「西蘭花通信」Vol.0404  NZ・生活編 〜二都物語 ラブ&ヘイト編〜     2006年7月5日

予想以上に長期化してます´。`; これまでの話は下のリンクからどうぞ。
「二都物語 ウェリントン編」
「二都物語 ホスピタリティー編」

「二都物語 ホームシック編」
 
「二都物語 コスプレ編」
「二都物語 スタジアム編」

「二都物語 ナイトメア編」


7人制ラグビーの国際大会「ウェリントン・セブンス」の観戦を終え、モーテルへ帰る私たち4人の足取りは、想像以上に重いものでした。寄り道をしたとはいえ、10時間以上もかけて意気揚々とやって来たことがオメデタく思え、香港にそっくりな街並みにホームシックを感じたことも今や愚かしく感じられ、何もかも砂を噛むような想いでした。心配しつつも預けてしまった老ネコのことも気になりだし、ここまで来てしまったことを、ただただ後悔していました。いつも賑やかな子どもたちも言葉少なで、萎んでいます。

「家でテレビで観ていた方がどんなに良かったか。」
「知らなきゃよかったね、こんなことになってるなんて。」
昨年の試合はテレビ観戦でした。映し出されるスタジアムの様子はとても楽しそうで、
「来年は絶対に行こう!」
と、観戦しながら夫婦で心に決めていました。そして直面した、この現実――。 金曜日の予選でこうなのですから、土曜日で本選となる翌日はもっと凄まじい状況になることでしょう。今日以上の忍耐と今日以上に試合が観られないことを想像するだに、失望と怒りで身震いがしそうでした。

「家に帰る?」
心中同じであったろう夫が、声をかけてきました。
「どうする?」
と子どもたちに振ってみると、
「どっちでも。」
という気のない返事。
「帰ろうか。」
と私が答えたら、そうなっていたかもしれません。みんなの気持ちは五分五分でした。

しかし、私たちのどこに非があるのでしょう?発売日に数時間で売り切れてしまったチケットを辛うじて手に入れ、家族連れ専用席でゆっくり観戦しようとしているだけです。このまま帰ることも、留まることと同じぐらいバカバカしく思え、「同じアホなら」の発想で留まることにしました。途中で帰るくらいなら一歩も足を踏み入れなかった方がどんなに良かったことか――。

翌日もまた見渡す限りの晴天で、雲ひとつない好天でした。
「これでビールの売れ行きは倍増ね。」
と皮肉の一つも出てしまうほどの暑さ。帰らないことに決めた以上、すべてに目をつぶり針の筵(むしろ)に座りにいく覚悟でモーテルを後にしました。24時間前にはあれほど心躍ったコスプレ集団も、今や見るのもうんざりで、派手な連中を目にするたびに、
「どうか彼らが目の前に来ませんように。」
と祈る思いでした。

海外暮らしが20年を超える私たちは、それぞれの国や民族の飲酒カルチャーを目にしてきており、大概のことには寛容なつもりでした。「日本じゃ考えられない」的な発想や発言は、普段からまずしません。「郷に入れば郷に従え」で、受け入れ許容量はそれなりにあるつもりでした。しかし、今回どうしても解せなかったのは、世界に冠たるラグビーの大会でありながら、ここまでラグビーが蔑ろにされていることでした。その日の地元の新聞にも、
「ラグビーを観に来ている観客は全体の3分の1」
と堂々と書いてあったくらいです。

「これはスタジアムを会場にした年に1度の巨大なパーティーなのだ。」 という事実を最初から受け入れていれば、数々の理不尽にもっと目をつぶることができたのかもしれません。しかし、私たちはラグビーを観に来ていたのですから、失望は大きく、なかなか頭を切り替えることはできませんでした。現地にまで足を運んでいながら、試合どころかスクリーンさえ見えないことへの忍耐がどれほどのものだったか。
「これじゃ、酔っ払いの仮装行列じゃないか。」
普段から穏やかな性格でめったに人を悪く言うことのない夫が、堪えきれずに漏らした一言が胸に響きました。ラグビーを愛するからこその、ラブ&ヘイト。
    (テレビには映らないこんなシーンが観たくて来ているのに→)

覚悟はしていたものの、2日目の現実は柔な想像力など軽く蹴散らすほど惨憺たるものでした。昨夜から飲み続けているのが明らかな二日酔いがごまんといて、小さな善が1人でその辺を歩き回ることを途中から禁じてしまったほどです。足元がおぼつかず、奇声を上げている人が格段に増えていました。彼らの移動はさらに頻繁になり、前後左右の席のうち後を除いて、ひっきりなしに人が入れ替わり、特に目の前の席など数え切れないほど人が入れ替わりました。その度に席を立ったり全員が座れるまで席を詰め合ったり、本当に試合どころではありませんでした。                  (コスプレのアイデアは買うけど本当に迷惑だった一群の1人→)

ファミリー・スタンドだというのに子どもの姿はとうとう5人くらいまで減ってしまい、善が最年少でした。座席下には食べ残しが溜まり、こぼれたアルコールが階段を伝って流れてきました。息子たちは見慣れない酔っ払いに囲まれ、殺伐とした雰囲気を察し席で大人しくしていました。トイレに行こうと階段を上がり、食べ物や飲み物を売るコーナーに出ると様相は一段と凄まじく、床がビールでベタベタし、コスプレを超え単に半裸になった男女が多数行き交っています。

トイレに一歩入るや、絶句してしまいました。その汚さたるや、どこの球場でも目にしたことがないほどでした。
「これが女子トイレ?」
と目を疑うほどでした。
「ニュージーランドは公衆トイレまできれい。」
と思ってきた分が、いっぺんに吹き飛ぶような汚れ方です。あちこちの個室からゲーゲー吐く音が聞こえてくる中、呆然として手を洗っていると目の前の鏡の中を、あろうことか若い男が横切って行きます。
「えっ?」
と思って振り返ると、今しもキルトをはいた男が入って来たのとは反対の出口から走り出て行くところでした。(つづく)
         (2日目は警察も出動。しかし何も変りはしませんでした↑)

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「マヨネーズ」
たくさんのお見舞いのお言葉をありがとうございます。まだ諸症状に苦しんでいますが、3歩進んで2歩下がる〜で、ジワジワと回復してきているようです。本当に侮れませんね。おかげさまで、子どもたちはまだ鼻が出ているものの元気になり、夫はこの菌が蔓延する家の中でとうとう感染せずに済んだようです。本人かなり疲れが出ていて、
「ボクも体調不良になったら即寝かせてもらうからね。」
と宣言してたんですが(笑)

西蘭みこと