「西蘭花通信」Vol.0400  NZ・生活編 〜二都物語 ホームシック編〜     2006年6月5日

再び「二都物語」。思いがけず間延びしてしまって申し訳ない。これまでの話はリンクからどうぞ。今度は絶対最後まで!(誓)
「二都物語 ウェリントン編」
「二都物語 ホスピタリティー編」


"We are not party people, we are event people."
(我々はパーティー好きなのではなく、イベント好きなのです)
オーソリティーであることが一目でわかる、白い毛皮のついた黒いマントとY字をかたどったたくさんの宝石がついた幅広の長いネックレスをしたウェリントンのケリー・プレンダーガスト市長は、群集を前に堂々と言い切りました。               (ウェリントン市長→)

7人制ラグビーの国際大会「ウェリントン・セブンス」に出場する各国選手を乗せた山車の記念パレードは、手を振る人で埋め尽くされたメインストリートを小一時間かかって通り抜け、シビック・スクエアに出ました。そこは近代的な図書館や歴史的建造物に囲まれた広場で、海辺へ通じるモダンな歩道橋に通じる階段が、仮設の屋外ステージに早代わりしていました。こんな離れ業も秀でた都市計画を誇るこの街なら、朝飯前なのでしょう。
                                            
 
お祭り気分を醸し出すアロハシャツを着込んだ司会者の進行で、歓迎式典が始まりました。要人の挨拶、各国選手団の紹介などがちょっとしたエピソードを交えながら滑らかに進んでいきます。ステージを取り囲む聴衆も惜しみない拍手や華やかな口笛で応え、雰囲気を盛り上げています。英語を解さないアルゼンチン選手団なども温かく迎えられ、司会者が上手く笑いを取って彼らと聴衆をしっかりと繋いでは、ステージから送り出していました。
(←最後はバックバンドを率いて歌まで歌った司会者)


イベント・ピープル―― 
選手団を追って歩いてきた私に、その言葉はピタリときました。山車もパレードも素人が手弁当で支えているような素朴なものです。大きなスポンサーと言えば大会の冠をなすフランスの大手保険会社くらいなもので、そのスポンサーでさえ社員を総動員して、この催しを仕切っていました。しかし、素人集団ならではのぬくもり、一生懸命、温かさが個人から個人へあっという間に伝播していくようでした。


「ウェリントン・セブンス」はラグビー好きなら誰でも知っている国際大会です。しかし、この手のスポーツイベントにありがちな金まみれの印象がまるでないことは、驚くべきことでした。同じくセブンスの総本山である「香港セブンス」では、世界中からやってくる数万人のサポーターに向けた宣伝に余念がなく、球場に着くまでに道で配っているスポンサー名入りの応援グッズでバッグがパンパンになってしまうほどでした。                 (誇り高きマヌサモア、サモア代表の入場→)

商業主義の影がないということは資金力も知れています。その分を補うように、市を挙げての全面的な支持が前面に打ち出されていました。沿道で鈴なりになっていた市民はそんな姿勢の強い裏付けでしょう。街のいたるところに大会用のカラフルな小旗がたなびき、ポスターがあちこちに張られ、店先もラグビーにちなんだ飾りやウィンドウディスプレイを施し、毎年のこととはいえ手馴れた街の様子はこの大会がいかに市民に根付いているかを感じさせるものでした。もちろん、彼らにとって1年で最高の商機でもあります。

潤沢な資金があっても限られたファンのためのプロの手になるイベントであるのと、資金を出すよりも喜んで手を貸し、球場にも足を運んでくれる人々に支えられるイベントであるのと、どちらがいいでしょう? 主催者にとっては前者の方が手っ取り早いでしょうが、選手やサポーターには後者じゃないかとふと思ってしまいました。パレードに付き添ってみて、大会前日からこの催しへ参加しているのを感じました。2日間の大会を3日間楽しませる心憎い演出―― 彼らがイベント・ピープルを自負することはありそうです。
(←街中にこのディスプレイが)

"decent"(ディーセント)な街の洗練された"hospitality"(ホスピタリティー)――
「いいじゃない、ウェリントン!しかもこんなにピーカンなお天気。本当に普段は"風の街"って言われるほどの悪天候なのかしら?」
私の贔屓目は留まるところを知らず、何を見ても何を聞いても、この街が良く思えて仕方ありませんでした。
「これが名物の嵐の日であっても、そう思ったかしら?」
と、どこかに冷静な思考を残しながらも、その時点ではどこまでも抜けるような青空同様、この街の存在は圧巻でした。

式典の後、遅いランチをとり、テパパ国立博物館へ。博物館から左手に広がるウェリントン・ハーバーを臨む開放的な遊歩道は、私が最も愛した香港の街ワンチャイのビクトリア・ハーバーを臨む遊歩道を髣髴とさせるものがあり、懐かしさもひとしおでした。山を背後に海に広がる地形、イギリス式の赤レンガの重厚な建物など、香港を思い起こさせるものをあちこちで目にしてきましたが、この海辺もそんなひとつで、贔屓目に郷愁も加わって街への思い入れは強まる一方でした。

有名な赤いケーブルカーも、駅の造りから、線路の傾斜(山の斜面を走るため車両自体が斜めになっており座席は階段状)、途中の無人駅、折り重なるように迫り来る車窓からの眺めまで、どれもこれも香港のピークトラムにそっくりで、親子で、
「香港みたい!!」
を連呼していました。最初の駅で降りて左手に行ったら、かつて住んでいた家に帰れそうでした。

そしてとどめが頂上からの眺め・・・。深い緑の山肌が街を越えて青い海へと注ぐ様は、この国に暮らしてから1年半、初めてホームシックを感じるほどでした。

「どうしてこの街をもっと早く知っておかなかったんだろう?」
後悔の夕暮れが迫ってきました。(つづく)

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「マヨネーズ」
え〜っと、こんな連載のど真ん中ですが、メルマガ「西蘭花通信」は400号となりました。
「400本〜@@」
と書いている本人も驚いています(素) 今や私たち一家が香港に住んでいたことすらご存知ない方が多いかもしれませんね。
「なんで香港≒ウェリントン?」と・・・(笑)

この場を借りて読者の方々に心よりお礼申し上げます。移住生活が続く限り「西蘭花通信」も続きます。これからも末永くよろしくお願い致します。

西蘭みこと