Vol.0335 NZ・生活編 〜夢へのドライブ−キウイ・ドライバー〜 2005年8月13日 「左折して高速に乗ったらハミルトンに行くんだ、みこと。」 ハミルトンは制限速度の100キロで走ってもオークランドから2時間近くかかる隣の都市。オーソリティーはニコリともしないでジョークをかまし、日本語の名前が気に入ったのかやたらにファーストネームを連呼しています。元警察官(多分)なりの、お堅〜い親しさの示し方なんでしょうか?「ハミルトン?上等じゃない!」 気分は「アイアイサー♪」てなもんでした。 (NZの高速はどこも制限速度100キロ。日本から持ってきたクルマそのままだったら、 キンコンカンコンうるさいでしょうね(笑) 写真は90マイルビーチ→) ニュージーランドの高速道路はすべて無料。日本のような料金所はありませんので、一般道からサッと入れます。進入路の加速車線で速度を上げながら、 「ハミルトンなら自分で運転して行ったことがあるわ。ラグビーの"チーフス"の試合を見に行って・・・」 と、無言の相手に軽口を叩いて本線に入ろうとしたものの、微妙にクルマがつながっていて一瞬タイミングが遅れてしまいました。「あっ!」と思ったものの、けっきょくスルッと入り「まっ、いっか。」と思った矢先、 「オー!ノー、みことぉぉぉ!」 とオーソリティー。 「おしゃべりには反応しないのに、こういうのにはすぐ反応するんだなぁ」と思いつつ、自分でもさすがにいただけなかったので、内心小声で「アイアイサー(素)」 「ダメだ、ダメだ。遅すぎる!すぐに次の出口で降りるんだ。」 10数キロ走ったか走らないかですぐに次の出口。減速車線に出るや制限速度50キロの表示。元々100キロも出ていなかったので表示の脇を通過する時は、きっかり50キロまで減速していました。すると、後のクルマが「プープープー」とクラクションを3回鳴らしてきました。 「左折だ。なんでクラクション鳴らされたかわかるか?」 「制限速度を守って50キロまで減速したから?」 「そうだ、その通り!」 と言うと、オーソリティーはグッと私の方に身を乗り出し、「プープープー」と直進していった後続車に3発お見舞いしました。「おぉ!さすが元警察官!」と思ってニヤニヤしていると、 「でも、みことは遅い。遅すぎる!」 と、こっちにも振られてきました。あちゃ〜☆ 確かに本線への入り方はまずかったので素直に反省していると、 「もう1回高速だ。ちゃんと君の運転技術を見せてくれ!」 「やった、こう来なくっちゃ。」 今度は高らかに「アイアイサー♪」 2回目は上手く行きました。その後はイギリス文化圏ではラウンドアバウトと呼ばれているロータリーへ。「変更されたばかりのルールをチェックするんだろうな〜」と思いつつ、指示通り右左折せずに半円走って反対側へ。新しい規則ではこの場合、左ウィンカーを出しながらラウンドアバウトを出ることに。もちろん、これ見よがしにカチコチカチコチ。ルールを守ったくらいで褒められはしませんが、ちょっと満足気なオーソリティー。 自動車協会(AA)に戻ると、彼は紙ばさみに挟んだ4、5枚の紙をガサガサやりながら盛んに最後の書き込みをしています。そして、「う〜〜ん」とため息まじりに言いながら、 「見ろ!」 と言って、一番上の紙に「L」と大きく書き、サングラス越しにこちらをぢっと見ています。 「L?」 ニュージーランドで「L」マークと言えば、「ラーナーズ免許」と言って助手席に普通免許を持った人を乗せていないと運転できない、日本の仮免のような超初心者向け免許のことです。若葉マーク同様、窓ガラスに専用シールを貼る必要もあります。 「えぇぇぇ〜?ラーナーズ免許を出すってことぉ?がぁぁぁん!」 オーソリティーは無言のまま、何やら書き込み続けています。Lの周りに┌ だの ┐だのを足し、出来上がったのはT字路の絵。 「いいか、NZではどんな時も右からきたクルマが優先で・・・」 と、先ほどの件のおさらいでした。ほぉ〜。「ラーナーズ免許じゃなかった♪」 「とにかく、みことは遅い。もっと流れに乗らないと何をしたいのか周りのドライバーがわからないんだぞ。」 「イエス。」 「あと、ウィンカー出すのはいいけど、曲がったらさっさと戻すこと。」 「イエス。」 「右が優先、忘れるんじゃないぞ。」 「イエス。」 「よし、NZ免許を出そう。」 きゃぁぁ〜♪と飛びつきたいくらいでしたが、ここは冷静に"I'm so happy. Thank you so much!"くらいで抑えながら、オーソリティーが小切手帳のようなものを取り出し、「ミ・コ・ト・サ・イ・ラ・ンと・・」と音読しながら名前を書き込んで仮の免許証を作っている脇で、「やったぁ♪やったぁ♪」 彼は、無言。「いくら仮でもこれが免許?」と言いたくなるペラペラの紙を手渡され、 「質問は?」 「他に手続きは?」 と聞くと、オーソリティーは持参のミラーを手早く片付けながら、 「Check your letter box(家の郵便ポストを見ろ)」 と暗号のような一言を残し、降りていきました。 正式な免許は郵送されて来るのを知っていたので、暗号の意味はすぐにわかりました。AAのオフィスに戻る必要はありませんでした。車道に出ると、同じクルマの同じ運転席からの眺めが、いつもと違って見えました。そう、今日から私はキウイ・ドライバー! 「誰をも、何をも傷つけず、自分も傷つかず、地球からの贈り物を使って走ることに感謝し、愛車を慈しみながら安全で愉しい運転をしよう!」 いつもハンドルを握る時に思うことをもう一度心に刻みながら、明るい朝の陽射しの中に滑り込んでいきました。 ****************************************************************************************** |