「西蘭花通信」Vol.0574   経済編 〜ブルースプリング・レポートVol.25:温のアルバイト〜   
2012年6月8日


長男・温(18歳)は年配者にパソコンを教えるアルバイトをしています。きっかけは私のボランティア仲間で、パソコンの個人教授をしているスーザンから仕事を斡旋されたことでした。スーザンも70代なら、生徒も7、80代で、ほとんどがパソコン初心者。
「孫とスカイプがしたい」
「フェイスブックをやりたい」
「メールを送りたい」
「グーグルで検索したい」
というピンポイントな理由で手習いを始める人がほとんどです。

ある日、スーザンのもとに舞い込んだのは、
「タブレットを買ったけれど使い方がわからない。」
という80代の女性からの依頼でした。パソコンはお手の物でもタブレットを触ったことがないスーザン。彼女が白羽の矢を立てたのが温でした。数年前まで学校休みのたびに子どもたちをボランティア先に連れて行き、長い休みのせめて半日はボランティアをさせるようにしていたので、スーザンと温は面識がありました。

依頼主のミセス・キャスパーソンはとうにご主人を亡くし、子どももいない独り暮らしの身。しかし、暮らしぶりは決して寂しいものではなく、「ファミリーツリー(家系図)を作りたい」という一心で電機店に飛び込み、店員に勧められるがままにタブレットを購入してしまうほど、前向きで行動的でした。

依頼の内容は「インターネットもグーグルもメールも要らない。ファミリーツリーだけが作りたい」というものでした。とは言ってもネットで検索しなければ家系図はできません。事前にネットの接続があるかどうかを確認すると、彼女が住む老人向け施設内には接続があることがわかりました。温は一つ返事で引き受けました。

「けっこう上手くなったよ。いろいろアイコンを作ってあげて、それを押せば見たいものが見れるようにしたんだ。1回教えれば十分だよ。」
2時間の初仕事を終えて、温は意気揚々と帰ってきました。
「ただしゃべってるだけって感じ。こんな楽なバイトはないよ〜」
とも。時給20ドルで40ドルをゲット。家のクルマを使うので足代もタダ(笑)

「ファミリーツリーのサイトをいろいろみたけど、良さそうなのはみんな有料で毎月お金がかかるんだ。『それならやめよう』ってことになって、『じゃ、レシピはどう?』って適当にサイトを見せたらハマっちゃって、『You Tubeなら作ってるところを動画で見れるよ』ってYou Tubeも見せたら、『テレビみたい』ってスゴく喜んでた。きっとあの人、まだYou Tube見てると思うよ。」
お菓子をパクつきながら、細かに話してくれました。

今請け負っているのは中小企業の社長相手の仕事。
「メールの送受信とか基本的なことはできるの。でもメールに添付が付けられなくて、受信メールも整理したいらしいのよ。あとエクセルとPDFも教えてほしいって言ってるわ。」
というスーザンの話に、
「それぐらいのこと、秘書とか社内の人に聞けないの?」
と、私たちは首を傾げました。

「そのー、いい人らしいんだけど、年齢も年齢だし、ちょっと気難しいらしいのよ。それでも構わない?」
という、スーザンの遠慮がちな言葉に、彼女が引き受けない理由がわかりました。その企業は地元の東オークランドでは割りと知られており、企業名を聞いただけで私でもどこにあるのかわかったほどでしたが、多数のトラックがひっきりなしに出入りする「男の職場」でした。
「まぁ、行ってみるよ。」
温は鷹揚でした。

「面白いよ、あの会社。スタッフが全員香港人で、みんな広東語で話してんの。」
帰ってきた温は思いがけないことを言い出しました。白人で年配のブルーカラー系の男性ときたら、アジア人とは最も接点がなさそうなので、これには驚きました。
「でさ、みんなエクセル開いて仕事してるんだよ。でも、なんでダンがスタッフに聞かないかわかるよ。」
「なんで?」
「香港人たちがキウイみたいな英語を話さないからだと思う。」

「ああいうおじいさんになるとさ、自分と同じように話さない人の英語には我慢できないんだ。よく聞けば何を言ってるのかわかっても、相手が自分に合わせてほしいんだよ。それにまぁ、一応ボスだからね。」
「なるほど。気難しい人じゃなかったの?」
「普通のいいおじいさんだったよ。でもスタッフには厳しいかもね。それはなんとなくわかるなぁ。」
18歳、いろいろ経験を積んで人を見る目も養われてきたようです。

初日に教えたのは、受信メールを整理するためのフォルダの作り方、フォルダへの移し方、スパムメールのブロックの仕方。著名ビジネスマンだけあて、一方的に送られてくるメールが毎日気が遠くなるほどあり、それをダンは一つ一つマニュアルで削除していたようです。メールの添付もできるようになり、本人はご満足。これで〆て1時間。時給は30ドル。その前の週はダンが連絡なしにドタキャンしていたので、その分も時給を払ってくれ、結果的に1時間で60ドルになりました。この仕事はまだ続くそうです。

キウイのご老人とアジア人大学生の不思議な接点。相手に喜んでもらえ、温も仕事になり、今のところ上手くいっています。他にも英語を教える仕事もしており、残り4ヵ月を切った日本行き後の家庭教師のアルバイトに向けて、日夜研鑽を積んでいます。

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「マヨネーズ」
「日本で英語を教えるなら『TOEIC満点』とかが信用になるだろうな。一度テストを受けておいた方がいいぞ。」
「経済専攻なんだから、すぐに使えるビジネス英語をエグゼクティブや企業向けに教えるのはどうかしら?」
早くも入れ知恵している親たち(笑)


   (日本の大学受験用にTOEFLは一度受けてみたのですが、次はTOEICか?→)


西蘭みこと 

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