「西蘭花通信」Vol.0558   経済編 〜不動産チャチャチャ:三冠王U〜        2012年3月29日

レミュエラでみつけた「三冠王」(小中高の学区がすべて人気校にあたる物件に、私たちが勝手に付けたあだ名)を、
「これでCV
(Capital Value:各自治体が固定資産税の算出のために出している不動産評価額)が30万ドル台なんてありえない!」
と言い切れたのは、ベイ・エリア
(オークランド市東部の海岸に近い人気エリア)の同様の物件では、CVが軒並み40万ドル(1NZドル65円換算で2,600万円)だったからです。

どちらのエリアがいいかは好き好きでしょうが、賃貸相場も学校の人気も、レミュエラの方が上です。さらに、見つけた「三冠王」は一般的なユニットよりも広く、ボディコープと呼ばれる管理組合の費用も手入れの良さを考慮すると、驚くほど妥当な金額でした。列車の駅も、人気の繁華街ニューマーケットも徒歩圏内でした。賃貸物件としては完ぺきでした。

投資の観点から考えると、最大コストである購入価格でほぼ利回りが確定します。全く手直しが必要ないほど良好な物件となると、今のように、賃貸物件不足がたびたび新聞を賑わす貸し手市場にあっては、前傾姿勢で臨むべきところでした。
「レミュエラねぇ、うーん。」
と、個人的な好みから言えば、今ひとつピンとこない私たちでしたが、ここは計算づくで参戦すべきでした。不動産屋には「オークション参加」と答えておきました。

後日、不動産屋から連絡が入り、オークションの日程が早まったと知らされました。理由は他の不動産屋が「45万ドルで買いたい客がいる」と売主にアプローチしてきたため、売主の要求で日程を早めたというのです。日程を早められなければ、売主は45万ドルで売ってしまうつもりなのでしょう。と言うことは、その金額は売主にとって十分満足のいく、想定以上の金額だったことになります。

オークション当日、私はどうしても仕事で外すことができず、夫だけが行くことになりました。ズボンのポケットからこれみよがしに小切手帳をはみ出させ、
「これなら冷やかしじゃなくて、買いに来たように見える?どうする、うっかり手を挙げて買ってきちゃったら。」
「いいんじゃない。自分の名義で買って、自分でローン払いなさいよ。」
「え〜っ!」
と、妙にウキウキしながら出かけていきました。

しかし、行ったと思ったら帰ってきました。オークション会場が近かったとはいえ、ビックリする早さでした。
「初戦敗退!」
「敗退って、参戦しなかった人が言う?」
と笑いながら言うと、
「いくらだったと思う?」
「45万以上ってことよね?」

人気エリアということを考慮してもCVへの上乗せは15〜20%が一般的なので、最新CVの34万ドルを基にすれば、売値は39〜41万ドルというところでした。競り上がっても42〜43万ドルではないでしょうか。「CVが下がる理由が見当たらない」という点から、私は以前のCVである36万ドルを基に41〜44万ドル、「競り上がって45〜46万ドル?」と想定していました。しかし、何が起きるかわからないのが、オークション。

夫によると、会場には5、6組が集まり、家中をメジャーで測っていた中東系らしい人も、アジア人とキウイの若いカップルも来ていたそうです。最初に「オークションは45万ドルから始まる」という説明があり、その時点で集まった人にとり、オークションは終わったも同然でした。しかし、オークショナーの真ん前に陣取った、中年の中国人を除いて。

競りは最初から、45万ドルを提示したと思われる電話での参加者と、会場の中国人との一騎打ちでした。電話の主が3千ドル上げれば中国人も反射的に3千ドル上げ、価格はあっという間に46万ドルを突破しました。電話の主の反応が遅くなり、中国人優勢は明らかでした。中国人が46万5,000ドルをつけると、電話の主が黙りました。

「ファースト・コール!」
オークショナーが声を高め、それ以上の札が入らないか確認に入りました。オークションで最も緊張が走る、儀式めいた瞬間です。オークショナーは誘うような能書きをとうとうと述べ、雰囲気を盛り上げます。サード・コールまで呼んで誰も応じないと、最後に高値をつけた人が落札者になります。
「セカンド・コール!」

「ハリーアップ(早くしろ!)」
見るからにイライラしていた中国人が電話の主にも聞こえるような大声を出し、勝敗がつきました。電話の主は沈黙したままでした。
「サード・コール!」
それまで優雅に仕切っていた場をぶち壊しにされたオークショナーが最終コールを告げ、全てが終わりました。

「おめでとうございます。」
不動産屋が満面の笑みで中国人に駆け寄って握手を求め、中国人は面倒くさそうな不機嫌面。
「不動産屋は本当に嬉しそうだった。」
と夫がしみじみ言っていました。

不動産屋にしてみればこの中国人が競り落としてくれなかったら、45万ドルの客を連れてきた他社にビジネスを奪われていたわけですから、喜びも一入でしょう。最終的なCVへのプレミアムは37%。レミュエラの「三冠王」が、
「もしかして40万ドル以下?」
という夢を見ていた人たちは、「ハリーアップ!」の一言で叩き起こされました。これは私たちにとっても、ゲームのルールの違いを思い知らされる、ウェイクアップコールでした。

(買主本人が住むにせよ、賃貸に出すにせよ、今後は中国人の家になりそうな可能性大の「三冠王」→)

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「マヨネーズ」
中国人移民は一人っ子政策の関係で、子一人の人が大半です。レミュエラは教育熱心な彼らが最も好む学校の学区です。子どもが1人なら、「2部屋物件でもいいから、たった1人の子に理想の教育を!」となりそうです。こういうテナントが対象なら、家賃が週500ドルでも十分貸せるのでしょう。利回りはざっと5.6%。今の変動金利は平均5.7%。「ハリーアップ!」の根拠はこの辺なのでしょうか?

まぁ、こういう中国人は現金買いなんでしょうが。

西蘭みこと 

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