「西蘭花通信」Vol.0557 経済編 〜不動産チャチャチャ:三冠王〜 2012年3月28日 「ねぇねぇ、これ見て!」 ネットをのぞきこんでいた私は夫を呼びました。開いていたのは「トレードミー」と呼ばれるNZ版ヤフーオークションのようなオークション・サイトで、業者が出す不動産広告もたくさん掲載されています(全てがオークション物件とは限りません)。投資物件の購入を検討し始めてから、マーケット・ウォッチはすっかり私の日課になっていました。 「レミュエラじゃん!」 夫が即座に言いました。レミュエラと言えばオークランドばかりでなく、全国的に高級住宅地として知られる場所です。広告はそこにある、ユニットと呼ばれる集合住宅の1戸でした。戸数が10戸以上ある規模の大きなもので、60年代の建物らしい重厚なレンガ造りでした。写真で見る限り敷地も部屋も広々としていて、専用の前庭と裏庭もあります。 (典型的な60年代のレンガ造りのユニット→ 本文とは関係ありません) 「これも見て!」 私は別のウィンドウに開いていた、CV(Capital Value)と呼ばれる各自治体が固定資産税の算出のために出している不動産評価額のページを示しました。 「前回が36万ドル(1NZドル65円換算で2,340万円)、今回が34万ドルよ!」 「下がったの?」 「そう、2万ドルも。」 オークランドの不動産価格はすでに2008年のリーマンショック以前の高値を更新し、過去最高水準にあります。日本の方には理解しづらいかもしれませんが、ここは築100年近い住宅がゴロゴロしているうような場所です。古くてもいい物件であれば上物(うわもの)の価値は下がらず、土地の値段は上がる一方なので、結果的に不動産価格が上昇しています。 CVと実勢価格はほぼ連動します。しかし、昨年後半に発表された最新CVでは、レミュエラやベイ・エリアと呼ばれる市東部の海岸線に近い人気エリアで、前回を下回る物件が続出しました。マイホームとして考えれば固定資産税が下がって万々歳なのですが、投資家や売却を考えていた人には資産価値の目減りやCVが目安になる売却希望価格が下がるなど、由々しき事態となりました。 「うちは100万ドル!」 (実際は6500万円ですが、こちらの物価や大台という点で1億円の感覚に近いかと思います) と思っていたら、 「CVが80万ドル台になってしまった!」 などという話も出て、しばらくメディアで喧々諤々とやっていたものです。逆に我が家のようにCVが大幅に値上がりしてしまったエリアもあり(泣)、個別物件では20%以上の値上がりもありました。 「この立地でこの広さ、最低でも40万はしそうだな。」 「でしょ?中も外も相当手直ししてあるわよ。」 私が室内の写真を次々に表示していくと、 「相当カネかけてるな〜」 夫が感嘆の声をあげました。 ほんの数分前、その物件を見つけたときの私も同じように感じました。2部屋物件なのに4部屋ある我が家とそう変わらない面積で、キッチンなど置いてある家電製品との縮尺から考えると、プロの写真のテクニックだけでなく、本当に一軒家並みの大きさのようです。 「学区は?」 「三冠王よ。」 三冠王とは私たちが付けたあだ名で、小中高の学区がすべて人気校にあたる物件のことです。NZは高校も含めて入試がない完全な学区制なので、教育熱心な家庭が子どもを人気校に入れようと、わざわざ学区内の住所に引っ越すことも珍しくありません。不動産広告でも、「○○小学校学区」「○○高校学区」という表示が頻繁に出てきます。 「自分の家のときは子どもの学区なんて気にしなかったのに、投資物件となると気になるよな〜」 と苦笑いする夫。賃貸市場に出すということは、いろいろなニーズの人に好まれる物件であればあるほど有利です。しかし、そうした物件が押しなべて高いのは当然で、人気校の学区はそうでないエリアより割高になっています。 「この物件でCVが30万ドル台ってありえない。とりあえず見に行こう。」 あまりの割安感に銀行とのローンの話も終わっていないというのに、週末のオープンホーム(下見会)に行くことにしました。 「こりゃ、広いわ!」 エントランスに立っただけで、思わず夫が声をあげました。オープンホームに行くと、すでに数組が家の中を闊歩していました。所定の用紙に名前と連絡先を記入し資料を受け取ると、私たちも下見客に紛れ込みました。玄関、廊下、キッチン、リビング、造り付けのクローゼット、どれをとっても一軒家の我が家より広く、全面北向き(北半球の南向き)です。予想外に角部屋だったので、部屋の明るさも戸建並みに感じました。 若い中東系らしい下見客は持参したメジャーで家のあちこちを測っていました。購入したあかつきに置く、家具のことでも想定しているのでしょうか?アジア人とキウイの若いカップルもいました。初めての持ち家購入なのかもしれません。あとはやや年配の白人の女性や家族連れが何組か。不動産屋とも顔見知りの投資家風情の人もいました。 「これで30万ドル台ってありえない!」 私たちの最初の感想は下見をして、一層強くなりました。(つづく) =========================================================================== 「マヨネーズ」 NZでの不動産購入にあたって、CVは曲者です。結局のところ、相場はCVを意識しており、銀行はさらにCVを重視するので、「たかがCVされどCV」なのです。我が家のように今回の見直しで20%近くも上がったエリアは「見送り」(笑)、下がったか変わらなかったエリアを重点的に見て行きたいのですが、これまた道1本挟んだだけで上げ下げが反対だったりして、なかなか一筋縄では行きません。 西蘭みこと ホームへ |