「西蘭花通信」Vol.0405  NZ・生活編 〜二都物語 セイフティー編〜     2006年7月8日

まだまだ続いています´。`; これまでの話は下のリンクからどうぞ。
「二都物語 ウェリントン編」
「二都物語 ホスピタリティー編」

「二都物語 ホームシック編」
 
「二都物語 コスプレ編」
「二都物語 スタジアム編」

「二都物語 ナイトメア編」

「二都物語 ラブ&ヘイト編」

女子トイレを若い男が走り回っているこの乱痴気。しかも、その1回だけではなく、もう1回見ました。そんなに何度も行っているわけではないので、2回に1回の確率でしょうか。全身の力が抜けるのには十分な確率です。
「市長に手紙を書こう。」
大会中、ずっとそう思っていました。7人制ラグビーの国際大会「ウェリントン・セブンス」の現実がこんなだとは、一ラグビーファンとして一在住者として、あまりにみじめなことでした。
(香港セブンスのサウススタンド。アルコール飲み放題、パーティーし放題の一角。毎年やってくるオーストラリアのサポーター→)

ブレンダーガースト市長は2日前の歓迎式典で、ウェリントンはIRB(国際ラグビーボード)から付与されているセブンス開催権を今年で失うため、
「この偉大な大会を引き続き開催できるよう多大なご支援を。」
と呼びかけていました。あの時は盛り上がったパレードの直後であり、大会の実情をまったく知らなかったこともあり、
「ウェリントンが開催権を失うなんてとんでもない。ここまで知名度を高めたのはこの街の功績じゃない。」
と、素直に思っていました。しかし、そんな気はもう微塵もありませんでした。

「オーストラリアのアデレードへでもどこへでも、開催権を奪われてみたらいい。本当のラグビーファンを惹きつけるにはどうしたらいいのか、息の長い大会にするためにはどうしたらいいのか、真摯に学んだらいい。香港セブンスがあそこまで長く、高く評価され続けている現実を、市長自ら三顧の礼で教わりに行ったらいい。パーティー・ピープルにハイジャックされたラグビー大会なんてもう真っ平。ファンをバカにしないで!」

しかし、時間の経過とともに、そんなことはどうでも良く思えてきました。その日の地元新聞にあった、
「ラグビーを観に来ている観客は全体の3分の1」
という一文が何度も頭をよぎり、2人がパーティーを楽しんでいる中で残りの1人がラグビーを楽しむことの非現実を噛みしめていました。同時に主催者側が何度も胸を張っていた
「チケットの完売」
という意味を考えてみました。主催者にしてみればそこに集う人の目的よりも、どれだけチケットが売れ、スポンサーが付き、資金が回収でき、大会を継続でき、地元への経済効果があって、果ては国際的知名度が高まるかが重要なのであって、サッカーの方が儲かるとなれば、迷わずそちらを主催することでしょう。

IRBもはっきりと認めているように、セブンスは"カネになる"のです。本格的な15人制と違って選手の人数も少なく、試合時間も短く、試合運びもスピーディーなので普段ラグビーを観ない人からも"垣根の低いラグビー"として人気があります。世界のあちこちで開催される大会はどこも人気が高く、IRBの大きな収入源の一つになっています。ウェリントンがそこに目をつけたからと言って文句は言えません。収支は十分合うのでしょう。皮肉なことに、現場のコストが削減されればされるほど、主催者は儲かります。
(香港セブンスは、ちびっ子たちも前座の試合やパレードで参加します。子連れの観客数が非常に高いのもこのためです→)

3人のうちの1人になってしまった自分の分が悪すぎたのです。ここでは試合そのものよりも、パーティーの成功、チケット完売を支えるパーティー・ピープルが来年も戻ってくることの方が重視されているのかもしれません。

「もう諦めよう。自分が戻ってこなければいいだけの話。ただ、こんな
18禁な場所に子どもたちを連れてきてしまったことだけは、親として心苦しく、本当にかわいそうなことをしてしまった・・・」
そう思って最後にトイレを後にするや、
「ママー、オールブラックスの旗盗られちゃった〜」
と言って子どもたちが駆け寄ってきました。それは黒地にシルバーファーン(銀シダ)のマークが入ったオールブラックスのサポーター用の小旗でした。長男がデイパックの脇に挟んで用を足している隙に、後にいた若い男が抜き取ったというのです。
(ニュージーランド選手団。子どもラガーの後を各国選手もパレード。素人もプロも大人も子どもも一度はみんなが同じピッチに立ちます→)

「盗った人わかるの?」
「うん、わかる。でも、その人が他の人に渡して・・・」
「追いかけたけどダメだった。どんどん仲間うちで旗を渡していってそれでおしまい。酔っ払いだし。」
と、探しに行って戻ってきた夫が会話に入ってきました。

「旗はオークランドに戻ったら買いましょう。ごめんね、こんなところに連れてきちゃって。ママたち知らなかったの・・・」
暗闇の中、私は涙声になりそうでした。あの旗は子どもが自分のお小遣いで買ったものでした。足元のおぼつかない人、奇声を発している人、今にも吐きそうな人に囲まれ、誘導する係員もいない階段では本当に将棋倒しの危険を感じ、子どもたちの手をしっかり握り、
「安全な場所へ・・・」
と、気持ちは急くばかり。そう、安全な場所へ――。夢にまで見たケーキティン(ウェストパック・スタジアムのニックネーム)はそれほど危険を感じる場所に変り果てていました。

「小さい子がいるんです。ぜひ乗せて下さい。」
閉まりかけたドアから夫が懸命に運転手に頼んでいましたが、ドアは彼の鼻先で閉まり、入り口付近以外たいして混んでもいないバスは行ってしまいました。一刻も早くモーテルへ帰りたい私たちにとって、何台もバスを見送るのは辛いことでした。
「今度こそ乗れる!」
と思ったバスも行ってしまったのです。運転手はみな、
"For safety reasons(安全のために)"
と言ってドアを閉めました。
そう、安全な場所へ――。
私たちはまたしても、取り残された思いでした。(つづく)

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「マヨネーズ」
実話とはいえ、大好きなラグビー絡みでこれほどネガティブな内容を書くことは、大変にエネルギーの要ることだということを実感しています。
「大変でしたね」
「ラグビーファンとして残念です」
などいくつかメールもいただきました。話はまだ続いていくのですが、本当にいろいろ考えさせられた4泊5日でした。

各開催者が趣向を凝らし、それぞれに特徴を出すのは当然でしょうが、香港セブンスの運営手腕がいかに高く洗練されたものだったのか、毎年必ず子どもの選手をグラウンドに迎えては、末永いラグビーの発展、 社会への定着にも貢献していたかを思い知りました。

西蘭みこと