「西蘭花通信」Vol.0537   NZ編   〜NZ捕物帳〜                 2011年5月14日

5年ほど前からOPショップ(オポチュニティー・ショップの略)と呼ばれる、寄付された衣類、家庭用品、古本など不要品を売るチャリティー・ショップでボランティアをしています。土曜日は慢性的に人手不足なので、時間が許せば一番混み合うランチタイムの前後数時間は顔を出すようにしています。今日も3時間ほど手伝ってきました。

婦人服を片付けていると、斜め後の姿見のところで男性が試着をしています。後姿しか見えませんでしたが、試していたのはバックスキンのなかなか洒落たジャケットです。メンズコーナーを片付けているとき、手に取った商品でした。アメリカのブランド「ナウティカ」のもので程度もよく、値段は35ドル(約2,500円)でした。
「あの品であの値段だったらすぐ売れちゃうよね〜」
と思いながら、片付けを続けました。

数分して別のコーナーに移動しようとすると、ジャケットを着たままの男性が家電コーナーにいます。試着したまま動き回る人もたまにはいるのですが、衣料品コーナーから離れているのが気になり、レジ係とフロア係の1人ずつに声を掛けておきました。
「あの野球帽を被った男性が着ているのは商品で35ドルよ。」

意図を察してくれたフロア係が男性のすぐ傍で商品の片付けを始めてくれたので、私は持ち場に戻りました。しかし、お客さんに声を掛けられて商品を探したり、売り場の案内をしたりしていても、なんとなく男性が気になって視界の端で確認していました。
「ネクタイがほしいんだけど、もっと在庫がないかしら。」
アイランダーの中年女性に声を掛けられ、奥から在庫を出してきたときでした。

ジャケットを着たままの男性が出入口から出て行く後姿が見え、ハッとフロア係を探すと彼女の姿はなく、伝言しておいたレジ係の驚いた顔と目が合いました。ちょうどインド人の男性マネージャーがレジ付近にいたので、走っていきながら、
「あの人、払ってないわ。追いかけて!」
と言いつつ、マネージャーと一緒に外に出ました。

ペラペラの夏の半ズボンとサンダルの上に、腰までかくれる長めの皮ジャケットという、見た目にも不自然な格好の男性。店の前の駐車場でクルマに乗り込むところを、マネージャーが声を掛けました。話しながらも運転席に乗り込む男性。私は真面目で小柄なマネージャーが殴られでもしないかと心配で、少し離れたところで付き添っていました。男性は上背のある40前後の白人男性。2人は二、三言言葉を交わし、マネージャーはこちらに向き直り、戻りかけました。

「クルマにお金を取りに来ただけで、レジに払いに来るって。」
とホッとした顔で言います。
ま・さ・か!

「あの人、あのまま発進するわよ。現金があるんだったら、すぐにお金をもらって。」
と叫ぶと、男性はクルマのドアに手を掛けて、今にも締めようとしているところ。慌ててマネジャーがクルマに駆け寄り、やっとのことで35ドルを回収しました。

2人でお店に戻ると、ボランティアたちがわっと寄ってきました。
「払ったよ!」
とマネージャーが言うと、みんな安堵のため息。ボランティアは女性ばかり、しかも高齢者がほとんどで、今日のところは49歳の私が最年少なくらいですから(マネージャーは30前後で格段に若いですが)、こういう事態にはやはり緊張が走ります。

「みこと、ありがとう。危なかったね。でも万が一、あのまま逃げてもクルマのナンバーを控えておけば、そこから犯人を割り出せるし・・・」
と言うマネージャー。紙も鉛筆も持たずに店を出たのに、とっさにナンバーを覚えられたでしょうか?この国ではなぜか、郵便局でクルマのナンバーから所有者の名前と住所を調べることができます。でも1回の費用は20ドルだか25ドルだかです。35ドルの商品を取り返すのにそんなにコストをかけるなら、現場を押さえるに越したことはないでしょう。

「でも、店には防犯カメラがあるから逃げて警察に通報されたら、彼はもっと厄介な目に遭うよ。」
と、それでもまだ余裕を見せるマネージャー。この国の警察が35ドルの万引きのために出動してくれたら、かなりラッキーです。現行犯ならまだしも、後日となると可能性はさらに低いでしょう。家に空き巣が入っても警察が来ないか、来ても数日から1週間後だったりする国です。

母親のような年齢の高齢者ボランティアに囲まれて、意気揚々と一部始終を話すマネージャー。移住してきて2年程とかで、この国の事情をよく飲み込めていない様子。上の方のカーストのお坊ちゃまな雰囲気もあります。大学では商科を専攻したそうですが、商いは(彼はボランティアではなくスタッフ)教科書どおりにはいかないもの。なにせNZは驚くなかれ、小売売上の平均20%相当が万引きされているという、「万引き天国」なのです。

善意の不用品が山のように届くのもこの国なら、
それを平気で盗む人がいるのもこの国。
心してかかりたいと思います。

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「マヨネーズ」
マネージャーに声を掛けられた男性は非常に落ち着いていました。お金を払わずに出たことを詫びるわけでも、「万引き」を疑われて怒るわけでもなく、ただ淡々と無表情でした。その落ち着きがかえって確信犯を実感させました。


(NZの警察が空き巣ぐらいでは出動してくれないのは、人手不足で忙しいからとか。そういえば家の近所で警察車両を見かけることが、今まで住んだどこの国よりあります・・・・汗→)

西蘭みこと 

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