「西蘭花通信」Vol.0526   生活編   〜横車は押さないV〜                2010年9月3日

「水がどこから来るかって?空から来るに決まってるじゃないか!」
大雨のたびにガレージ前が冠水する隣家の水が、自宅の敷地内にも流れ込んでくるようになり、この問題を下水管という根本から解決しようと市に掛け合った私に対し、お隣のご主人はこう怒鳴り、話の腰を折ってしまいました。

「これじゃ、どっちが被害者かわからないわ。」
普段の生活でまず聞くことのない怒声を奇異にも新鮮にも感じつつ、話をこのレベルまで下げられてしまっては、応えようがありませんでした。電話を切った私に、相手は「勝った!」と思ったでしょうが、こういうものに勝負があるのだとすれば、ここは負けるが勝ちです。大声に恐れをなしたのではなく、呆れて二の句がつなげなくなっただけです。

その時ふと、移住して来た当時の友人の忠告が6年ぶりに蘇ってきました。
「みこと、この国は横車を押した者が勝つんだ。とにかく押して押して、引いたら負けなんだ。」
そんな内容でした。「横車を押す」という部分は確か一語の形容詞で、知らない俗語でした。家に帰ってネットで検索したはずですが、「横車を押す」という訳語が出てきました。話しの最中は「ゴリ押しかぁ」と理解したので、友人の忠告はそれなりに正しく受け取っていたと思います。

しかし、いかに誠実に正直であるかを生きる指針とする私に、忠告は180度の方向転換を迫るものでした。いくら新天地とはいえ、不惑を過ぎた者にそうそう揺るぎはありません。
「この英語じゃゴリ押しなんか無理よ。」
と笑ってかわそうとしましたが、彼は真剣でした。「横車を押す」の元の英語がなんだったのか、今やまったく思い出せません。それぐらい私には縁のない生き方でした。

隣人の「水は空から来る」はゴリ押しもゴリ押し、横車も押しに押した滅茶苦茶な話です。「無理が通れば道理引っ込む」そのもので、これがキウイ流なのでしょうか? しかし、いくら横車を押されても、私は押し返しません。無理を通してその場をしのぎ、内心しめしめと思っても、それは運を前借りしているだけだと思っているからです。

借りたものは返さなければなりません。借金なら「いつか余裕ができたら」ということも可能でしょうが、運ばかりは自分でコントロールができません。ある日突然、前借り分を持っていかれます。それも往々にして最も失いたくないものを持っていかれる気がします。財運だったり、仕事運だったり、健康運だったり・・・・
(多少話の趣きは違いますが、同じことを移住前のメルマガで書いているので、よろしかったらどうぞ)Vol.0186 〜神に出逢う時〜

話がずれてしまったので元に戻しましょう。さて、ここまで読み進め、「たかが雨水ぐらいで」と思われる方もいるかもしれませんね。しかし、オークランドの冬は雨季も同然で、局地的集中豪雨がしょっちゅう起こります。さらに最大の懸念は、戦争直後に開発されたこの一帯はどこかの時点で直していない限り、コンバイン・システムと呼ばれる雨水と汚水を同じ下水管で処理している点です。汚水にはトイレの廃水も含まれます。

隣家は今の隣人が購入する前から増築してあったそうですが、ガレージの造りなどから判断して雨水と汚水を分けるセパレート・システムが導入される前の工事のようです。隣人は越して来たときから冠水の問題があったと言い、"I don't know why"(それがなぜだかわからない)と繰り返しているわけですから、隣家は誰も下水管を埋め替えていない建築当時のコンバイン・システムのままである可能性が高いのです。我が家も増築してありますが、セパレート導入以前だったので、母屋はいまだにコンバインです。

この家に越してくる前も同じエリアの古い家に住んでいましたが、そこで落ち葉が下水管に詰まり、家中の排水に問題が生じたことがありました。借家だったので不動産屋が業者を派遣してくれ、轟音を立てる古びた機械で詰まりを直す作業に立会いました。その時に絶句したのが、汚水の中に、あろうことかトイレットペーパーが混じっていたのです。これには全く言葉を失いました。


(システムも年代物なら、機械も年代物→
この時の話はコチラでもどうぞ)



いくら下水とは言え、トイレの廃水は全く別物と頭から信じていた私には相当のショックでした。ランドリーやキッチンの詰まりが本格化しだしたときに、トイレの臭いがし始めたことが不思議だった謎が解けました。移住前の香港でのマンション暮らしではトイレと生活廃水のパイプははっきり分かれており、衛生上からも汚水処理の効率からも、それは当然のことだと思っていました。しかし、この国ではそうではないようです。(セパレート・システムもトイレと生活廃水は一緒のようです)

つまり、うちと同時期に建てられた隣家から流れ込んで来る水が、全て雨水とは限らないというわけです。大雨でもシャワーも浴びればトイレも使うでしょう。そんな水が自分の敷地を縦横に流れ、玄関を周っていくところを想像してみてください。私の動揺が少しはお分かりいただけるかと思います。
(つづく)

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「マヨネーズ」
昨日の「9月はがんばろうと思います!」の言葉通り、今日も更新♪ しかし、日記「さいらん日和」が止まってしまいました^^; こちら立てばあちら立たず?! ガーデン日記「さいらんガーデン」はけっこう小マメに更新中。自然好きな方は、ぜひどうぞ。

西蘭みこと 

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