Vol.0361  NZ・経済編 〜金利の朝・為替の夜V〜           2005年11月19日

通貨が上がり、給料が上がり、物価が上がり、金利が上がり・・・なにもかも上昇してきたここ数年のニュージーランド。金利の朝、為替の夜を何度迎えても、物事はすべて順調でした。あらゆるものがこのまま上昇を続けても、最新の物に囲まれ、海外旅行に行き、子どもを私立の学校に通わせ、投資のための不動産物件を探す――そんな生活がいつまでも続いて、それを見直すことなどまったく無意味に思える豊かさ。

その豊かさのかなりが、見ず知らずの外国人によって支えられていると言ったら、驚かれるでしょうか? 顔の見えない、この国に生涯足を踏み入れることがないであろう外国人投資家が、ワンランク上の生活を支える「足長おじさん」だったとしたら? 
「外国人の足長おじさん?冗談でしょう。自分たちで努力した結果よ。」
と、にべもなく言われてしまうでしょうね。

別に外国人投資家から施しを受けているわけではありません。からくりはこうです。外国人がこぞって買い上げたためにNZドルが上がり、そのおかげで洒落たブランド品から、クルマ、気の利いた中国雑貨まで、輸入品が一気に割安になりました。ほしいものをポンポン買っているうちに、手取りの給料だけでは足りなくなり、さまざまな業界が賃上げストをかけたところ、人手不足もあり、あっさりと5%のベアが実現しました。

ベアや新規雇用で所得が増えた分、さらに消費が進みました。ガソリン代、人件費、不動産が高騰している折、インフレに火をつけることなど簡単でした。ニュージーランド準備銀行(中央銀行)はインフレ沈静化にここ2年間で金利を5%から7%へと2%も引き上げましたが、利上げのたびに外国人投資家は喜んでNZドル買いに走り、同じことが繰り返されました。私にとって、こうした現状をつなぐキーワードが、「外国人の足長おじさん」だったのです。

NZやオーストラリアはここ数年の国際的な資源価格の高騰から大きく恩恵を受けてきました。資源国であるカナダや南アフリカも同様で、これらの通貨は米ドルや外国人投資家たちの自国通貨との金利差、通貨そのものの上昇により「資源通貨」「高金利通貨」として世界中で注目を集めてきました。外国人が高利回り狙いでNZドルやオーストラリア・ドルを買うだけで、基軸通貨でもないこうした通貨はいとも簡単に上昇してしまいます。

考えてもみてください。NZは静岡県並みの四百万人しかいない国です。流通する通貨量、市場規模、金融市場などすべてが、日本人が一国の規模として認識しているものより、遥かに小さいのです。そこへ世界中から投資資金が流れ込んだらどうなるのか? 日本では学生、OLから金利生活者まで、
「FXのスワップポイントで稼いでいけば、小遣いどころか金利生活も夢じゃない♪」
と、資源国通貨投資に乗り出しています。その中でも最も人気が高いのがNZドルです。規模が小さい分、動きが早く、投資妙味が高いのでしょう。

外国人が及ぼす影響は為替水準に留まりません。彼らが投じた大量の資金は、さまざまなかたちでこの国の小さな小さな金融システムに流れこんできています。これこそが、最大の影響です。銀行預金を例に取ってみましょう。預金を預かった銀行は何らかのかたちで資金を運用しなければなりません。金庫に寝かせておくだけでは、預金金利を支払う原資ができないからです。預金者が高金利を手にできるのは、銀行がさらに高い金利で運用しているためで、その高金利を銀行に支払うのは誰でしょう? 普通のキウイの人たちです。しかも、そのかなりが住宅ローンを借りている人たちです。

海外資金という、今までなかったお金が市中に出回るのですから、急に金回りがよくなります。豊かになったと感じたキウイたちは消費に走り、輸入品の割安感もあって手当たり次第、買い物を始めました。こうして行き着いた最大の買い物――それが不動産でした。他の物と違い、値上りが期待でき、自分が住めば賃貸料を浮かすことができ、立派な資産となってそれを元にさらに借金ができ、持ち家という響きもよろしく、一石何鳥にもなる最強の買い物!
          (行き止まりになっているうちの狭い通りでも、とうとう住宅の売出しが→)

こうした消費者のニーズと高利回りの資金運用先を求める銀行のニーズが、不動産市場で見事に出会ったのです。これ以上はない相思相愛の取り合わせで、キウイは家を買いあさり、銀行は住宅ローンを出し続けてそれを後押ししました。「外国人の足長おじさん」たちのお金は、確かに「施し」ではありませんが、「恵み」にはなりました。膨大な資金が融資条件をどんどん低くし、本来、借りられなかった人たちにまで資金を行き渡らせ、家を買えるようにしたからです。

底が尽きない不気味なお金が膨らんでいる――NZで1年間生活してみて、心底そう感じました。特にここ数ヶ月は実際に不動産を見て歩き、ますますこの感を強くしました。これが連載の最初でもお話した、ボラード総裁を悩ませ続ける不動産バブルの正体、利上げという大なたを振るってもビクともしないインフレの元凶です。この手詰まり感こそが、彼の憂鬱と苦悩の種であり、NZ経済が乗り上げている暗礁なのです。(つづく)


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「マヨネーズ」 この手の連載は一気にやってしまわないと、「話が広がりすぎて見えないよ〜」と叱られそうで、すいません。「じゃ、一気に書けよ!」とツっこまれそうですが、あれもこれもと思うことばかりでなかなかそうもならず。いつまで経っても進歩しません(素) 前回2回分のリンクを張っておきますので、見失ってしまった方はぜひどうぞ。

金利の朝・為替の夜
金利の朝・為替の夜U

西蘭みこと