「西蘭花通信」Vol.0586   NZ・生活編 〜芝の上にも8年〜               2012年7月29日

NZに移住して8年が経ちました。2004年7月24日の土曜日、冬の朝の閑散としたオークランド空港に降り立ったときの、なんとも言えない安堵感が今でもありありと思い起こされます。
「ついに来た」
「もうどこにも行かなくていい」
「ゆっくり生きよう」
「私はこの地で死ぬだろう」
と、とりとめのない断片的な想いが次から次へと浮かんでは消えていきました。

「なんとか子どもたちが小学生のうちに。」
と願っていた移住は、温(18歳)が10歳、善(15歳)が7歳というタイミングで実現し、半年だけとはいえ兄弟で同じ小学校に通うことができました。盛夏の香港とは30度近い気温差があり、目がテンになる寒さでしたが、幸い誰も体調を崩すことなく、新生活になじんでいきました。

早々に見つけた借家は、水を含んだ青々とした芝の庭が美しい家でした。今ではすっかり見慣れてしまい、足を止めて見入るようなことはなくなりましたが、コンクリート・ジャングルの香港から来た身には、ガランとした芝の庭こそ新鮮で、贅沢に見えました。垣根や植え込みには目隠しや庭を演出するための目的を見出すことができても、芝は芝でしかありません。かといって子どもたちが思い切りボールを蹴れるほどの広さもありません。しかし、そんな空間に安らぎと豊かさを感じました。

芝の上にも8年。石の上の3年よりも、遥かに遠いところまで来てしまったわけです。今回は年表風にこれまでの歳月を記録しておこうと思います。

2004年:移住達成。温が小6、善が小3に編入。すぐに友だちができ、柔道、スカウト、ラグビーと習い事も始まり、忙しい日々に突入。夫はボランティアで善のチームのラグビー・コーチに。

2005年:永住権取得。温が中学生に。子供たちが日本語補習校に入学。私のフリーランスの仕事が増え、夫もこちらで起業。

2006年:自宅購入。私がヨガとボランティアを開始。温が中学校卒業(2年しかないので早いです!)

2007年:裏庭の離れの建設開始。温が高校に入学し、水中ホッケー部入部。夫がラグビーのレフリーに。私の仕事の忙しさがピークに。愛猫ピッピが他界。

2008年:離れ完成。善が中学生に。片時もラグビーボールを手放さなかったラグビー少年が、まさかのオタク少年に変身。夫が忙しくなり夫婦の収入が逆転。

2009年:年末年始を過ごしに、子供2人だけで初めて帰国。善が中学校卒業。愛猫チャッチャがめっきり弱くなり、外出を控えるように。

2010年:年明け早々に温が「日本の高校へ行きたい」と言い出し、2週間で受験、失敗。善が高校入学。クリスマスイブにチャッチャ他界。空き家だった離れを賃貸に。

(この年の今頃に改装したバス・トイレは冬の芝をイメージした瑞々しい色のタイルにしました→)

2011年:ペットの看病がなくなり、旅行三昧の1年に。金融危機の悪化で私の仕事が減り、夫はますます忙しい身に。温が高校を卒業、目標を日本の大学に切り替えて邁進。

2012年:温がオークランド大学入学。名古屋大学にも合格し、9月から日本へ。

子ども、年老いたペット、仕事、最後に自分たちという順番で、前へ前へと進んできた8年だったと思います。移住後初のメルマガのタイトルでもあった「4人ぼっち」は、あと1ヶ月半で「3人ぼっち」になってしまいますが、これからも西蘭家らしく、またここを選んでやってきた移民らしく、前へ前へと進んでいく一家でありたいと思っています。温もまた本格的に住んだことのない日本を選んで「移住」していく身。1人になっても、何があっても前へ前へと突き進んでいく人であってほしいと願っています。

8年経ち、私は間違いなくここで生涯を終えることでしょう。よく「NZってそんなにいい?」と聞かれますが、正直な話、NZという国というよりも、この土地に深く深く惹かれているような気がします。特に北島の中心部を訪ねるたびに、腰の辺りから根でも生え出すかのように、どっしりと落ち着く自分を感じます。人口4,000人にも満たないテアロハを訪れたときは、不思議なほど懐かしく感じました。

こんな調子なので、私たちの移住は徹頭徹尾、私の個人的な閃きで始まり、続いています。ですから「NZってそんなにいい?」という問いに、答えはありません。私たちにとっては「そんなにいい」場所になりましたが、誰にとってもそうであるとは到底思えず、人にNZ移住を勧めたこともなければ、NZの社会のあり方についてはかなりシビアな見解を持っているとも思っています。

けれど人も社会も人生も、完全なものなどありません。いろいろな問題に直面してこそ学び、成長できるのです。芝の上の8年もずい分大波小波があったように思いますが、残っているのは、これまでの人生同様にいい思い出ばかりです。たくさんの素晴らしい人たちに出会い、感動で心が震えるような経験もたくさんしました。そうした経験はできる限りメルマガに残したいと思っていますが、なかなかどうして、書ききれません。

NZでの9年目も、光溢れる幸多き1年でありますように。日本に旅立っていく温が大きく羽ばたいてくれることを、残される私たちが今まで以上に家族のありがたみを噛みしめ、感謝の気持ちを抱きながら生きていくことを願っています。

===========================================================================
「マヨネーズ」
本当は満8年だった5日前に配信したかったのですが、仕事に没頭中で今日になりました。これもリアルな毎日の一面です。温は日本行きに向けて料理にも励み、毎日キッチンに立つように。おかげで、教えながら作る私はてんてこ舞い。

西蘭みこと 

ホームへ