「西蘭花通信」Vol.0593  経済編 〜不動産チャチャチャ:買東西〜  2012年8月17日

ざわざわした会場。高揚した空気。バリっとした身なりの男女が慌しく行き交い、落ち着かない雰囲気。いつものことながら、とっとと立ち去りたくなるところをグッと堪えて、座っていました。不動産のオークションに来るのは何度目でしょうか。専用の会場にはざっと見て100人近い人がいました。部屋はそれだけの人数を収容するには狭すぎ、なんとも形容しがたい圧迫感が漲っていました。こうした「演出」もまた、場を盛り上げるのでしょう。

よくよく見渡すと、アジア人に見える人が4割近くいました。アジア人の不動産屋も何人かいます。オークランドのアジア人の人口比は15%ほどなので、この比率がいかに高いか。4割近くの9割は中国人か他の国籍の華人系の人たちで、それ以外は、「韓国人かな?」と思われる女性3人組と私たちぐらいなものでした。

颯爽とオークショニアが登場し、いつも通りオークションの説明が始まりました。会場の雰囲気はゲートが開く直前の競馬場のようでした。これから大勢が不動産というニンジンめがけて突っ走るわけです。
「たまんないなー」
と思いつつも、これがオークションの現実で、今のオークランドの不動産市場の現実でした。

大画面のスクリーンに映し出された最初の物件は、外壁がウェザーボードと呼ばれる白い横木の5部屋物件。次々に映し出される内装も美しく、1つの家庭に長い間愛されてきた家のようでした。立地、物件、学区とすべて申し分なく、
「100万(約6,500万円)はかたいだろうな。」
と夫が囁きました。80万ドルから始まった競りは多数の参加者を巻き込みながらあっという間に90万台を突破し、あっさり100万をつけました。

そこで何人かが脱落し、参加者の数が絞られました。しかし、競りのスピードが落ちず、満々の買う気が伝わってきました。参加者の1人は私たちの真後ろに座っていた、若い30代に見える中国人でした。白人のエージェントと奥さんを伴って3人で来ていました。エージェントはオークションを開催している不動産屋の人間ではなさそうで、海外からの投資を専門に扱っているコンサルタントなのでしょう。

110万を超えると、札を入れているのはその中国人とずっと後ろで姿の見えないキウイらしい男性の2人だけになりました。中国人はコンサルタントと言葉を交わしてはいるものの、相談しているわけではなく、自分でどんどん値段をつけていきます。彼が話す平易な英語と、英語を解さない奥さんに説明している中国語の両方が、私の耳に入ってきました。

「130万!ありがとうございます。前の紳士はいかがでしょう?」
後のキウイが大台をつけたところで中国人が反応するのを止めたので、オークショニアが壇上から確認してきました。
「いいんですか?」
コンサルタントが小声で囁いています。
「いいんです。あのキウイはどうしてもこの家がほしいんでしょう。私にはわかります。」
中国人は淡々と答え、オークショニアに降りるサインを送ったようでした。

落札のハンマーの音が会場に鳴り響き、初回の競りが好調なうちに終わりました。こうなると勢いがつくというもので、どのオークションも初回はいかにも人気の出そうな物件が選ばれるものです。
「何日ぐらいNZに滞在してるんだろう?その間にこんな高額な買い物をポンとしようっていうんだから、スゴいよね〜」
と思っていると、すぐに2軒目の競りが始まりました。

1軒目とは打って変わってモダンな家。デザイナーハウスと呼ばれる名の知れた建築家が設計した、リゾートホテルの一角を思わせるような物件でした。建築家の名前が連呼されましたが、その手のものにとんと興味のない私たちには、馬の耳に念仏でした。
「初値をどうぞ!」
とオークショニアが促すと、
「150万!」
すぐに反応がありました。驚いたことに、たった今130万で競りを降りた後の中国人でした。

いきなり1億円です。さすがに、その後は誰も続きませんでした。オークショニアが能書きを並べ立て、競りを盛り上げましたが、居合わせた人たちは互いにキョロキョロするばかりで、対抗馬は現れません。
「その価格ですとリザーブ価格(売り手が事前に設定している最低落札価格)に届かないんですが。」
オークショニアが場の高揚感を壊さないよう慎重に告げると、
「180万!」
中国人はあっさりと応じました。

それでもリザーブ価格には届きませんでした。再び隣に座ったコンサルタントが、
「いいんですか?」
と小声で囁いています。
「この物件は家内があまり気に入っていないので、これ以上はいいです。」
とはっきり答える声が聞こえてきました。すぐ不動産屋の担当者がやってきて、それはそれは丁重に最高価格を提示した彼らを個室に誘導しています。競りは流れてしまいましたが、ここから売り手との示談が始まります。(つづく)

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「マヨネーズ」
中国語で「買い物」のことを「買東西」と言います。それでこんなタイトルになりました。続きは次回で。

今日は一家で郊外のフレンチ・レストランでランチ(たまたま次男・善の学校がなかったので)。夫婦でワインを1本飲みましたが、今の私にはtoo much。
「1本を心から愉しめてないな〜」
と感じ「卒業」を実感しました。こうしていろいろなものを納得の上で「卒業」していくのが人生の成熟なのかな〜?

(食事の後に足を延ばしてチーズ屋へ→
ガレージを改装したようなお店ですが(笑)、知る人ぞ知るお店なんだそうです。おいしそうなチーズがぎっしり並んでいました)


西蘭みこと 

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