「西蘭花通信」Vol.0538   NZ・経済編   〜キウイ・キリギリス〜           2011年5月16日

NZでは1994年より、個人の貯蓄率が実質マイナスで推移しています。つまり所得以上にお金を使っている状態が続いているのです。(その差を埋めているのは、も・ち・ろ・ん、借金です)さすがに2008年以降の景気悪化で野放図な支出にストップがかかっていますが、相変わらず銀行にあるのは、「貯金」ではなく「借金」という状態が続いています。

手元の資料によれば、2008年の各国の世帯貯蓄率(対可処分所得比)は日本で約9%(20年前では約20%!)、NZ同様に「あったら使う」カルチャーのイギリスでも5%(20年前も5%)、NZはかろうじて0%でしたが20年前は6%近くあったので貯金をしない傾向が強まっています。(まぁ、日本も同様ですが元の数字が非常に高いのでまだ余裕があります)

なぜキウイはこんなにパッパとお金を使う、キリギリスのような生活をしているのでしょう?一番の理由は「福祉の充実」ではないかと思います。仕事が見つからなければ「失業手当て」(条件が付くものの仕事が見つかるまでもらえるので、見つからなければ一生もらえます)、シングルマザーや離婚して片親になり子どもがいれば「家事目的手当て」、収入が一定以下なら「家賃補助」と、ほんとーにいろいろな生活保障があります。65歳になれば国から自動的に年金(スーパーアニュエーション)がもらえます。日本のように年金を納める必要はなく、国民と一定条件を満たした永住者なら誰でももらえます。
太っ腹!

夫婦2人とも65歳以上であれば、世帯当たりの年金支給額は週522.96NZドルになります。65〜70円換算で月額15万円前後です。日本との物価の違いを考慮すると20〜25万円の感覚ではないかと思います。この金額が多いか少ないかは個人次第でしょうが、自分で積立てる必要がなく自動的に支給される年金としては、世界でも例を見ないほどの厚遇ではないでしょうか。

持ち家があれば、なくても非常に家賃の安い国営住宅や年金者住宅があるので、年金だけでそこそこ暮らしていけます。実際、多くのキウイが年金だけで暮らしています。それに老後の蓄えがあったり借家の1軒でもあれば、かなり余裕が出てきます。この国は自営業者も多いので、65歳以降も片手間に仕事を続ける人が少なくありません。

そんなこんなで、この国の高齢者の貧困率はわずか2%(経済先進国の平均は13%)と極端に低率です。年金で食べていけるのであれば国民が老後に備えず、「宵越しのカネはもたねぇ」の勢いでその時々を楽しみ、パッパと遣ってしまうのもうなづけるかと思います。

もうひとつの理由は「不動産の魅力」でしょう。日本のようにデフレが長引いている国は例外として、先進国のインフレ率は長期的には2〜3%で推移しています。これでいくと30年で物の値段は2倍、つまりお金の価値は半分になってしまいます。(同じものを30年後に買おうと思ったら2倍の金額を払うことになります)

将来のことはピンと来ないかもしれませんが、過去の数字ならどうでしょう。1980年の日本の大卒初任給は約11万円でした。30年後の2010年のそれは約20万円です。これは所得水準が上がったのではなくインフレの結果です。

「必ず目減りするなら貯金なんてバカらしい!」
と、キウイが思うのも最もです。しかもこの国には打ち出の小槌のように、一振り二振りで価値が上がっていく不動産があります。不動産といっても住宅のことです。NZの家賃は過去30年で11倍になりました。同じ30年で現金の価値が半分になっていることを考えると、
「これはもう貯金なんかしてないで、マイホームでも投資物件でも不動産を買うっきゃない!」
となるわけです。

しかし、家1軒となるとなかなか手持ちの資金でポンと買えません(そもそも購入資金を貯めている間にも物件価格は値上がりし、お金の価値は目減りしていきます)。なのでキウイは必死で頭金を貯めたら、とっとと物件を購入します。購入時の所得で目いっぱいの金額に返済額を設定し、ギリギリで突っ走ります。「貯金の余裕などまったくない」というより、あったらその分を返済に回す方が投資効率が良くなるので、する気がないのです。かくして、
「貯金はないけど家はある」
という、キウイにとって理想の資産形成になるわけです。

しかし、個人の預金より借金が多いわけですから、銀行も集めた預金で住宅ローンの原資を賄うことはできません。海外で債券を発行してあの手この手でかき集めてきます。こうしてNZの海外依存度は上昇する一方で、何らかの事情で海外からの資金調達が止まったら深刻な信用不安に見舞われることでしょう。2008〜09年のリセッションはなんとか切る抜けることができ、ギリシャやアイルランドの惨状を対岸の火事として眺めて終わりましたが、これはさまざまな要因が重なった「かなりの幸運」だったと思います。

この国も時間の問題で深刻な高齢化社会に突入します。税金だけで年金を賄う夢のような状態が長続きしないのは明らかです。住宅価格の上昇が永遠に続かないのも、日本やアメリカを見るまでもありません。財政も赤字に転落し、政府が大鉈を振るわなければならない時期はとっくに来ています。しかし、どの政権も選挙対策もあって、なかなか踏み切れずにいます。

借金の返済の先延ばしほど、高くつくものはありません。

(一大財産なのでキウイは家の改修や増築で価値を高めることに余念がありません。これも丹精された美しいコロニアル調の家でした→)


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「マヨネーズ」
仕事で煮詰まり、息抜きで(サボって?)メルマガを1本書いてしまいました。ここ数日、鼻風邪を引いてしまいランニングもお休み中で、イケてない日々(涙)

西蘭みこと 

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