Vol.0373  生活編 〜森羅万象とともに〜                 2006年1月19日

カチカチカチ。
玄関のドアに着いた呼び鈴代わりの金属が鳴っています。すっ飛んで行ってドアを開けると、スラリと背の高い顔見知りの配管工が立っていました。私は彼をキッチンに通し、先週、彼が下見に来てくれた時以降の状況を、簡単に説明しました。湯と水と2つある蛇口のうち、湯の方が回すと妙な音を立てていたのですが、日に日に固く回しづらくなり、ここ数日で完全に回らなくなってしまいました。

彼が蛇口を外し、取り寄せた新品の部分を並べて作業に入るや、再びカチカチカチ。
「ボクが出るよ。」
誰が来たのか察しがついていた夫が出ました。すぐに挨拶の声が聞こえてきました。今度は車屋です。壊れて修理に出していた車を送り届けてくれたのです。夫は確認のために外に出て行きました。

一息入れる間もなく、再びカチカチカチ。
玄関を開けると青いつなぎを着て目深にキャップを被った初老の男性が立っていました。
「どうも。下水が詰まったそうで・・・」
彼は単刀直入に話に入り、私は、
「裏へ回ってもらえませんか?」
と手で示し、ドアを閉めてから、裏手のランドリールームのドアを開けました。

彼は下水溝のふたを開けて様子を見た後、トラックから小さな手押し車のような機械を引っ張ってきました。かなり時代がかった代物です。私が家のコンセントにつなぐと、機械は獰猛な動物のように轟音を立てて震え始めました。

彼は機械から螺旋状になった鉄製のロープを引っ張り出すと、下水講にどんどん入れていきます。その長さたるや何メートル、いや十数メートルもありそうです。
(排水溝に突き立ててあるように見えるのが鉄のロープ→)

モーターで震える機械の震動が伝わると、鉄製ロープは怒り狂ったように唸ってはしなり、身悶えしながら下水溝の中に潜っていきます。むき出しのモーター音と金属が激しくぶつかり合う音。耳を覆いたくなるほどで、目の前の彼の説明がほとんど聞き取れませんでした。

あまりの音に何事かと駆けつけた夫は、
「クルマの方はOKみたいだ。まだちょっと気になることがあるんでもうちょっと話を聞くけど、エンジンもかかるし、ラジエーターの水漏れも止まってる。」
と耳打ちするや、クルマの方に戻っていきました。私は再び、周囲に轟く轟音の中に残され、しゃがんで鉄の鞭を操る下水修理工の傍らにいました。見ていなかったら、何の音なのか想像もつかないような音です。

下水溝は根本的に詰まっていました。不動産屋が電話で言っていたように大量の落ち葉が流れ込んで、詰まってしまったのでしょう。毎日のように庭掃きをして注意していたつもりでしたが、間に合いませんでした。修理工は鉄製ロープを下水溝の中で暴れさせ、詰まった部分を力づくで通そうとしているのです。何とも単純な方法ながら、機械の古さといい、やっている人の年季といい、ここではこういうものなのでしょう。

はたと気づけば、修理の人が同時に3人も家にいます。こんなことは前代未聞です。普段、クルマにしろ家にしろ、ほとんど問題がなく、前に配管工が来たのは引っ越して来た時で、不動産屋に入居の条件として示していたトイレとシャワーの部品交換に来たのみでした。クルマもメーカーのディーラーのところで検査も兼ねてちょっとした修理をしたぐらい。下水に至っては初めての問題でした。洗濯などで大量に水を使うと排水が庭に溢れてしまう事態に、慌てて不動産屋に電話を入れた次第でした。

しかも、その週は次男・善が風邪をこじらせ中耳炎まで併発し、学校を休んで寝込んでいました。ちょうどその日から登校を再開したところでした。家にいたら、この音にパジャマ姿のまま飛び出して来たことでしょう。
「いったいどうなっちゃったのかしら?子どもは病気。クルマも家も故障続き・・・」
と小さくため息をつきながらも、私の中では察しがついていました。
「これは偶然じゃない。」

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この話はちょうど半年前、昨年の6月の出来事でした。最初に不具合を起こしたのはクルマでした。ある土曜日にいつも通り子どもたちのラグビーの試合に出かけ、かなり遠出をしたところ、帰りに突然エンジンがかからなくなってしまったのです。驚いたものの、何度も騙し騙しかけているうちに、なんとかかかり、
「多分、バッテリーの問題だろう。」
と、途中で新品のバッテリーを買い、慌てて帰りました。

その前夜には、想像以上に凄まじかった通勤時のハーバーブリッジの大渋滞に巻き込まれながら、隣の市であるノースショアまでオールブラックスの「フィジー戦」を観に行ってきたところでした。
「これが昨日の夜じゃなくて良かった〜」
と心から思い、
「ありがとうね。」
と、心の中でクルマに声をかけてしまったほどです。

帰宅するや夫がすぐにバッテリーを交換してみました。何度か試すと、1度だけエンジンがかかったもののすぐに切れてしまい、その後は何度試しても2度とかかりませんでした。
「ダメだ。修理に出さないと。」
夫は首を振り振り言いました。(つづく)

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「マヨネーズ」
日本はお寒いようですが、いかがお過ごしですか?こちらは夏休み真っ盛りです。子ども以外は平常通りのはずですが、平日の日中にビーチに行くと驚くほど多くの家族連れを見かけ(うちもですが)、"異国"にいるのを再認識したりしています´。`A

ホームページの移行でご不便をおかけしていますが、月末終了を目指してがんばります。

西蘭みこと