「西蘭花通信」Vol.0418  NZ編 〜今ドキのキウイ世相−Kiwi Now〜     2006年10月14日

(これは連載です。これまでの話は
「今ドキのキウイ世相−0800 SAVE ME」

「今ドキのキウイ世相−MAKEOVER」
からどうぞ)


ちょっぴり不本意ながらもプロに頼んで、思いきりイマ風にメイクオーバーした地味系正義の味方「バックアップ団」。ゴージャスでブリリアントになったら、なんだか気分も一新。俄然ヤル気になって、リサイクル・ゴミからのエネルギーを利用して世界征服を企むドクター・フームの牙城に乗り込んでいきました。

そこにはすでに捕らわれの身となっていた、もう1つの正義の味方、チャラチャラ、イケイケの「スーパー・スカッド」の連中が。彼らを自由の身にし、真っ直ぐにドクター・フームの玉座に。元々ドクター・フームの待遇に不満を募らせていたサラリーマン根性丸出しの忍者部隊など敵ではなく、世紀の天才も所詮は1人の女の子。あんなに強気だったのに、あっさり降参。これで善良な市民のゴミが盗まれることもなくなり、正義の味方もそれぞれの仕事に戻り、めでたし、めでたし。パチパチパチ・・・。
       
(ドクター・フームも自信満々のカッコいい正義の味方にあっさり降参→)

こうしてストーリーだけ書き出してみると、
「まぁ、小学生だからこんなもんでしょう?コメディー仕立てに上手くまとめたわね。」
と、真っ当な寸評が来そうです。確かにそうです。しかし、私が舌を巻いたのは大筋の展開よりも、その周辺を埋めるディテールです。その部分こそ今のニュージーランドを恐ろしいほど的確になぞっている気がするのです。

まず、キーワードと言ってもいい「メイクオーバー」。これは今のNZの流行語と言ってもいいかもしれません。人のメイクオーバーの筆頭は、何と言ってもダイエット。男女とも体重100キロ以上の人が大勢いる国ですから、「減量してメイクーバー♪」となるわけです。この場合、ジム通いでコツコツ痩せるなどという時間のかかる従来の方法ではなく、脂肪吸引や胃を半分にする外科手術など、一気に問題を解決し、しかも変化が一目瞭然な新しい手段に果敢に取り組む――それがメイクオーバーです。
(←「私の究極のメイクオーバー!」雑誌の表紙より)

たるんできた肌のリフティング、豊胸手術、歯列矯正や歯のホワイトニングの審美歯科、顔のあちこちに液体を注入して若返りを図るプチ整形なども非常に盛んで、これらを組み合わせれば一夜で別人に´▽`? こうなるとイメチェンなど、1日で落ちてしまう化粧同然。本人が"その気"になるには変化が小さすぎ、時間も短かすぎるのです。

地道な努力などやってられない忙しさと根性のなさを、すべて丸く収めるのが――カネです。変化を丸ごと買ってしまうのです。ここ数年の不動産価格の高騰で典型的な資産バブルの様相を呈するNZ。今年に入ってやや勢いは落ちてきているものの、オークランドのような都会には「金で買えないものはない」と言わんばかりの金(カネ)本位、拝金主義が蔓延(はびこ)っています。若さも、美しさも、逞しさも、カッコ良さも、センスの良さも、聡明さも、健康までも、「買える」とばかりに――。
((セレブも「信じられないメイクオーバー」で変身。雑誌の表紙より→)

人の次は家です。なにせ資産バブルですから、不動産はまさに金を生み出す打ち出の小槌。自分並みにしっかりと磨いておかなければなりません。こちらも徹底的なメイクオーバーで床暖房、三階の吹き抜け、プール、部屋並みに広いテラス、ホームシアターなど、思い切った改装や増築でどんどん付加価値を高めます。こうした家は往々にして、居住空間であると同時に娯楽空間も兼ねたものになり、週末ともなれば華やかなパーティーが催され、バラとシャンペンと夜のプールと・・・と、映画のような贅沢さ――。

バックアップ団のように、「実力はあっても外見のせいで、正当に評価されていなかった」、というのであれば外見を変えて、人目を引くのは妙案のように思えます。しかし、誰もがそうとは限りません。プロが寄ってたかって磨き上げる外見以上のものを備えている、印象のせいで損をしている、そう信じているのが本人ばかりだったら?もちろん、実力のなさは百も承知で、メイクオーバーにカネをつぎ込んで勝負に出る人もいるでしょう。

6年生(日本の小5)の子どもであっても、こうした社会の変化を肌身で実感しているのです。中身は一緒でも見た目を変えることで、自分も他人も"その気"になって成功する――という今の風潮を見事なまでに言い当てています。もちろん、新しい外見に合わせて、中身の方も切磋琢磨するのであれば実のあるものとなりましょう。しかし、そんなまどろっこしい話をすっ飛ばして結果を出すのがメイクオーバーです。努力などしなくても、早く、確実に変わることにカネを払うのです。これがイマの気分なのです。

「ここまで見抜かれているのか。」
と思うと、親のひとりとして怖くなるほどでした。子どもたちは親や周りの人間を通じて、確実に時代を読んでいました。しかも、演じるだけでなく、世相としてその価値観を受け入れ、吸収してもいるのでしょう。最初こそ外見を他人に委ねることにちょっぴり不本意だったバックアップ団。しかし、彼らは大きな成功を収めます。その話の展開に批判めいたところは微塵も感じられませんでした。子どもたちは思っているのでしょう、
「いざとなったらメイクオーバーすればいい。」
と。(つづく)

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「マヨネーズ」

秋が深まる北半球。春たけなわのニュージーランド。このすべてが伸びゆく花開く季節の中で、時節が「年末」に向かっているということを感覚的に理解するまでには、あと何年もかかりそうです(笑) その中でひとつだけ、何かの終わりを実感できるとしたら、子どもの学校が12月で終わることでしょうか?

クリスマス明けから1月いっぱい長い夏休みを過ごし、2月からは新学期。これだけは暦の上での立春と重なり、「新年」を感じます。来年から善は6年生、温は高校生(NZは中高一貫教育なので日本の中2から高校生)になります。いよいよ私たちも高校生、ティーンエイジャーの親に@@!

西蘭みこと