「西蘭花通信」Vol.0445  生活編  〜未完の家〜           2007年6月15日

大変、大変、大変、ご無沙汰しておりました。申し訳ありません><;

メルマガを登録して初めて受信される方、初めまして&すいません(滝汗) 去年から何度目かの超繁忙期に入ってしまい、時間が取れずにいました。生活が変わってしまったことを素直に認めざるを得ないところまで来ているのだと思います。それに合わせ、メルマガ、数々のブログや連載を見直すべきなのでしょうが、ともあれ今回は旧態依然とします。突然の再開のため、いったん仕切り直しで新しい話から。

「また連載(しかも終わらない?)」
とお叱りを受けそうなところなので、上下2話とし、しっかり「下」も書いてから「上」をUPするという、猛省をこめて私としてはかなり周到に臨んでいます。ぜひお楽しみください。

=======================================

「みこと、あなたずっと香港にいたんでしょう?フェンソイとかってわかる?」
キウイの友人から電話が入り、思いがけないことを切り出されました。
「フォンシュエイじゃない?家を診る、あれでしょう?」
「そうそう、それ。」
「う〜ん、どうかな〜。基本のキならちょっとわかる程度かな?」
「ちょっと、診てくれないかしら?」

北京語読みのフォンシュエイこと風水は、通算14年暮らした香港では、これがなくては夜も日も明けぬと言っても大げさではないほど、深く生活に根ざしたものでした。日本でも最近ではすっかりおなじみになっています。しかし、それを西洋人の口から聞くとは、かなり意外なことでした。

友人は家のことで悩んでいました。オークランドを代表する目抜き通りに百万ドル(約1億円近く)の豪邸を購入したはいいものの、引越して来て以来、災難続きでした。まず、体調を崩してしまいました。そのため、わざわざ利便性のいい場所に家を構え、そこを拠点に始めるつもりだったビジネスをことごとく見送らざるを得ませんでした。その後、住宅ローンを組んだ金融機関との揉め事に巻き込まれ、病身の上に金銭トラブルを抱えることになってしまいました。

近所には派手な暮らしぶりの家があり、週末ともなれば豪勢なパーティーが夜通しで続き、不眠に陥っていた彼女はその音にも苦しめられていました。おまけにペットまで深刻な病気にかかり、医者と獣医をはしごする日々。とうとう買ったばかりの家を売って引越すことを決意、人づてに不動産業者を紹介してもらいました。一刻も早く家を手放そうとしていた矢先、その業者がなんとかして彼女に百万ドル以下で家を売らせようとしている節があるのを察し、慌てて弁護士に駆け込むはめに。まさに疲労困憊の状態でした。(ニュージーランドでの家の売却は不動産業者1人を指名し、その人経由で売るのが一般的)

友人は当初から、一連の不運を「家のせい」と思っていたようでした。話すたびに「ぜひ遊びに来て」と言われながら、彼女の体調不良もありずっと実現せずにいたのも、私とその家の縁の薄さを感じるものでした。彼女の家を初めて見たのは、不動産専門のフリーペーパーに掲載された写真ででした。落ち着いた色調の外観。築百年近く経っているであろう、落ち着いた佇まい。
「この家がどうして百万ドル以下なんだろう?」
と思ったものです。

とうとう彼女の家を訪ねる機会が回ってきました。玄関のドアが開くと、笑顔満面の彼女が迎えてくれました。元気に見えますが、やや疲れています。やはり眠れないとのこと、笑顔の影にはたくさんの苦渋が隠されているようでした。不動産業者とさんざん揉めた挙句、なんとか買い手が見つかり、売却が決まった直後のことでした。

玄関を入ると廊下がまっすぐに続いていました。外の明かりが中まで差し、両側が部屋になっています。右手前がフォーマルなリビング。左手前はゲスト用の寝室。それぞれの隣にバスルームがあり、特に左側は一部屋丸々をバスとトイレに改装したらしく、広く美術館を思わせるような生活感のない空間に、猫足のついた古いバスタブがぽつんと置かれています。

右手奥が彼女の寝室。お気に入りのものに囲まれた居心地の良さそうな小部屋でした。左手奥は家族用のリビング、ダイニング、キッチンへとつながるアットホームな一角で、彼女自慢の場所でもありました。確かに眺望が素晴らしく、シティーが一望できます。

(くつろいだ雰囲気の家族用リビング。キッチンまで続くこの空間は青を基調にまとめられていました→)

廊下をT字の縦棒とすればそこはやや太めの横棒の位置でした。右手のドアからは裏庭や傾斜地を活かしてそこだけ2階建てになっている下の部屋やガレージに出られるようになっていました。こぢんまりとした庭もキッチンからの視線を十分に意識した洒落た造りでした。

階段を降りて庭にも出てみました。風水上問題になりそうなほど急な傾斜でもなく、玄関自体は道路よりも高い位置で、悪い気の吹き溜まりになりそうな造りには見えませんでした。彼女の持ち物も決して多くはなく、気の流れを妨げそうな構造や暗かったり、まったく使っていない部屋があったりというわけでもなく、各部屋に相応しい大きさの窓から明るい陽が差していました。

彼女は愛着の品々を披露してくれながらも、私が何に興味を示すかを探るように、チラチラ、ニヤニヤこちらの様子を伺っています。クローゼットの中まで公開し、いくつもあるバス・トイレをひとつひとつ案内してくれました。私は手がかりになるようなものを見つけられないまま、彼女の後を付いて回り、
「なぜ、この家が問題なの?良さそうな家じゃない。」
と訝っていました。手作りクッキーとお茶でもてなされた後、何の手がかりも見つけられないまま、私は彼女の家を後にしました。(つづく)

===========================================================================
「マヨネーズ」
突然の再開にいきなり新しい連載というのもなんですが、長年の読者の方なら何度も経験されたこの悪しきパターン><;つける薬がありません。トホホ。ここで助走をつけ、細々とでもなんとか続けていきたいと思っていますので、どうかお見捨てなきよう(祈)

西蘭みこと