Vol.0360  生活編 〜生前の記憶〜                   2005年11月16日

友人から、「よく泣く」という触れ込みの生後2ヶ月の赤ちゃんを預かりました。ほんの数時間のお相手。赤ちゃん、それもレアっぽい新生児が大大大好きな私としては、嬉しくて小躍りしたいくらい。
「待ってたよ〜。いや〜、かわいい♪かわいい♪」
と、抱っこして顔をのぞきこんでいると、始まりました。泣き出したのです。

ビエェェェ〜という感じでも、シクシクという感じでもなく、なんともさめざめした泣き方。ビエェェェ〜だったらお腹が空いていたり、ノドが乾いていたりということもありますが、ミルクもお水も飲ませた後。オムツも換えたばかり。寂しそうにシクシクなら、知らない場所で知らない人に抱かれて不安なのかもしれません。
「でも、まだ人見知りには早いよね〜。」
と思いつつ、彼に話しかけてみることにしました。

「なにがそんなに哀しいの?ママならすぐに戻るよ。でも、別の理由で泣いてるんだったら、あきらめた方がいいかもよ。」
私が話始めると、泣きながらも彼はしっかりとこちらを見ています。視力はまだ甘いですが、視線はしっかりしています。
「あなたはもっともっと素晴らしいところからやって来たんだろうけど、もう人間に生まれ変わっちゃったの。不自由だろうけど、しばらくはこの小さなからだで、じっとしてなきゃいけないの。」

「でも、大丈夫、すぐに大きくなるわ。子どもになって大人になって、これから何十年も生きていくのよ。ここはあなたがいたところほどいいところじゃないかもしれないけど、そんなに悪くもないわ。ママがいてパパがいて、楽しいことがいっぱいあるわよ。前のところが懐かしくても、だんだん忘れていくから、ここでの時間も楽しんで。どんどん大きく、元気に育って、それから・・・」

突然、彼が泣き止みました。
「まさかね。」
と思いながら私も黙ると、輝くようなつぶらな目がかすかに歪み、瑞々しい下唇がぷくぅ〜と膨らんで、だんだんとせり出てきました。
「おー、来た来た来た。」
と思っていると、グッと一呼吸あって、すぐにまたワーっと泣き出しました。心なしかさっきよりも声が大きく、切なげです。

「そうなのか、嫌なのね?それじゃ、哀しいよね。」
私は吹き出しそうになるのを堪えながら笑って言い、
「かわいそうだけど、仕方ないな。泣きたいだけ泣いたらいいよ。みんなそうやって今までのことを忘れて大きくなるらしいよ。」
私は彼を立て抱きにし、大きさに相当違いがあるものの、ふたりで抱き合いました。
「もうあなたは生まれ変わったの。今は人間なの。これから一緒に楽しもう!」
そう念じているうち、彼は眠りに落ちていきました。

私たちは輪廻転生を繰り返す中、前世の記憶を消されてこの世に戻るものの、戻った直後は自由な魂として「天国」に遊んでいた記憶が残っているそうです。ですから、身動きの取れない小さな肉体に押し込められ、見知らぬ場所で赤ちゃんとして転生した魂は、元居た場所に帰りたがり、泣いてばかりいるんだそうです。私は子育て真っ最中の時にはこのことを知りませんでしたが、後で知って非常に納得しました。

真夜中の2、3時に、生後2、3ヶ月の泣いている息子たちを抱きながら、
「何がそんなに哀しいんだろうね〜」
と、何度つぶやいたことか。
「お腹もいっぱい。オムツもきれい。暑くも寒くも、多分痛くも痒くもなくて、静かで暗くて、ママに抱っこされてて、それでも哀しいって、なんでなんだろうね。」
生まれる前の記憶をきれいさっぱり失い、物事を理詰めで考える大人には、理解しがたいことでした。かつては自分もヒーヒー泣いていたんでしょうが。

そのうちに、
「なんだかわからないけど、とにかく受け入れよう。この子なりに訳があって泣いてるんだろう。家事ができなかろうが、明日仕事があろうが、今はとことん付き合おう。」
と吹っ切れ、それ以降、「ミルク、オムツ、体調」の3点セットがOKなら、泣いている理由は問わないことにしました。
「これで死ぬことはない。」
と思えば気も楽でした。

産休中のことですが、一度など長男をほぼ1日抱き続けていたこともありました。泣き疲れて寝入ってしまってもなぜかベッドに降ろすや、「ワ〜っ!!」 自分の泣き声で完全に目が覚めボリュームはさらにアップと、勝手に泣きのらせん階段を駆け上がってしまい、どうすることもできませんでした。
「抱けば泣き止むだけ母親冥利か。何かの役には立ってるってことね。」
と、抱きに抱いてほぼ22時間。さすがにクタクタでしたが、ああやって今後何十年も母親業をやっていくド根性が培われるのかと思えば、十分経験するに値することです。                         
(え〜!人間?→)

肉体を持ってしまい、空もとべなきゃ、仲間もいなくなってしまった元天使。しばらくシクシクやったり泣き止んだりしていましたが、夫が、
「あれ、首が座ってない時ってどうやるんだっけ?あれ?こうかな?」
と自信なげに抱いているうちに、さすがに不安になったのかビエェェェ〜と、泣きに腰が入ってきました。ちょうどその時、ママ登場。なんというタイミング! 彼女に抱かれるや、彼はピタリと泣き止みました。こうなると、もう人間です。

「その調子、この世でもどんどん喜びを見つけてね!」   
(しょうがないかぁ→)

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「マヨネーズ」 「ぜひ連載途中の続きを」と思っていたのに、急に思い立ってまたまた脱線´〜`A だいぶ前に書きかけていたこちらを、前回配信分とセットにしてお送りします。こうして生と死(といっても肉体だけですが)を繰り返しながら、大いなる真実を学んでいくんでしょう。本当に長い旅のようです。次回はぜひ、連載の続きを。

西蘭みこと