「西蘭花通信」Vol.0459  NZ・生活編  〜今日も結果オーライ〜   2008年3月15日

先日、朝の7時台に列車に乗る機会がありました。私が通勤時間に出かけるのは、かなりまれです。ラッシュアワーのピークよりはやや早く、空いている席こそなかったものの乗客は疎らでした。いつも利用する駅は終点シティーにあるブリットマート駅まで2駅です。コトコト走るローカル線さながらのディーゼル車でも、ものの10分とかかりません。

早めに家を出たので、5分ほど早く駅に着くところでした。ところが下り線が入って来る音に続いて、乗ろうとしている上り線まで入ってくる音が・・・。慌てて走ると、まさに列車がホームに入ってきたところでした。
「前の列車が遅れてるの?それとも乗ろうとしていた列車が5分も早く着いたの?」
ホームで待っていた人の数や表情からもどちらなのか読み取れないまま、そそくさと乗り込みました。

百万人都市オークランドといえども公共交通機関は極端に未発達なので、こんなに中心に近い場所でも、駅はバス停を一回り大きくしたような完全な無人駅です。改札もアナウンスもなく、列車が遅れているのかどうかさえわかりません。朝7、8時台の本数は1時間に4本。乗り過ごせば15分は待たなくてはなりません。(日中はこれが1時間2本になりますが、これでもここ数年で1時間1本から『倍増』したところです)
(バス亭並みなので時刻表もそっくり。終日どころか週末のダイヤまでこの1枚に→)

終点以外どこも無人駅なので、切符は乗車した後に車中の車掌から買います。この辺もバス並みです。定期券というものがないため、
(注:UPしてから教わりましたが実はあるそうです。勉強不足ですいませんでした。ただ使っている人がとても少ないそう)

車掌は全員に切符を売るか回数券に挟みを入れるかしなければならず、乗客が多いとなかなか来ません。その日も自分の車両に車掌がいるかどうか、青い制服が目に入らないかどうか、辺りを見回してみましたが、見つけられませんでした。

次の駅に着いても車掌はまだ来ません。もしも私の乗った駅からこの駅まで1駅乗る客であればここで下車し、結果的に無賃乗車となります。降りた駅も当然、無人なので運賃を払う場所がないのです。車掌の姿を求めてキョロキョロしているのは私くらいで、一緒に乗った数人はiPodを聞いたり、携帯電話でメールをしたり落ち着いたものです。きっと毎日同じことの繰り返しなのでしょう。

1年ほど前、一家で始発駅から下り線に乗った時、週末の夕方だったこともありけっこう混んでいました。2駅目で下車する私たちは車掌が来る前に駅に着いてしまい、4人で無賃乗車をしてしまいました。信じられない経験に、驚くやら呆れるやら。

「ったくNZっていうのは〜」
と力なく笑う私に、
「夕方に乗るとこんなのしょっちゅうだよ。」
と平然と言う夫。
「1駅目だったらほとんど毎日払わないで帰れるんじゃないか?」
とも。

それまで、そんなことが起きているとは露知らずだった私はビックリしました。
「みんなそれで降りちゃうの?」
「だって車掌が車両にいなかったり、いても人垣の向こうだったりするんだよ。そりゃ、みんな降りるさ、自分の駅に着いたら。」
在宅業の夫が夕方の通勤列車に乗るのは月にごく数回。その彼をして、「こんなのしょっちゅう」と言わしめるところをみると、かなり日常的に起きていることのようです。

こうなると「4人分の切符代が浮いてラッキー♪」などと言っている場合ではありません。笑顔が消え、思わず浮かぬ顔になってしまいました。オークランド市は公共交通機関を維持するために、列車やバスを運行している民間会社に多額の助成金を出しています。これがない限り彼らは赤字に陥ってしまい、当然の経営判断として間引き運転や路線の縮小に出ざるを得ないのです。そうなれば利用者がさらに減り赤字が膨らみ、と完全な悪循環に陥り、事業の存亡がかかってきます。そのため現状では助成金が不可欠なのです。

その財源はレーツと呼ばれる不動産にかかる一種の固定資産税で、これが市に納める地方税の代わりになっています。(不動産を保有していなければ納める義務がありません)レーツの一部が助成金になり、それを受けとっている鉄道会社がこんなずさんなことをしていると知って、レーツ納税者の1人として嬉しいわけがありませんでした。なぜこの国ではこんな初歩的な段階でつまずいてしまうのでしょう?どんなビジネスであってもモノやサービスを提供した代価の回収は、基本のキのはず。非常に力の抜ける経験でした。

気がつけば、あれから1年経っていたのです。「今日も払わないんだろうか?」終点の駅が見えそうな距離になって私は小さくため息をつきました。その時、かなり減速していた列車が完全に止まりました、駅に入る手前の信号なのでしょうか? そのうち青い制服の車掌が現れ、数人が切符やコインを差し出しています。私も回数券を出しました。全員のチェックが終わったとたん列車が動き出し、歩いても行ける距離の駅に入っていきました。

(←終点ブリットマート駅にて。日中はせいぜい2両編成。ラッシュ時間はドーンと4両。それ以上はホームが短くて停まれない?! 2011年までのオール電化を目指していますが、う〜ん、できるんだろうか?)

「これって運賃回収の秘策?それとも時間調整か何かの単なる偶然?」
キツネにつままれたようにホームに降り、こんな疑問に微塵の興味もないであろう通勤客に混じって歩き始めました。その時、頭上の時計が示していた時間は、列車が定時に来ていたら終点に着くべきダイヤ通りの時間でした。5分早く来て、5分調整し、終点には定時に。
「ったくNZっていうのは〜」
私は再び力なく笑いました。ここでは今日も結果オーライです。

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「マヨネーズ」
疑問を夫にぶつけてみたら、「偶然」という答え。ただし、夕方の下り線では超〜減速走行で車掌の取りっぱぐれがないよう「秘策」を使ってもいるそうです。無人駅への自動改札の設置は意味がないとしても、定期券の割引率を上げて利用を促進するとか、ピーク時には必要な数駅間のみパートの車掌を乗車させるとか、他の方法はないんでしょうかねぇ´ー`ゞ?

西蘭みこと

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