Vol.0322 生活編 〜ライフ・アフター・オイル〜               2005年6月29日

地球上の石油があと何年で枯渇するかご存知ですか? 諸説ありますが、30〜50年というのが一般的なところではないでしょうか。子どもが育つにつれ、そんなことを漠然とながらずっと考えてきました。特に最近は、世界的な資源高、ガソリン代の高騰もあって頻繁に考えるようになりました。日本のオイルメジャーの業界団体「石油鉱業連盟」による2002年10月現在の予想によれば、世界の石油の可採年数(石油を採掘し続けられる年数)は33.3年だそうです。

これでいけば、私は限りなく生きているうちに、息子たちは絶対に、地球上から一滴も石油が出なくなる日に遭遇することでしょう。それがわかっていながら、人類が「その日」に対して抜本的なことを何もせず、手をこまねいているのは驚くべきことです。二世代住宅を建て35年の住宅ローンを組んだり、50年物の超長期債に投資したり、20代の人が「年金がもらえなくなるかも」と心配したりするのに、30年後の「その日」はほとんど問題にされないのです。

いくら採掘技術が向上しても、中国やインドの経済発展が予想以上に進んだり、中東での更なる戦争で油田が荒廃したりすれば、タイミングはもっと前倒しになるかもしれません。かく言う私も、もちろん何もせず座視しているばかりです。一個人には代替エネルギーなど途方もない話で、自宅にソーラーパネルを取り付けるか(借家の身ではそれさえ不可能)、省エネに励むか、外堀も外堀、それが本丸を囲っているのか定かでないような遠い所から手をつけなくてはなりません。しかし、「その日」は必ず来ます。

私が小学校5、6年生の時に社会科で使っていた副教材には、「石油で作った紙」という分厚いトレーシングペーパーのような半透明の1ページがありました。タンカーか何かの設計図だったか断面図だったかが色鮮やかに印刷してあり、「石油から作れるもの」というようなタイトルで、前後のページには石油や石油化学の可能性を謳いあげた文章が、具体的な石化製品の絵入りで続いていたように記憶しています。

授業で副教材を使うたびに、私はこっそりそのページを見ていました。マットに見える紙質、実はツルリとした表面。発色がキレイでとても人工的に見えました。でも、紙は紙です。人が見たり読んだり、記録したり保存したりするためのものです。「こんなものまで石油で作る必要があるんだろうか? 紙は木から作れるのに」 子どもながらにそう思いました。高学年ともなれば日本は産油国ではないこと、石油は中東やインドネシアからタンカーで運ばれてくることくらいは知っています。「そこまでして作る紙って?」

1973年の中東。第四次中東戦争が勃発し、産油国が原油の大幅値上げに踏み切りました。それによって引き起こされた第一次オイルショックは世界中を震撼させ、高度経済成長を謳歌していた日本も大きく躓きます。1962年生まれの私は、その時11歳。親に連れられ、「お一人様一点限り」のトイレットペーパーや砂糖の買い出しに借り出されていました。記憶は曖昧ですが、「石油で作った紙」を幾度となく見ていたのは、ちょうどその頃だったと思います。人工的な鮮やかさに虚しさを感じていたのをよく覚えているので、日本中がパニックに陥っていたさなかか、その直後だったかもしれません。

中国返還後の香港。中国大陸と陸続きの九龍サイドの建築規制は、空港の移転もあって、大きく緩和されました。一部では高さ制限が20数階から60階にまで引き上げられ、ウォーターフロントの埋立地にはオフィスビルと見紛うような超高層のマンション群が続々と誕生しました。「ポケットに穴でも開いてるんじゃない?」と思うほど、ボトボト現金を落としていく中国の富裕層の強い需要が、建物を高く高く押し上げていくように思えたものです。

即金で買う彼らを除き、通常の住宅購入にはローンを組むことになります。香港は不動産の流動性が中古車並みに高い場所ですから、ローンを完済してまで住み続ける人がいたらお目にかかってみたいくらいですが(笑)、いつ売却するにしても購入時に20〜25年のローンを組むことに変わりありません。「オール電化の家をそんなに長いローンで買って、完済する頃に石油がなくなってたらどうするんだろう? 60階だなんて、電気がなけりゃ家にも帰れないじゃない」と、私は誰も考えないようなことを考えながら、ビクトリア湾を挟んだ対岸のオフィスからビルの完成を見つめていました。
(←超高層ビルでも足場は竹なのが香港!無数の竹が鳥かごのようにビル全体を包みます)

Life after Oil(ライフ・アフター・オイル)― 近頃はなにかにつけ、自分で作ったそんな造語が脳裏を過(よ)ぎっていくようになりました。Life after death(ライフ・アフター・デス)が「死後」「あの世」ですから、「油後」ってところでしょうか? 想像がつかない新世界であるという意味では「あの世」でもあります。私たちは日々そこに向かっており、後戻りはないのです。私は息子たちの世代や、その先の子孫が生きていく「あの世」のことを考え続けています。それが親としての私にできる、唯一のことだからです。(不定期でつづく)

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「マヨネーズ」 またまた(不定期でつづく)! 広がる広がる大風呂敷(笑) ホントはこれに加えてラグビー関係の連載もしたいな〜と思いつつ、まったく時間がないまま日々の暮らし、子育て、ネコ育てに追われております。オールブラックスの対ライオンズ戦はまず1勝でホッ。しかし、お互い相手のプレイがフェアではないという論争が尾を引き、とっても残念です。第2戦に期待しましょう。

西蘭みこと