Vol.0327 NZ・経済編 〜キウイ・ベアの冬支度V−スタグフレーション〜   2005年7月16日

「なんでモヤシは5割も値上がりしたんだろう?」 私はずっと考えていました。理由はいろいろ考えられます。
『売っているスーパーが改装したので、コスト回収に値上げした』
『値上りした電力料金の上昇分をコストに加味し、便乗値上げも実施』
『業者が合併して市場を独占という、夫の"市場独占説"』など。

改装以降かなり注意してきましたが、他の商品ではほとんど値上げは認められませんでした。電力料金の値上げは数パーセントでしたから、温室栽培でも5割の値上げは正当化できないでしょう。前代未聞のモヤシ業者のM&A(合併・買収)は業界間の競合が激しいようにも見えず、どれも決定打にはならず。

日本だったら「5割の値上げ?冗談でしょう?」と、反射的に他メーカーの袋に手が伸びるところですが、ここはニュージーランド。スーパーにモヤシがそれしかないのですから、選択肢の少なさも価格を硬直化させている一因でしょう。しかし、5割増しではさすがに売れなかったのか、3割増し、2割増しと値段が調整され、最終的に2割増しの1.19ドル(約100円)で落ち着きました。私もここで手を打ち再び買い始めました。急激な値上げ理由ははっきりしないものの、「モヤシ・ショック」はこれにて一件落着?! 

ところが、私の思考は止まらず、まさにここが起点となりました。モヤシにインフレの芽を見たのです。現在のインフレ率は2.8%と、中央銀行が目標とする1〜3%の範囲内です。しかし、私たちが移住してきてからの1年間でガソリン代は30%値上がりしています。通勤、子どもの学校の送迎、買い物のようなちょっとした外出、週末の遠出と、ここは日本や香港では考えられないくらいのクルマ社会です。そこでガソリンがこんなに値上がりしたのですから、家計、商品・サービス価格、企業収益に反映してくるはずです。

その上、その間にストライキが頻発し、どれもベアが実現しています。連続利上げにもかかわらず住宅価格は上昇もしくは高止まりを続け、家計はベアと資産価値の上昇で潤い、大型店のバーゲンともなれば、たいして安くもないのにレジには長蛇の列ができ、買い物好きではない私などその長さを見ただけで買う気が失せてしまいます。しかし、大勢の人がカートを山盛りにし、鼻息の荒い買いっぷりです。いずれも大変なインフレ圧力のはずで、物価上昇が3%未満に収まっているなどオークランドにいる限り信じがたいほどです。

仕事が見つかり、給料が上がり、モノが売れ、家が売れ、買い物・外食と消費が進んでもこの低インフレ。その"仕掛け"の一つは間違いなくニュージーランド・ドル(キウイ)でしょう。私たちが引っ越してきてからでさえ、対米ドルで最高17%のキウイ高となり、最近8ヶ月は歴史的高水準で推移してきました。対円でも10数%の値上がりです。キウイ高の分だけ、輸入品価格が割安になりますから、かなりの工業製品を輸入に頼っているNZにとっては願ったりかなったり。ピカピカの新車が街に溢れ返っているわけです。
(不動産をオークションにかけても人が集まらず流れるケースが増えているようです。写真の家は売れたようですが→)

しかも、キウイの上昇はこの1年に限った話ではありません。対円でも1ドル42円だったのが80円をうかがうほど上昇したのは、前回お話した通りです。通貨が短期間に2倍になったのは、その前に売られ過ぎていた反動もあったでしょうが、中国やインドなど新興国での需要増、経済先進国での景気底入れ感など、世界的に資源需要が高まったことがあります。その典型が原油高です。多少の天然ガスは出ても産油国でもないNZまで、「資源国」としてちやほやされ、実際に売っているものは羊毛や羊肉、乳製品なのに、"持てる南半球"が"持たざる北半球"に施しでもしているかのように、崇められてきました。

その結果の好景気。インフレ対策に7度の利上げが実施されました。普通だったら景気が冷えてくるところでしょうが、とんでもない!「高金利通貨♪」と外国人がキウイに飛びついてきました。ほとんどリスクのない定期預金でポーンと気前よく7%の金利を払ってくれるのですから、利上げのたびに海外から資金が流れ込んで来る悪循環に。利上げという打ち出の小槌を振り下ろすたびにキウイ高となり、輸入品が安くなって消費が進み、一方で輸出は苦しくなる。これがいつまでも続くでしょうか? 利上げもそろそろ限界です。

資源高にも限界があります。高過ぎれば需要が減退します。いい例がNZの木材でしょう。高級品種といえども高値のあまり輸出市場で苦戦を強いられ、多数の企業が業績不振に陥っています。酪農家もしかりです。キウイ高による競争力低下に対し、業界団体は警鐘を鳴らし続けています。資源&高金利通貨シナリオの限界がはっきりするような事態となり、気まぐれな海外資金がよそに移ればキウイは反落します。そうなれば、輸入品が自動的に値上りし、物価は一気にハネ上がるでしょう。消費が止まり、不動産バブルがはじけ、ガソリン・エネルギー価格の上昇とともに、急速に景気が冷え込む恐れさえあります。

その反動をこの人口、この市場規模で受け止めるのです。市場が小さい分、モヤシのように他の選択肢は限られています。しかも、NZ輸出の主要産品は酪農品です。通貨安になってもどこまで輸出ドライブがかけられるでしょう? 「今がチャンス!」と年に何回もワインが作れるとは思えません。円安でクルマが売れる日本とは事情が違います。「えーと、何だっけ? すごーい不況でもインフレになっちゃうのって? スタグなんとか? そうそう、スタグフレーション!」 この埃を被った古色蒼然とした言葉を記憶のひだから引っ張り出したとたん、思わず身震いがしました。(不定期でつづく)

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「マヨネーズ」 (不定期でつづく)と言うわりには、けっこう続いてるこの連載^^A でもこういう貧乏神のような話は嫌われます(笑) 先週末お邪魔して一緒にラグビーを見たキウイにも「んなこたぁないよ。不動産は下がるだろうけど」と煙たがられたばかり^^;

西蘭みこと