Vol.0357  NZ・経済編 〜金利の朝・為替の夜U〜      2005年11月5日

ニュージーランドの金利は朝、動きますが、為替は夜、動きます。と言っても為替は世界中で1日24時間取引されているので、厳密に言えば「夜、動くことが多い」と言うべきでしょう。市場コメントを見ていても、
「アジア時間では小動きだったニュージーランド・ドルも、ロンドン時間に入るや積極的に買われ・・・」
といった内容を頻繁に見かけます。

NZとイギリスの時差は13時間。朝昼が完全に逆です。ロンドン時間の後も、場所をニューヨークに移し、為替の取引は続いていきます。なぜキウイたちが眠っている間に、地球の裏側の金融市場で、NZドルが上がったり下がったりしているのでしょう? それはキウイ不在のまま、外国人たちがNZドルを売買しているからです。彼らは「近々、NZに遊びに行くから」と、この国の通貨を買っているわけではありません。ほとんどの人が生涯この地に足を踏み入れることのない、この国とは無縁の人たちです。

彼らは通常、投資家と呼ばれています。自宅からインターネット経由で売買している個人から機関投資家までタイプや取引金額はさまざまですが、彼らに共通することはただ一つ。外貨投資で利益を上げようとしていることです。この国と縁もゆかりもないまま、自国通貨や米国金利との金利差を睨みつつ、NZドルを買い、高金利のNZドル預金や債券で運用しては為替差益と金利収入を狙う、キウイには顔の見えない無数の人々・・・。

外国人投資家にしてみれば、ほとんどリスクのない定期預金で7%の金利をポンと払ってくれる経済先進国通貨はそうそうないので、非常にいい投資先です。自国金利よりもはるかに高い金利、長期キウイ高基調となれば、こんなに"おいしい話"はありません。
「原油を始め世界的な資源不足による資源高」
「景気過熱感を牽制する利上げ」
と、いろいろなシナリオを描いてはNZドルを買い上げ、適当に利が乗ってくれば利食いに出ます。これが主に欧米時間に起きるので、夜になると為替が動くように見えるのです。

高金利はニュージーランド国内の人や企業にとっては由々しきことです。企業活動に借り入れは付きものですから、金利上昇は経営コストを押し上げることになります。個人にとっても住宅ローンの金利が上がり、割賦販売されている家電製品や家具の値段が上がることにつながります。もちろん、金利生活者にとっては収入が増えるのでいいことですが、この国に限っては、世帯支出が世帯収入を12%も上回っているという、実質預金がまったくない状態なので(!)、恩恵を受けられる人は限定的です。

しかし、外国人投資家にとり高金利は悪い話ではありません。まず、預金や債券投資での受取金利が増えるので投資妙味が増します。また高金利狙いでさらに資金が流入してくるため、通貨そのものが上がり、為替差益にも期待が持てます。その結果、外国人向けの市場コメントには、
「来月の利上げ見通しを好感し、NZドルは一段と買い進まれ・・・」
という内容がしょっちゅう出てきます。ここでは「利上げ=好材料」なのです。

ただし、「利上げ1粒で(外国人投資家には)2度おいしい」状態は期間限定です。金利が上がり、通貨高となれば、ニュージーランドの輸出企業には二重の痛手となります。金利コストがハネ上がり、輸出市場では割高感から売上不振となり・・・とまさに踏んだり蹴ったり。市場の論理で、「勝者」(ここでは外国人投資家など)がいれば、必ず彼らの"儲け"を負担させられている「敗者」がいるものなのです。

影響は輸出企業に留まりません。国内市場を相手にする内需関連企業でさえ、金利コスト負担に加え、全体的な景況感からくるインフレ進行で、従業員の賃金、不動産賃貸料、電力料金といった諸経費、今ならこれにガソリン代の上昇に直面し、利益が圧迫されます。こうして高金利と表裏一体のインフレの影響が社会の隅々にまで行き渡る頃には、景気の翳りが濃厚になり、企業業績の見通しが引き下げられ、それを嫌気して株式市場が軟化し、事業部門の売却や企業の身売り、リストラ話などが持ち上がってきます。

今のNZはまさにこの段階でしょう。業績が悪化している輸出企業が警鐘を鳴らし、コスト上昇分を吸収しきれなくなった国内企業が値上げに出、あらゆる業界で賃上げストが起きてベアが実現し、不動産価格の上昇で不動産関連費用が上がり、航空燃料やガソリン代の上昇を負担できなくなった航空会社、バス・タクシー会社が値上り分を顧客転化し、ニュージーランド航空の600人を始め、大手企業でのリストラが始まっています。

生涯この地に足を踏み入れることのない外国人投資家も、この手の話には敏感です。彼らは相場のトレンドを読みながら投資をしているので、企業業績が伸び、"良いインフレ"が景気を牽引している時には積極的でも、コスト負担で企業や個人が苦しむ"悪いインフレ"がはびこり始めると、とっとと資金の引き揚げにかかる可能性があります。インフレ退治のために再利上げがあるにしても、今度は「利上げ=悪材料」と読み解くからです。金利の朝、為替の夜が明けた後、ここはどうなるのでしょう?(つづく)

(香港の取引銀行から送られてきた、香港ドルと米ドルの定期預金を勧めるダイレクトメール。ほんの少し前まではこれがオーストラリア・ドル、NZドルだったんですが。しかも、送られてきたのは7月初旬!
敏感な投資家を相手にするためには銀行も洗練されないと。国際競争は熾烈です→)


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「マヨネーズ」 11月1日の日記「さいらん日和」でもお話したように、今月は西蘭家の「春のお掃除月間」となりました。「パンパカパ〜ン!」と大々的なキャンペーンを打たなければいけないほど、ここでの生活の垢が溜まってきたということです(グスン) 極力物を買わず、あるもので間に合わせているつもりでも、片付かないものですね〜´〜`A 

不用品を届けに行っているうち「救世軍ストア」(この件も10月13日の「さいらん日和」でどうぞ)の人ともすっかり顔なじみに。喜ぶべきか反省すべきか?

西蘭みこと