「西蘭花通信」Vol.0398  NZ・生活編 〜二都物語 ホスピタリティー編〜  2006年5月27日

(今回の話は「二都物語 ウェリントン編」から3ヶ月半ぶりの続編です。これが書きかけなんて書いている本人しか覚えてないでしょうが(笑)、突然続きを。 「前回の話って?」と言う場合は、お手数ですがコチラからどうぞ。)

「なんてdecent(ディーセント)な街!」
出会い頭から感動で始まった街、ウェリントン。"Love at first sight(一目ぼれ)"そのものでした。「ウィンディー・ウェリントン(風の街ウェリントン)」として名を馳せるこの街にとっては、さぞや貴重なんであろう、風のない抜けるような晴天。空気がオークランド以上に澄んでいて輝くような美しさです。

クルマを置いて、モーテル近くからバスに乗り、街の中心部へ。公共交通機関が庶民の足として定着しているのは一目瞭然で乗っている人は民族、老若男女を問わず。足と言えばマイカーになってしまうオークランドから来た身には、衝撃的なほど新鮮でした。行き交うバスや路面バスの多さに、「ここもニュージーランド?」と目を疑いそうでした。

「人口が少ないこの国は公共交通機関を切り捨て、その分の財政を道路網の拡充に充て、ガソリン税を引き下げ、徹底したクルマ社会として生きる道を選んだ・・・」
という、どこかで目にした長年の刷り込みが一気に瓦解していきました。
「バスも電車もあって、もちろん立派な道路もある。二兎を追えるじゃない!」
嬉しい裏切りに歓喜の非難をぶいぶい。

終点でバスを降りると、右手奥は今回の旅の目的である7人制ラグビーの国際大会「ウェリントン・セブンス」の会場となる、近代的な「ウェストパック・スタジアム」。(円形のデザインから「ケーキ型 - Cake Tin」というあだ名で親しまれています)その手前には立派なウェリントン駅が隣接しており、この一帯が交通機関のターミナルになっているのは明らかです。万単位の人がクルマに乗らずにラグビー観戦に出かけられるとは、NZでは特別なことです。

左手はモダンな最高裁判所、重厚な国会議事堂、「ビーハイブ」(蜂の巣)の愛称で親しまれているユニークなかたちの内閣府ビルと、三権の中枢が一堂に会しています。この国の頭脳と心臓が、視界に収まるほどの近さでそびえ合っているわけです。相互補完しながらも牽制し見張りあう、完全に独立した存在に相応しい独立独歩な外観。建国当時の息吹が今に伝わる思いです。

大勢の人が集まって何やらやっている国会議事堂前に出ると、華やかに飾りつけられた、たくさんの山車が並んでいます。どう見てもお祭りモードで、おそろいのTシャツやユニフォームを着こんだ人たちが、トランシーバーを手に忙しそうにしています。

「これか〜」
突然、夫が解説を始めました。
「明日のセブンスを前にパレードがあるって聞いたけど、ここが出発点なのか。この山車に各国の選手が乗るんだろうな。」
カートを改造した山車には思い思いの飾りつけがなされ国名が書いてあります。これをクルマが牽引するのでしょう。               
(アルゼンチンのサポーター↑)

そうこうしているうちに各国選手が続々とバスで到着し、サポーターたちがわっと彼らを取り囲ました。サインだ、握手だ、写真だと、蜂の巣をつついたような大騒ぎに。私たちも例外ではなく、やれフィジーだ、アルゼンチンだ、とカメラを持って走り回っていました。もちろん、ニュージーランドの一行には何重もの人だかりができ、おなじみの選手や監督と写真を撮ったり、話をしたり。お祭り気分は一気に熱を帯びてきました。

いよいよパレードの始まりです。シンデレラのかぼちゃの馬車を先頭に(乗っているシンデレラは女装した軽く180センチはある男性!)、クルマに引かれた山車が静々と国会議事堂を後に街に出て行きます。   
(シンデレラとフィージーのサポーター↑)

早歩きで行けば十分追いつけるようなスピードなので、サポーターたちも一般車が遮断された大通りに一斉に走り出しました。さすが移民の国!南太平洋諸島の国々を始めとし、各国の山車にかなりの数のサポーターが付き添っています。

パレードを見つけるや、道行くクルマは軒並みクラクションを鳴らし、人々はこちらに向かって走ってきます。沿道には驚くほどの人が溢れ、カフェのテーブルから、商店街の店先から、オフィスビルの窓から、レストランのバルコニーから、無数の手が振られています。その数はどんどん増え、10分も歩かないうちに歩道は林立する人で埋め尽くされ、そこを数千人のサポーターが通り抜けようとするので、どこも市場の
  (ビルの上から声援を送るウェリントニアン↑)
ような賑わいです。

ペンキだらけの青いつなぎの大男たちも、ベビーカーを押した若いママも、クルマの助手席から半身を乗り出したグラマラスな女性も、ネクタイを締めたサラリーマンの一群も、黒いエプロンにトレーを持ったままのカフェのボーイも、デパートから出てきたばかりの杖をついた上品な白髪の老婦人も、お財布を持っただけのOLたちも・・・
みんな足を止め、選手たちを見上げては惜しみなく手を振っています。

そして、しんがりを行くNZの黒い山車には、ひときわ大きく、
「GO!NZ! GO!KIWIS!」(行け!NZ!行け!キウイ!)
の大声援。         
                 (山車の上のNZチーム→)

"hospitality"(ホスピタリティー)―― 洗練された温かいもてなし、歓待。
"decent"の次に思い浮かんだ言葉でした。セブンスの選手たちは毎年、世界中で開催される大会を転戦していますが、一般市民からこれほどの歓待を受ける開催地が、他にあるでしょうか? セブンスのメッカ、14年も暮らした香港ですら、こんなことはありませんでした。私たちは急速にウェリントンに魅せられていきました。(つづく)


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「マヨネーズ」
前回ここで、「バスや路面電車を日常的に使い歩く機会が多いせいか、ウェリントニアンはオークランダーより圧倒的にスリムです!」と言いましたが、その後興味深い記事を発見しました!コチラをどうぞ。これだけでは交通機関との関係はわかりませんが、世界屈指の肥満大国のNZにとり、健康はまず減量からのようで。

西蘭みこと