「西蘭花通信」Vol.0472  生活編  〜サンクス&グッドラックU〜             2008年11月29日

3歳だった長男・温の手を引いて、香港のシティバンクに口座を作りに行ってから早11年。日本で言えば中3になった温はニキビもでき身長は180cm以上、今はテスト勉強の真っ最中、長い年月が流れたわけです。

口座開設の翌年に夫の両親のために日本にマンションを買って残金が減り、2001年にニュージーランドに出会って移住を決めてからは資金のすべてをNZドルに替え、預金や債券で運用していました。それ以外は特に投資もせず、仕事柄株は1株も買ったことがなく(売買には勤務先の許可が必要でした)、ファンドを買ったのは1度きり、保険も買わず、たまに為替をする程度。銀行にとっておいしい客ではなかったでしょう。けれど私たちにとってはゴールドメンバーの特典を使い倒せる便利で頼れるメーンバンクでした。

2004年のNZ移住後も口座を維持し取引を続けました。ほとんどのことがオンラインでできる多通貨口座の上、何かあれば24時間のフリーダイヤルがあるのでいつでも気軽に電話ができました。海外の指定口座への送金が無料なのも助かりました。2006年にはNZに家を購入し、裏庭に離れを建てたため残高は激減しました。猶予期間を与えられたもののゴールドを維持する預金額に戻るはずもなく、今年に入って普通口座に切り替わりました。

その間の2007年7月には米国発のサブプライム問題が勃発、信用不安が伝染病のように世界中に伝播しました。しかし、落ち着きを取り戻すや年末にかけては「V字回復」など楽観論も台頭し、問題の深刻さが曖昧になってしまいました。しかし、アジア通貨危機で不動産バブルの崩壊を身をもって経験した私は(私たちの売却後、香港の不動産は5〜7割下落)、問題の発端が住宅ローンであることがずっと気になっていました。忘れっぽく立ち直りも早い金融市場と違い、不動産市場の動きは恐ろしく緩慢でその分根が深いものです。

2008年1月。米ドルに見切りをつけた私はシティのなけなしの米ドル預金で円買いを始めました。(NZドルはとっくに見切っていたので預金はゼロでした)3月にベアスターンズが破たんし、問題が再び表面化し今度はその所在がもっとはっきりしてきました。何度かシティグループの損失額も話題になりましたが、世間の目はデリバティブでの損失が巨額で、かつ資本力のない投資銀行に向いていたように思います。その頃には預金の半分以上が円建てになっていました。これで米ドルに何かあっても多少はヘッジになるでしょう。

ベアスターンズ以降、原油価格の値下がりもあり、再び落ち着きを取り戻したかのようでしたが、状況は明らかに悪くなっていました。8月の北京五輪が閉幕した辺りから、予想されていたこととはいえ一服感、もっと端的に言えば手詰まり感が強まってきたように思います。宴の後。あれだけ持てはやされた「デカップリング論」はすっかり鳴りをひそめていました。(例えば「日経CNBCジャーナル」の記事。2007年12月時点のものであることに注目。リンク切れはご容赦下さい)中国も失速してきました。
9月。リーマン・ブラザーズが経営破たん。メリルリンチ、AIG等米大手金融機関の経営不安が芋づる式に持ち上がり、米国政府は「救済」「合併」「破たん」の3コースを用意し、政府が救済しないのなら民間での合併、それもだめなら破たんと、非常に明快で容赦ない対応に出ました。「世界恐慌の再来」「100年に1度の金融危機」など新聞が連日書き立てていたその頃、私と息子は香港・日本へと里帰りに出ました。香港では「他銀行に口座を開いておかなきゃ」と思いながらも、友人との再会に忙しく実現しませんでした。

10月。アイルランドを皮切りに欧州各国が預金の全額保護を次々に打ち出し(そうしないと預金が他国に流出してしまうため)、NZ、オーストラリア、香港もこれに続きました。これで私たちの預金はどこにあっても全額保護されるはずです。各国政府が電光石火で金融支援を打ち出した結果、さらに低い水準ながらも市場は再び落ち着いてきました。しかし、私はアイスランドが預金流出による国家破たんの危機を宣言したことが気になっていました。いくら政府から保護されるといっても避けられるリスクなら避けたいものです。

各国は背に腹は替えられず大盤振る舞いを約束しましたが、その原資はどこから来るのでしょう?実際、問題が起きたら一国の話では済まず、全額を税金で賄うことはできません。かなりの国が財政赤字で、国債発行など別途資金が必要なはずです。その資金の出所は?国家の名の下で借りるとはいえ、世界中で資金が逼迫する中、必要額が調達できるのでしょうか?またいつなんどき格付け機関から格下げを言い渡され、調達が難しくなるとも知れません。借入ができてもその後には長い長い返済が待っています。自国通貨安なら海外への返済額は確実に膨れ上がります。国有化した民間の危機はどこへ向かうのでしょう?

11月。独りで香港・日本の里帰りに向かう夫と相談し、香港にもう一つ銀行口座を開くことにしました。シティ並みのサービスとネットワークが提供できる銀行となると英国のエッチエスビーシー(HSBC)しかないでしょう。夫はとりあえず自分名義で口座を開き、預金の95%をHSBCに移しました。                  (とうとうこの銀行のお世話になることに・・・→)

その2日後の23日、米国政府はシティグループに対し1.9兆円の追加資本の注入と、29兆円の不良資産への保証を打ち出し、損失の丸抱えに踏み切りました。現段階ではシティの口座を閉めるつもりはなくいつかの再生を心から願っています。今はひとまず、

11年の洗練されたサービスに"Thanks"、
これからの荒海への船出に"Good luck"。

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「マヨネーズ」
10年前のアナリストの上司がメルマガの読者であることをカミングアウト@@;
「もう金融物はやめよう」と思った矢先のこんな連載。赤入りそうです。ドキドキ。

西蘭みこと

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