「西蘭花通信」Vol.0546   NZ編 〜ブルースプリング・レポートVol.18:デイリーで〜  2011年10月3日

「デイリーで何かあったみたい。」
善(14歳)が学校から帰るや、そう言いました。
「何かって?」
と聞き返すと、
「温くんなら、もっとわかると思う。」
と、言い残して部屋に引っ込んでしまいました。

ティーンエイジャーらしく話すのが「かったるい」のか、限られた日本語のボキャブラリーで説明するのが「面倒くさい」のか、多分その両方でしょう。空にはヘリコプターが轟音を立てて旋回しています。
「デイリーと関係ある?まさかね。」

デイリーとは、どの街にもある食料品店兼雑貨屋で、近所にもあります。NZではコンビニ代わりの存在です。新聞雑誌、パンやパイなど出来合いの食べ物、牛乳や飲料品を買いに来る人がひっきりなしに出入りする場所で、クジなど賭け事の窓口になっていたり、規模が大きいところではちょっとした日用品が揃うところもあるようです。大体が家族経営の小さな店で、タバコも置いているため強盗など事件に巻き込まれることもよくあります。

30分ほどして温(17歳)が帰ってきました。
「デイリーに強盗が入ったんだ。」
思った通りでした。
「でも、なにも盗られなかったの。オーナーのチャイニーズが竹の棒みたいの持って追いかけていったら、犯人のティーンエイジャーが道に座って動かなくなっちゃって、すぐに警察がきたからそのまま捕まっちゃったんだ。」

「全部見てたの?」
「うん。だってあのコが僕の目の前に飛び出してきて、もう少しでぶつかりそうだったんだよ。ダメだよ、あのコ。運動不足で全然走れないんだ。ちょっと走って道のところに座って、そのままじーっとしてんの。」
あのコ?運動不足?

詳しく聞くと、派手な色のバスケットボール・ユニフォームを着てキャップを被った丸腰の白人ティーンエイジャーが店に入るや、店番をしていたデイリーオーナーの奥さんに、
「カネを出せ!」
と騒いだそうです。奥にいたオーナーが竹刀を持って出てきたので、犯人は何も盗らずに逃走・・・・・・
しかし、たったの数百メートルでギブアップ。追いついたオーナーは取り返すものもなく、犯人はそのまま座り続けて、駆けつけた警察に即御用。

「なんなのそれ?」
と思わず言ってしまった、お粗末な話。犯人に不足していたのは体力だけではなさそうです。
「でしょ?あんなに目立つオレンジとグリーンのカッコして、顔も隠さないで、『ボクが犯人です』って言ってるようなもんじゃん。デイリーって必ずセキュリティーカメラあるし。だいたい騒いでも、あの奥さんには通じないよ。オーナーも『何を言ってるかわかんなかったけど、"ギブ・ミー・マネー"でわかった』って言ってたもん。」

温は目撃者として警察の事情聴取を受けたそうです。他にも買い物客がいて、現場から猛スピードで立ち去るクルマの車種とナンバーが目撃されていました。犯人には仲間がいて、首尾よく行ったらクルマで逃走する計画だったのでしょう。温もそのクルマを見ており、中には犯人よりももっと年上に見えるティーンエイジャーが数人乗っていたそうです。

捕まった犯人は18歳以下の未成年で、この辺では見かけないコだったそうです。多分仲間うちの最年少で使いっぱにされたのでしょう。本人は犯行の動機として、「家に帰るカネがほしかった」と言ったそうですが、それも事前に入れ知恵されていた可能性が高そうです。

傍を通り掛かったイヌの散歩中の高齢者の女性が、
「かわいそうね。こんなことで人生を棒に振ってしまうなんて。」
と、独り言をつぶやきながら頭を振り振り通り過ぎて行ったと、温が言っていましたが、この国ではこの程度のことで「人生を棒に振る」ことにはなりません。交通事故で被害者が死亡しても、罰金刑で済んだりすることもある国です。

犯人は未成年なので、逮捕されても名前が出ません。共犯者が彼を実行犯にしたのは、そのこともあってでしょう。温が犯人はどうなるのか警察官に聞いてみると、
「未成年だし、武器もないし、何も盗ってないし、どうなるんだろうね。我々が決めることじゃないからね。ところでキミ、○○高校?ボクもあそこの卒業生なんだ。」
という返事だったそうです。

ヘリコプターまで出動してこの結果。文字通り大山鳴動して鼠一匹です。デイリーオーナーたちに何もなかったのは何よりですが、問題はNZでは若者によるこんな事件が日常茶飯事なことです。飲酒と薬物の蔓延、若年層の高失業率、ティーンのシングルマザー化、学力の低下など、若い世代の貧困化が急速に進んでいる状況に改善は見られません。学校や仕事のある若者と、そのどちらもない若者。二極化は深刻です。

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「マヨネーズ」
温の友だち2人は誕生日が同じ。18歳になったその日、2人は学校を抜け出しシティーへ。目抜き通りのクイーン・ストリートを下から上へ、開いているバーを1軒1軒ハシゴして1杯ずつ引っかけ、全部制覇したそう。2人の自慢はそれを制服でやってのけたこと。この手の「武勇伝」はフェイスブックで瞬時に広まります。

「要はさ、みんなすることがないんだよね。部活もない(若干ありますが日本のものとは大違い)、授業も選択(テストのない楽な科目ばかり選ぶことも可)、受験もない(NZには入試がありません)、運動会も修学旅行もなくて、あるのはボール(年に1回の学校主催のダンスパーティー)とバイトぐらい。だから、みんなちょっとしたことで、人より目立ちたいんだよ。」

でも目立つ内容は学業やスポーツではなく、
「規則を破ること」
であるというのが、温によるこの国のティーンエイジャーの分析です。
「それって、なんか淋しいよね。」
というのが彼の感想。


(誕生日の2人がどうやってシティーに行ったのかが気になる私。温曰く、「クルマじゃない?」ここは15歳から免許が取れる国でもあります。
今年から20歳以下の飲酒運転が禁止になりました→)



西蘭みこと 

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