Vol.0326 生活編 〜女の蓄え〜                       2005年7月13日

「相変わらず、こちらは時間に追われる毎日ですが・・・」と、始まった元同僚のメール。最後は「でも、30代はまだ突っ走らなきゃいけないのかな」という、自問の一言で終わっていました。ママになって日の浅い彼女を思い浮かべながら、「多分ね」と、私はパソコンのスクリーンに向かって微笑んでいました。30代で誰もが一度ならず自問する問いかけ。「これでいいんだろうか?将来は?子どもは?夫は?私自身は?」 

私も問い続ける日々でした。41歳で退職するまで連綿と働き、国を跨る引越しや転職でも2ヶ月と間を開けたことはありませんでした。子どもが生まれてからは住み込みのお手伝いさんとの二人三脚で、彼女が休みの日曜日のみサンデードライバーならぬサンデーママに変身し、男性が趣味や気晴らしで厨房に入ったり、ちょっと子どもの相手をすればすぐに「子煩悩」と褒められたりするのと大差なく、料理や子どもの相手に勤しみました。

しかし、仕事を辞すまでの最後の数年は、飢(かつ)えたように「時間がほしい」と思っていました。子どもが成長して一緒にいてやりたいと思うことが多くなったのに加え(この辺はメルマガ「ママの言い訳」の通りです)、 ニュージーランド移住を決めたことで、都会でしか通用しないキャリアを積むより、どこでもどんな状態でも生き抜いていける生活力を高めたいと切望するようになったからです。小さな田舎町に住んだとしたら、金融キャリアよりも、おいしいパンやケーキを焼ける方が遥かに価値あることでしょう。

しかし、職を辞す決心はつきませんでした。東京をしのぐ物価高の香港では、夫と2人で稼いでも入ってきたものが右から左へと消えていくという事情もありましたが、それ以上に、ずっと続けてきたことをスパッと止める踏ん切りがつきませんでした。「このまま続けていても移住の時にはチョン切れてしまう、しがないキャリア」と、現実的に考えてもみましたが、SARSでの日本退避という世紀の珍事に背中を押されるまで、辞表を書くには至りませんでした。

「なぜ辞められないんだろう?」
「なんとなく辞めちゃいけない気がするから。」
「どうして辞めちゃいけないの?」
「うーん、どうしてだろう? 収入がなくなることもあるけど、それよりも途中で投げ出すみたいな気がするからかな?」
「でも、投げ出すものにどれだけの価値がある?」
「確かにそう(笑) こんなことしてるくらいなら、子どもと家にいた方がいいと何度思ったことか。でも、続けてるってことに意味はないかしら?」
「どんな意味?」
「・・・・・・・・・・」                       
                           (迷い続けた香港↑)

こんな自問自答を何千回と繰り返す中、行き着いた答えが「継続は力なり」でした。これ以外、志を曲げてまで仕事を辞めない自分を正当化できる言葉が見つからなかったという事情もありますが、「続けた先に何かあるのでは?」と、ほのかな期待をつないでもいました。自分でイニシアチブを取れないのなら、大人しく何かを待つしかありません。

そのうち40になりました。なってみると、40歳はただ39歳の次の年なだけではないと感じました。間違いなく一段上の大台でした。30になった時も漠然とそんな風に感じていたのを、10年ぶりに思い出しました。まさに不惑。もともと即断即決タイプですが、40ともなれば多少の経験も小金もあります。決めた後、行動に移すスピードが俄然速くなりました。家族は意見が食い違えば足かせでしょうが、味方につけることができれば行動力は4倍にもなります。私は常に後者を選び、意見が揃うのを待ちました。

夢をかなえる40代――。そうか、そのための30代だったのか! 私は大台に乗って早々、そのからくりを覚(さと)りました。30代は思考を止めてまで目の前のやるべきことを夢中でこなし、その中でどんな状況やどんな相手とでも渡り合っていける術(すべ)を学び、家族や友人との絆を深め、経験の蓄えを積む時期だったのです。「何で私がこんなことまでしなくちゃいけないの?」「どうして上手くいかないんだろう?」という時も、諦めず投げ出さずにやっていくうちに、多少のことでは文句も出ず、弱音を吐かないどころか、それを問題だとも感知しないほどタフに鍛えられた時期だったようです。

そうでなければ、遠のいていく20代が恋しく、年を重ねることが恨めしく、若い子に嫌味の一つも出ていたかもしれません(笑) 過去は懐かしみこそすれ、戻りたいとは思いません。いつでも今が一番です。今は30代の経験を取り崩しながら暮らしていますが、ここで蓄えを使い果たしてしまえば、老いた痩せっぽちな50代が待っているだけでしょう。もちろん、40代には40代でやるべきことがあるはずです。まだその入り口を通り抜けたところなので手探り状態ですが、今しかできない蓄えを探していこうと思っています。

「迷ったら動け!」 これが30代に贈る言葉です。夢中で突っ走った分だけ、何かが待っていることでしょう。すぐに変化は起きないでしょうけれど、本当に欲しいものはそんな目先のちっぽけなものではないでしょう? 夢はかなうと信じ、思うところを、究極の王道を行ってください。魂を汚す言い訳、悪口、見栄は無用。フォーティース・クラブのラウンジで待ってます!

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「マヨネーズ」 迷った挙句、離婚したり出産したりした友人で、後悔している人を知りません。それよりも、「何をあんなに悩んでたんだろうね」と高笑いしながら、新しい生活を満喫している人ばかりです。ただし、結婚と転職は別。逃げや見栄がないか、心の底から望むものかどうか、自分の胸に手を当てて考えてみてから、本物ならGO!

西蘭みこと