「西蘭花通信」Vol.0531   生活編   〜フレンチ・ドド〜              2011年4月11日

ここ数日、夫婦で風邪気味な私たち。外出先から戻るや、どちらからともなく「偏頭痛がする」と訴え、症状まで一緒。それでもキッチン周りを片付け、買い物してきたものを収納して部屋に戻ると、夫がベッドに入っているではないですか!
「ズル〜い。そんなのアリっ?」
と笑いながら言うと、
「明日の激しい運動(=ゴルフ!ふざけるなっ!)を控えて、大事をとって・・・・」
と、布団にくるまりながらムニャムニャムニャ。

ゲラゲラ笑いながら私も負けじとベッドに入りました。けれど身体が温まったせいか、すぐに偏頭痛も解消し、とても夫のように寝息を立てるわけにはいきませんでした。その時、遠い昔の記憶が思い出されました。懐かしくなって古いアルバムでもめくるように思い出の中に遊んでみました。

それはパリで暮していた25年前のこと。週末になると、台湾で知り合ったフランス人の友だち、マルティンのところへよく遊びに行っていました。彼女は駆け出しの映画監督の卵で、朝から晩まで1日24時間映画のことを考えているような人でした。彼女の足元にも及ばないものの、マルティンは私の映画好きを買ってくれ、片言かつハチャメチャなフランス語に辛抱強く付き合いながら、ずっと仲良くしてくれました。私も私で滝にでも打たれるように、彼女が浴びせる映画評にひたすら付き合っていました。
マルティンのパパはスキン関係の研究所を共同経営する化学者のミシ。確か彼らの研究所が開発した成分が後にシワ取りクリームとして大ヒットした、シャネルのとある商品になったはず。当時はまだ開発中で、
「シワはキレイに取れるようになったんだけど、一つ問題があってね。肌がブルーになっちゃうんだ。」
と冗談とも本当ともつかないことを言っていましたっけ? ママンはキティ。オペラ座近くに友人数人と大きな店を経営していて、いつも幸せそうな笑顔を絶やさない小柄な人でした。

マルティンは私と同い年だったので、当時の両親は50代だったと思います。2人とも責任の重い仕事で週末ともなればぐったりのはずが、よく家に人を招いては夜遅くまでブランデーグラス片手に語り明かし、私もしょっちゅうご相伴にあずかっていました。それでも日曜日の朝となると、ミシは1人で早起きをし、Yシャツを着てネクタイを締め、ベストやジャケットを着て出かけていきます。小1時間ほどで戻るとキッチンに立てこもります。

と言っても、この辺は私の想像でミシがなにかをしている間も、私は夢の中。もちろん、マルティンも。多分、キティも。用意ができるとミシは2階に上がってきて、私たち3人を起こします。みんなで眠い目を擦りながら降りていくと、テーブルには所狭しとプチデジュネ(朝食)の数々が並んでいます。

ミシは近くのマルシェに買出しに行っていたのです。切り立てのハムやチーズ、焼きたてのクロワッサンやパン。箱買いしてきたオレンジをジューサーで絞ってくれるのもミシの仕事でした。女3人は腕まくりをしたままのミシにハグをして、「いただきま〜す♪」 あのオレンジジュースの美味しさは言葉になりません。

ゆったりとした日曜日のブランチが済むと、ミシとキティーは2階に上がり、それっきり降りてきません。始めは部屋で本でも読んでいるのかと思っていました。
「寝てるのよ。」
とマルティンが事もなげに言うのを聞いて、初めて昼食にも降りてこない理由がわかりました。

「2人とも疲れが溜まっちゃうみたいでよほどの事がない限り、日曜日の昼間は出掛けないの。」
ということでした。でも、夕方からは外食だ、観劇だと、お洒落して出かけることもありました。
「ずっと寝てるのかしら?」
私は思いもかけない習慣に興味津々でしたが、マルティンは、
「さぁね。話したり音楽を聴いたりもしてるんじゃない。」
と、まったく興味がなさそうでした。

その時ふと、「こういう年齢になったとき、昼間からシーツとシーツの間に滑り込むのもいいなぁ」と思いました。眠ってもよし、起きていてもよし、本を読んでも、音楽を聴いても、新聞を読んでいてもよし。もしかしたら、バスタブでまどろんでいるかも。

気が付けば私もミシやキティの年齢に近づいています。まだまだ日曜日は出かけたり、仕事をしたりで、朝食の後に寝ようとも寝たいとも思いませんが、いつか子どもが家を出て夫婦2人だけになったら、
「そんな日があってもいいかもしれない!」
(特に冬の寒い日なんかは・・・)
と思いました。

                        (パウアヌイのホテルにて→)


フレンチ・ドド。
ドド(dodo)はフランス語で「眠り」や「ねんね」。「アレ・オ・ドド!」と言えば、親が子どもに「ねんねしなさい」「早く寝なさい」と言うようなもの。生活の中にスタイルを貫いていたミシとキティを懐かしみながら、日曜日の昼下がりのドドを「いつかのお楽しみ」に取っておこうと思います。(その前に寝室にバス・トイレをつけないと!ミシたちは天窓から星が見える、大きくて明るい専用のバスルームがありました)

・・・・・なんてことを考えていたらすっかり目が覚めてしまい、ぐっすり眠る夫を置いて、ベッドを抜け出した、今の私なのでした。

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「マヨネーズ」
東日本大震災から丸1ヶ月の日に「昼寝のメルマガだなんて不謹慎!」と叱られそうですが、浮き足立っていたこの1ヶ月の日々を少しでも日常に引き戻したいという心の表れかとも思い、配信します。

被災者や避難者が1日でも早く、1人でも多く「日常」を実感できるようになることを祈って止みません。最近毎日見ている、DJ村内さんのブログ。放射線避難地域での置き去りにされてしまったペットの救出劇。なんて貴い勇気!心からの感謝を。

西蘭みこと 

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