「西蘭花通信」Vol.0439  NZ編  〜中華コスモス〜            2007年3月18日

会場となったアルバート・パークに足を踏み入れたとたん、何とも表現しがたい「わぁ〜」という歓声が漏れました。移住3年目にして初めて訪れた、オークランドではクリスマスの「サンタ・パレード」に次ぐ大規模な催し、華人たちの祭典「ランタン・フェスティバル」。ランタンは灯篭のことで、そのフェスティバルとは、いわば盆の送り火。それを旧暦での新年が始まったばかりの3月にするというのが、中華圏の事情を知りすぎた身にはどうも解せず、今まで1度も訪れずにきました。

しかし、いくら20年を過ごしたとはいえ、今や中華圏の暮らしも遠くなりました。季節が初秋ということを考えれば、送り火のタイミングとしては「正しい」ということもあり、今年はとうとうやってきました。シティーの銀座通り、クイーン・ストリートには赤い提灯がずらりとかかり、お祭りムードとオリエンタルな雰囲気を醸し出していました。
(この赤、この数、この大きさ、かなり目立ちます。主張の強さ優先で洗練が二の次なのも、ある意味で中華風→)

「新聞の投書欄に"市はクリスマスの時でさえ、沿道にこうして飾り付けをするのを許さないのに、どうしてランタン・フェスティバルの時だけ許可するのか?"っていうのがあったよ。」
延々と続く揃いの提灯を見上げながら夫が言いました。
「お金があるからじゃない?」
と私。
「だろうね。チャイニーズだからこうやって同じ提灯をずらっと出せるんだろうね。自分の店の前だけてんでバラバラに何か出されても景観を損なうだけだろうから。」
と夫。私は100%納得しながら深くうなずいていました。

何キロも続く提灯は彼らの組織力、経済力、賑々しさを端的に代弁していました。会場に着く前から、中華圏の人々がここで形成しているミクロコスモスを見せつけるかのようです。ですから、会場に足を踏み入れるや期待を裏切らない規模と人出、組織力、経済力、賑々しさに思わず歓声が漏れたのです。「カエルの子はカエル」と同じくらい自明の理で、
「チャイニーズはチャイニーズ」
たった3夜といえども間違いなくそこは、中華圏でした。
(重厚な石造りのビルになんとも映える赤→)

中国人と言われたら、どんな人たちを思い浮かべますか?言葉にはできなくても、
「貧乏で、ずる賢くて、垢抜けない、無教養な農民」
を思い浮かべる人が、日本人だけでなく、かなり多いのではないかと思います。ここでも新聞で中国関連の記事があると、なぜかいつも人民服を着て人民帽を被り、黒いカンフーシューズをはいた男性が自転車に乗っていたり、天秤棒を担いでいたりする写真が"お約束"のように使われます。出来合いの写真をイメージとして挿入すると、ステレオタイプでこんな風になってしまうのでしょう。

では、周りを見回してみて下さい。中国製のものがどれくらいありますか?もしくは中国製でないものがどれくらいありますか?まずこのメルマガを目にしているパソコンや携帯電話。メーカーは日本やアメリカであっても実際の製造場所が中国である可能性はかなり高いはずです。特に日本以外の場所であればその確率はもっと上がります。着ているTシャツやはいているジーンズも、「GAP」でも「ユニクロ」でも、ほとんどが中国製では?食材も知らないうちに中国製のものがたくさんあるはずです。半製品として日本に輸出し、パッケージングだけでも日本ですれば堂々「国産品」になってしまうので、中身がどこから来たのかなど、消費者は知りようもないのです。(メーカーの方がそう言っていました)

さて、この2つの質問の答えを結びつけると、「貧乏で無教養な農民」が「最新のパソコンやブランドジーンズを輸出している」ことになるわけですが、そんなことってあるのでしょうか?中国は広いです。ヨーロッパ並みのサイズが1国を形成しているのですから、人種も言語も生活も多種多様です。沿海部では最も裕福なアメリカ人並みの暮らしをしている人がいるかと思えば、開発の恩恵に授からない場所では水道も電気もないまま、何世紀も前とたいして変わらない生活をしている人たちもいます。そのすべてが中国の現実です。

それ以外にも、英語でも日本語でも「チャイニーズ」「中国人」と十把一絡げに呼ばれてしまう、実際は「アメリカ人」だったり「マレーシア人」だったりする人たちがいます。いわゆるオーバーシーズ・チャイニーズ、華僑と呼ばれる人たちです。私は彼らの実情を大学で専攻した関係で、あえて華僑という言葉を使わず、「華人」と呼んでいます。「僑」という字には一時的、過渡的なニュアンスがあり、いずれは本国に帰るつもりがある人を指すべきだと学んだからです。(もちろん、本国に帰る気がなくても自分を「華僑」と名乗る人はたくさんいます。中国語でもこの辺のニュアンスは深く問われていません)

彼らは民族的には中華系でありながら、アメリカやマレーシアの国籍を持ち、その国の国民として暮らし、ここにも所有するパスポートに準じて移住してきています。
「国籍と民族はまったく別物」
彼らを見ているとつくづくそう思います。海外の中華圏は、こうした民族的に華人でもさまざまな国からいろいろな経験を引っ提げてやってきた人と中国や台湾といった本国からやってきた人とで形成され、見た目より遥かに複雑な多重構造です。

しかし、出身地、立場の違い、貧富、世代、時には言語の違い(海外華人では中国語を解さない人も多く、本国も方言の違いがヨーロッパ言語並みにあります)を越え、彼らは独自の価値観で固く結ばれており、必要があれば驚くほどの組織力を発揮します。その足並みたるや、台湾と中国の政治的確執が笑い話に感じられるほどです。私はニヤニヤしながら色とりどりのランタンに導かれ、そぞろ歩き始めました。
(つづく)

(ニュージーランドらしい巨木にも。暗くなるとこれに灯りがともり、一層幻想的な眺めに→)

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「マヨネーズ」
「"広州ホンダ、50万台リコール"だって。日本だったらせいぜい5万台だよな〜。」
隣でネットのニュースを見ていた夫が感嘆の声。中国は何でも桁違い
^^

西蘭みこと