「西蘭花通信」Vol.0596  経済編 〜不動産チャチャチャ:不動産屋の女たちV〜   2012年8月28日

「今度再訪するときは手ぶらでは戻れなそうです」とココで言っていた、賃貸専門の不動産業者。あれから数ヶ月経ち、とうとう社長のシャノンを訪ねる日が来ました。アポを取って行ったのに、忙しい彼女は接客と電話から逃れられず、待合室にまで彼女のよく通る声や、笑い声が聞こえてきます。その間、スタッフが何度もやってきて、
「もうちょっと待っててね。」
と、気遣ってくれました。

シャノンは私たちにとり、2004年7月の移住後、最初に知り合ったキウイでした。移住して来たのが土曜日で、香港と違って週末に空いている不動産屋などなく、売買目的のオープンホーム(下見会)の立て看板はたくさんあっても、賃貸用のものはありませんでした。週明け早々にシャノンに会い、もうすぐ空くという借家を紹介してもらいました。それが、メルマガでも何度も連載した「ミセス・ダレカの家」でした。
〜ミセス・ダレカ〜

〜ミセス・ダレカ その2〜

〜ミセス・ダレカ その3〜

(移住当時は日曜日に列車が走っていなかったので、こんなことができました。善7歳、温10歳→)

あの家で2年を過し、戦後直後から60年代までに建てられたNZの家のシンプルさ、丈夫さ、手入れや改装の容易さ、今では入手できないような高級木材を使ったフローリング、ムダのない間取り、増築などで手を入れていない限り、どの部屋の明るさも十分な、当時の余裕がしのばれる造りの良さが身にしみ、マイホームを探し始めたときも、60年代までに建てられた家に限定して探していたほどでした。

けっきょく2006年に似たような家を見つけて購入し、2008年に裏庭にガレージ+ランドリールーム+2部屋を足した離れを増築し、2010年からそこにテナントを入れ始め、大家さんの真似事が始まりました。その間に一度だけ、2007年末に投資物件の購入を検討する機会があったのですが、実現しましせんでした。
〜眺めのいい部屋〜
〜眺めのいい部屋U〜


2010 年の年明け以降は長男・温(18歳)の、
「日本の高校に入りたい!」
という突拍子もない話でドタバタになってしまい、それ以降は投資のとの字も頭をかすめなくなりました。高校受験の失敗、目標を日本の大学に切り替えての再出発。がんばるのは本人ですが、親もなんだかソワソワソワソワ。特に私立大に進んだら、4年間でいったいいくらかかることか?老後に備えた投資のことなど、考える余裕はありませんでした。

大学受験と言っても内申書を提出するばかりの書類審査で、今年の2月にはその提出も終わり、親として入学できたあかつきに仕送りをすること以外、特にすることもなくなりました。そんなタイミングにふと蘇ってきたのが、4年ぶりの投資物件の購入計画でした。4年前に一度大きく低下した住宅ローン金利はその後いったん上昇に転じ、2011年のクライストチャーチ地震や欧州債務危機の深刻化を受けて再び低下し、現在は2008年のリーマンショック以降どころか、史上最低水準になっています。

「これなら、もしかして、もしかする?」
まずは銀行に相談に行き、融資枠をゲット。住宅ローンがない自宅を担保にするので枠は取れるはずなのですが、銀行というものは収入が安定しない自営業者にはとかく冷たいもの。直談判して白黒つけるに限ります。資金を確保した後は、これはと思う物件を片端から見に行き、相場観を養い、不動産屋と話し、オークションにも出向きました。その間に温の合格が決まり、国立大だったことで、仕送り負担が若干軽減されました。(最大の出費である生活費は一緒ですけどね)

移住から丸8年。シンガポールで初めて住宅を購入してから20年。アジア通貨危機のどさくさの中で当時持っていた香港のマンションを売却し、住宅ローンから解放されてから15年。私にとっては50歳という節目の年に、とうとう本格的な不動産投資に踏み出すことになりました。同時に、久しぶりにローンを組んだことで、夫婦して仕事へのモチベーションが上がるのを感じました。これもまたよし。

「おめでとう!」
やっとシャノンがやってきました。彼女のシンボルカラーである真っ赤なニットに身を包み、口紅も真紅。その華やかさの上に、商売っ気抜きの飛び切りの笑顔をたたえ、
「よくやったわ!」(Well done!)
と労ってくれました。
「あれから何年経ったの?あなたたちが最初にここへ来たときのことは、よく覚えてるわよ。」

私の中にも、8年前に今回のように諸手を挙げて受け入れてくれたシャノンが蘇ってきました。移住後3日目で出会った彼女の自信、前向きさ、優しさは、新参者には大きな励みでした。またしても新しい船出に出る私たちを、彼女は同じ自信、前向きさ、優しさで迎えてくれたのです。

「うちで管理するんでしょ?だったら管理費は7%プラスGST(消費税)でいいわ。昔からの仲だからね。」
思いがけないディスカウントに思わずガッツポーズの私たち。正規料金ではGST込みで家賃の9%なので、8%に下がるのは助かります。話はシャノンのペースで進み、管理を依頼して10日以内にテナントも決まりました。(不定期でつづく)

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「マヨネーズ」
「4、5月まではスゴく忙しかったけど、最近の賃貸市場はだいぶ落ち着いてきてるの。だからテナントが見つかるまで、ちょっと時間がかかるかもね。」
と、シャノンが言っていたにもかかわらず、翌朝には別のスタッフから、
「お宅の物件を気に入ってるお客さんがいるんだけど、ネコがいてもいいかしら?」
と電話が入ってビックリ仰天。私たちがネコにNOと言えるわけがありません。しかし、テナントは別の人になりました。


西蘭みこと 

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