「西蘭花通信」Vol.0501  生活編  〜人生の片付けU〜      2010年1月23日

周りの誰よりもビッグに生きていると思っていた同い年の親友から「もう、人生の片付けに入っている」と告げられ、私は目が覚めました。目覚めたことでそれまで眠っていたことに気付きました。
毎日、朝が来るように、時間は湯水のように溢れているもの――― 
子ども時代とさほど変わらないこの感覚こそが、夢うつつだったのです。

2007年に愛猫ピッピを失ったときに初めて「老い」を実感し、
「人生という時間は限られている」
と心に刻んだ私ですが(この話はメルマガ〜育って老いて生きて〜でどうぞ)、これは消えていった愛猫の命のはかなさに、なにげない日々を大切にし、丁寧に生きていくことで生に報いようと思ったのです。あくまでも目の前の時間の話であり、たゆたう流れが愛猫のそれのようにいつかは途切れるという明確な自覚はありませんでした。

友人の言葉は、私の人生が後半に入っていることを告げるウェイクアップコールでした。同時に人生の前後半が必ずしも半々ではないことも悟りました。前半より短い後半を過ごすこともあるかもしれませんが、砂時計はすでに逆さにされたのです。落ち始めた砂が戻ることがないように、時間に巻き戻しはありません。

人生をどう片付けていくか。咄嗟に浮かんだのは子どもたちです。長男は当時、思春期特有の曲がり角に頭をぶつけているところでした。けれど、これは時間の問題で切り抜けられそうでした。次男も10歳になり子育てはほぼ終わりに差し掛かっていました。片付けるまでもなく、彼らが片付いていくのは目に見えています。

生活全般は香港からニュージーランドへの移住で収入が激減したこともあり、完全に贅肉が落ち、これ以上片付けるものがないほどです(笑) 前回お話した通り、持ち物もすっかり片付けてしまい、仕事も個人の在宅業なので「お金はあるに越したことはない」という世の常識から自由になれば、気に入った仕事だけをポツポツやっていくことができます。

私にとり、最も難しい片付けが人付き合いでした。私を知る人にしてみれば、
「片付けるほどお付き合いがあるの?」
というところでしょう。それぐらい私の人付き合いはミニマムで、香港で勤め人を辞し同僚や元同僚が周りからいなくなったとたん、友だちと呼べる人が激減してしまったほどです。これ以上、どう減らすのでしょう?

それでも子育て、趣味、人を介しさまざまな出会いがあるものです。友人というものに対し、数よりも圧倒的に質を重視してきた私にとり、知人と友人の中間のような数々の出会いは新しい挑戦でもありました。「移住してきたのだから、知り合いは多い方がいいだろう」「国籍を問わずに機会があれば友人を作ろう」と私らしくない頭ごなしの時期、その後さすがに無理を感じて軌道修正に出た時期と、試行錯誤を繰り返してきました。

移住後5年以上の年月が流れ50代が見えてきた今の年齢になると、人間関係を見直すことが「気の合わない人を避ける」という自己中心的なものでは決してなく、「深い関係を築ける人と自分自身を掘り下げていく」ためだということが、おぼろげにわかってきました。人生が後半に入っているのであれば、時間は今まで以上に貴重です。当たり障りなく、もしくは自分を額面以上に「いい人風」に繕うための八方美人的なお付き合いよりも、もっと別のものがある。それは決して選り好みではないはず――

自分の価値観に照らしてお付き合いを小さくしていくことは、相手もあることでなかなか難しいと感じています。お金同様、友人知人は「いるに越したことはない」という世の常識があり、「顔が広い」「人付き合いが良い」「社交的」は常に褒め言葉であり、その逆は忌むべきものと認識されています。そこを敢えて逆に行くわけですから、ある程度の「年の功」がなければ迷いばかりが先に立ち、進みたい方向を見失ってしまいそうです。特に子育て中は自分よりも常に子どもが優先され、方向性などあってなきがごとくです。

私は非常にマイペースな人間で、その独立独歩たるや自他共に認める(?)筋金入りです。孤立することも人に何か言われることもさほど気になりませんが、自分のペースに人を巻き込んで迷惑をかけたり、我慢を強いたりはしたくないので、人付き合いにはできる限り受け身で臨んできました。「選ぶ」より「選ばれる」、「誘う」より「誘われる」ことで、相手の意向を尊重しようとしてきたのです。もちろん、お誘いに乗るかどうかは自分次第ですが、基本的には「断らない」ことで自分を試していたようなところもありました。

でも今はその時期を脱したと感じています。これまでとは逆に、「選ぶ」、「誘う」、「断る」勇気を持ち、数は少なくても生涯の友を見出していきたいと思っています。その過程はできる限り100%自分の意思であり、願わくは相手にとっても100%望むものであるように。そして、濃く深く手応えのあるお付き合いの中で、残りの人生を共に歩んでいけたらと思います。

(いつか子どもたちが巣立っていったら、「友人夫婦と旅行」などという、今までほとんどしたことがなかった経験をするかもしれません。マイペースの私にはかなり勇気のいることですが(笑)、それが楽しめるようになっていますように。
写真は夫と子どもたちが行ってきたばかりのネルソンのモトゥエカ→)


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「マヨネーズ」
年末に夢を見ました。知り合ったばかりの同年輩のご夫婦と話しているところです。奥さんは黒いストレートの髪と穏やかな語り口が東京の友人に似ています。けれど顔がよく見えません。はっきり顔が見えたご主人は友人のご主人とは別人でしたが、2組の夫婦4人で意気投合しどの組み合わせでも話が弾むのは、友人夫婦と過す時間によく似ていました。

私は彼女を「エリコさん」と呼んでいましたが、これは寝る直前に読んでいたこのブログのせいかと思われます(笑) お会いしたいな、エリコさん夫婦≧m≦

西蘭みこと 

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