「西蘭花通信」Vol.0573   経済編 〜ブルースプリング・レポートVol.24:大学生とファイナンシャル・リテラシー〜    2012年6月6日

6月1日、オークランド大学の学生にとり前期最後の授業があったその日、目抜き通りのクイーンストリートで、大学生たち300人によるデモが行われました。デモ隊は主要道路を封鎖する形でオークランド警察署に向けて、「我々には力がある」とシュプレヒコールをあげながら行進したそうです。オークランドでは5月24日の来年度予算案の発表の日にも、大学生による座り込みがあったばかりです。

デモの理由は来年度予算に盛られた、学生手当や学生ローンの条件の厳格化への反対です。学生手当という日本人には耳慣れない手当とは、18歳以上で全日制の学校に通っている学生に対し、国が支給する手当です。親の年収が5万5,000NZドル(1 NZドル65円換算で357.5万円相当)以下であれば、高校生だろうが大学生だろうが、毎週満額の131 NZドル(8,500円相当)がもらえます(親と別居していれば170 NZドル)。学生が通学するだけで、国から毎月3万5,000円が支給されるなんて信じられますか?NZならアリなのです!

親の収入が5万5,000NZドルを上回ったり、学生にアルバイト収入がある場合は、それぞれの金額に応じて手当が減額されます。それでも親の収入が8万3,449.015 NZドルまでなら(数字が異様に細かいのはインフレ調整をしているため)、何らかの手当がもらえます。NZの平均所得が夫婦共働きの場合で1人平均3万8,000ドルと言われているので、平均所得以上の収入があってももらる、かーなーりばら撒きに近い手当です。

「みんなそれで飲みに行ってるよ!」
と高校時代から長男・温(18歳)が言ってましたっけ?(NZでは公の場での飲酒は18歳から)温は2月生まれでNZでも早生まれになるため、高校を卒業してから18歳になり、「国からお金をもらいながら高校に通う」という経験はできませんでした。

来年度予算に盛り込まれた学生手当の主な変更は、修士以上の学生には支給されないということ。つまり大半を占める普通の大学生には引き続き支給されるのです。支給の目安となる親の収入も2016年まで5万5,000 NZドルで据え置かれました。(ただし、インフレ調整がなくなったので、インフレ相当分が減額に)

さらに、学生ローンの無利息化も継続されました。日本人には学生手当の存在以上に信じられないことでしょうが、NZでは現在、学生ローンが無利息なのです!どこの世界に無担保・無利息で借金ができるという話があるでしょう!これは前政権が選挙対策への苦肉の策として学生ローンの無利息化というモラルハザードな政策をぶち上げた結果です。こんな政策が出てくるようですから万策尽きていたとも言え、選挙の結局は惨敗、そして政権交代。しかし、無利息化の政策だけは残ってしまいました。
一度無利息にしてしまうと、現政権もおいそれと元の状態に戻すことができず、苦慮しています。今のNZは財政赤字で、国が金利を払いながら借金をして、学生には無利息で借金をさせている状態なのです。当然ながら、無利息になったとたんに借入額もうなぎ上り。借りるだけ借りてそのお金をそっくり銀行に預けて金利を受け取っていたり、株で運用していたりという、容易に想像できるモラルハザードが現実のものになっています。

そんなこんなで学生ローンの累積貸出残高はすでに120億ドルを突破。これは国の1年間の教育関連支出の総額に相当します(NZの公立校は市立や県立はなくすべて国の傘下にあります)。さらに、もっともっと恐ろしいことに、国の貸倒率はなんと45%!学生に貸したお金の約半分が返ってこない、つ・ま・り、踏み倒されているわけです。

今回の予算では学生ローンの主に返済面での管理が強化され、2013年4月より国内に居住するの借り手の返済額を、収入に対して現行の10%から12%に引き上げることが決定しました。また、早期返済に対する割引制度の廃止、税関と税務署との連携を強化し、借り手が海外に出た場合の管理監督をより厳密にするなどの政策が発表されました。

ぜひ、次回は社会開発省との連携を強化して、ローンを踏み倒した場合、残金に懲罰金利をつけて(その間の金利は税金か国の借入で負担しているわけですから)、年金から差し引いてほしいと思います。そしてなによりも、一刻も早く学生ローンの金利を復活させ通常の状態に戻し、安易な借入を防止し、不必要な財政負担を軽減し、本当にローンを必要としている学生に十分な支援が回るようにしてほしいものです。

「また学生のデモがあったの知ってる?」
とアルバイトから帰ってきた温に聞くと、
「あぁ。知ってるよ。学校中にポスターとか貼ってあったもん。」
「行かないの?」
「行くわけないじゃん。行くのはアーツ(文学部)の子とかだよ。コマース(商学部)の子は誰もいかないよ。」
と、やれやれという表情で言います。曲がりなりにも経済を学ぶ身、現在の財政状況や国の学生に対する厚遇の意味を理解していると言いたそうでした。

                        (オークランド大学商学部→)
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「マヨネーズ」
学生ローンは学費や教材費だけでなく生活費まで借りられるので、それをあてにして親元を離れ、"憧れの"下宿生活を始める学生も多数います。3、4年間の生活費のほとんどを借金で賄えば、後でどういうことになるのかというファイナンシャル・リテラシー(お金に関する基礎知識)の啓蒙が著しく欠落しているように感じます。

特にNZでは日本とは比較にならないほど中退者が大勢出るので、進学しても学歴や雇用に結びつかないまま、借金だけが残ってしまうことが、さらに問題を悪化させています。

西蘭みこと 

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