「西蘭花通信」Vol.0392  生活編 〜走る人体実験−風景の食事〜   2006年4月22日

ニュージーランドに移住してきたのは2004年7月末。1年で最も寒く、雨の多い時期でした。しかも例年になく雨が続いた年で、記憶が正しければ1年に120日以上の降水がありました。そのうち、雨が降っていない日を選んで、朝方、庭に出るようになりました。十分に水を吸い込んだ庭は、芝ばかりでなく、寒さなど物ともしない雑草にとっても格好の環境でした。放っておくとすぐに雑草園になってしまうため、子どもを学校に送り出し、夫がジョギングに出た後、朝食までの時間に小まめに抜くようにしていたのです。
(引っ越して来た当初の庭。瑞々しい緑に感動したものの、本当に来る日も来る日も雨でした→)

特に雨上がりは土が軟らかく、比較的簡単に抜けることもあって、夜中に雨が降ったような朝を狙っては、ひと時庭にしゃがみこんでいました。ほんの30分のつもりでも、夢中になると1時間以上経っていることがたびたびあり、待ちきれない夫が先に朝食を済ませてしまうこともありました。そんな時、不思議に思ったのが、
「おかしい。お腹が空かない。」
ということでした。ジョギングを始めて早々に感じたのと同じ感想でした。

36度の猛暑の香港から突然やってきたせいか、30度近い急激な気温差は私たちの体感温度を完全に狂わせてしまいました。気温が10度近くあっても、どこにいて何をしていても、からだの芯から冷えを感じました。それを少しでも補おうと、からだが必死で皮下脂肪を蓄えていたのか、私は大人になってから感じたことがないほどの空腹を覚え、特に朝は夫がジョギングから帰るのを待ちきれないほど、お腹を空かせていました。それなのに、庭に出た日は1時間も朝食が遅くなっても、さほど空腹を覚えませんでした。

「お腹が空きすぎて何も感じなくなってしまったのかしら?」
あの時も、最もな理由を考えてみましたが、どうもそうではなさそうです。タイミングを逸して空腹を感じないというよりも、なにかで微妙に満たされているような、そんな感じでした。
「仙人じゃあるまいし、朝の霞でお腹がいっぱいになるとでも?」
自分でも可笑しく思いながら、スコップやガーデニング用の蝋引きのグローブを片付け、家に入ったものです。

試しに、
「不思議なの。庭にいるとお腹が空かないんだけど。」
朝食を摂りながらコーヒーを片手に新聞を読んでいる夫に言ってみると、
「じゃ、ずっと居れば。」
といった無言の視線がチラリと返されました。そんなことを唐突に言われても、返事のしようがないのは当然です。
「やっぱり思い過ごしなんだろうか?」

そんな頃、このメルマガでも何度も取り上げている本、「ミュータント・メッセージ」(マルロ・モーガン著)を読み返していると、ある一文に目が釘付けになってしまいました。
「日にちがたつにつれて私のスタミナは驚くほど強まった。朝や昼になにも食べなくても辺りの景色から栄養をとることを学んだ。」
ケシキカラ、エイヨウヲ、トルコトヲ、マナンダ・・・ケシキカラ、エイヨウヲ・・・
「そんなことってあるの?」

これは主人公の中年アメリカ人女性が、ひょんなことからオーストラリアの原住民族アボリジニの中でも最も頑なに従来の生活を守り続けた「真実の人」族とともに、水も持たずに広大な砂漠を横断した話の、ごく始めに出てくる件(くだり)です。この話そのものの真偽についての感想は個々人に委ねるとして、私自身はこの本から信じがたいほど多くの「真実」を学びました。

何度も読み返していたつもりでしたが、「景色から栄養をとる」ことについては、自分がピンと来るまで読み過ごしていたようです。他にも実感がないばかりに字面だけを追っている部分がたくさんあるのかもしれません。
「そうかもしれない。」
こういう時の私はいたって素直です。科学で証明できないことをすべて否定していると、視野も思考回路も恐ろしく狭まってしまうと思っているので、因果関係が不明でもいざという時は直観を信じるようにしています。

空腹を感じないことは自分自身の体験であり、感じたところを信じてみることにしました。ですから、ジョギングを始めて同じように空腹を感じなくなった時も、
「気持ちのいい時間帯に外に出て、たっぷりと緑の息吹を吸い、美しい景観を目にして、"風景の食事"をしたことになるのかな?」
と思い、あえてそれまでの量を食べようとはしませんでした。「からだの声を聞く」ことにしたのです。

これが走り初めて正味2ヶ月経った、現在の状況と感想です。これからますます涼しくなり、走るのにはいい季節となりそうです。しばらくして、また何か変化を感じたり、おへそがピンと縦べそになったりした時にはご報告しましょう。(報告がない間は達成されていないということで´。`;)さっそく香港やドイツから、「走り始めました」というメールをいただきました。それぞれの実験、楽しんで下さいね。(不定期でつづく)


******************************************************************************************

「マヨネーズ」
「食べ物はエネルギー」と知った時、私より一回りも若い華奢な友人が、何枚も何枚も焼肉を平らげていた姿を思い出しました。彼女は仕事に、海外生活に、ボーイフレンドにと全方向に悩んでおり、それに伴う体調不良や体重増にも苛まれていました。
「食べなきゃやってられないですよ〜。」
と明るく言っていたものの、ストレスでからだのどこかに空いてしまった穴からエネルギーが流出してしまうのを、本能的に食べ物で埋めていたのでしょう。

しかし、穴がある限り満腹感は得られなかったようで、肉、スイーツ、辛いもの、コーヒーとカロリーの高い、パンチのあるものを好んで口にしていました。(お酒を飲まなかったのは幸いです)帰国した彼女が心から食を楽しんでいることを祈っています。

西蘭みこと