じゃ、不動産どう?今は買い?」
ときました。普段その手の話をしない人なので、「これは誰かに何かを吹き込まれたな」と思っていると、彼女が待ち合わせていたもう一人の友人、私は初対面だった長身の女性がやってきました。彼女こそ、投資話を吹き込んだ主でした。

女3人、潮風にさらされてペンキのはげかかったベンチに座り、うららかな陽の下、思いがけない投資談義に。傍目からみたら年配の白人女性に物慣れないアジア人が英会話の相手でもしてもらっているように見えたでしょうが、実際はほとんど私がしゃべっていました。長身の女性は家を売ったばかりだそうで、聞きなれない片言の英語ながら、やたらに金融用語が出てくる"それらしい"会話に一生懸命耳を傾けてくれました。

「計算しやすいから100万ドル(約8000万円)の家で考えてみましょう。100万ドルの家を貸すとしたら、家賃は週いくらになる?」 
100万ドルの家と言えば、日本でいう「億ション」の感覚でしょう。心理的にも大台に乗った家とそうでない家には開きがあります。友人はまさに100万ドルの家に住んでいるので、打ってつけの例でした。
「最高で1000ドルってとこかしらね。」 
さすがに住人だけあって、すぐに的確な答えが返ってきました。私もちょうど、1000ドルで話を続けようと思っていたところでした。

「そうね、そんなところでしょう。1年をざっくり50週と考えれば家賃収入は年間5万ドル。100万ドルの家だから投資利回りは年率5%。今の定期預金の金利を知ってる?」
と聞くと、さすがに2人ともよく心得ていて、
「それなら定期の方がいいわ。7%近いんだから。」
と、即答しました。
「でしょう? 5%もテナントが見つかっての話。見つからなければ一銭も入ってこないわ。週1000ドルの家賃を気前よく払ってくれる人を探すのは大変よ。どれも大きな家だろうから、周りにいい学校があって、そこに子どもを通わせたい家族とか、対象が限られてくるでしょう?」 
うんうんと素直にうなずく2人。

「それにレーツ(固定資産税)もあるし、メンテナンスもあるし・・・」 と、友人が話を引き継ぎます。
「今はそれだけ買う方が割高ってこと。100万ドルを定期にして年間7万ドルの利息を受け取りながら、家賃が週400ドルの家を一時的に借りたとしたら、年間の家賃は2万ドル。5万ドルのお釣りがくるわ。その間にきっと今よりいい値段で買えるタイミングが来るでしょう。100万ドルの物件が5%値下がりしても5万ドル浮くでしょう? 2万ドルの家賃の元は十分取れるわ。10%下がったら定期の金利と合わせて15万ドルの節約よ。税引き後で考えても、相場を見極める価値は十分あるんじゃない?」

「これはあくまでも現金を持ってて、住宅ローンがない状態で買う人の話。あと短期の不動産相場は今がピークと仮定しての話。ローンを組むんだったり、不動産価格が値上がりしたら話は別よ。でも、これからは金利が下がっていくだろうから、様子を見るのはワルくないんじゃない? 少しでも値下がりすれば、その間の家賃分ぐらい出ちゃうからね。家賃って金額が大きいから払ってると損してるみたいだけど、案外そうでもないかもよ。ただ極論を言えば、家は出会いだから、どうしても欲しい家が見つかって、それが買えるものだったらその時こそ「買い」だと思うな。おっと、そろそろ子どもが帰ってくるから、続きはまたね。今度、"ファイナンシャル・モーニングティー"でもしましょう♪」

と、投資する気満々だった2人の、甘い期待の詰まった熱いアドバルーンを思い切り潰して帰ってきました。「お金は大切なものだからこそ、大切に扱うべき」が私のモットーです。ですから「客に買わせてナンボ」の証券セールスもアナリストも自分にはまったく向いていないというのが良くわかって、金融業界から足を洗ってここまで来ました(笑) ただ培った知識は多少役に立つので、彼女たちのように老後の虎の子を運用しようとする人が熱気球に乗って飛び立とうとする時には、一度は冷や水をぶっかけようと思います。その上で、もちろん「飛びたい方はどうぞ」、なんですが^^;(不定期でつづく)
  (最近、一段と多くなった不動産を売りたい人が業者に委託して開く「オープンホーム」→)

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「マヨネーズ」  「学校チャチャチャ」も完結していないのに、新しいことを始めてしまって(汗) さすがに金利動向の端境期にあるせいか、家を売ろうとする人、売った人、買おうとしている人、買った人、身の回りだけでもずい分動きが・・・。すべての投資は個人の資産内容、投資環境、相場観、投資目的などで千差万別です。同じ状況でも「買い」の人もいれば「売り」の人もいるので、この連載はただの読み物としてお楽しみください。

西蘭みこと