「西蘭花通信」Vol.0597  生活編 〜ブルースプリング・レポート Vol.27:自炊の友〜  2012年9月1日

長男・温(18歳)の出発まで、いよいよ3週間になりました。日本でのアルバイトに向けた英語教師の資格取得コースが終盤戦に入り、こちらでのアルバイトも続けているので、毎日忙しくしています。その合間に私たちと買い物に行ったり、思い出作りに家族で食事に行ったり、パスポートを更新したりと用事を片付けていっています。

時間がある限り、私と一緒にキッチンに立つことも日課になりました。1ヶ月半前に書いたメルマガ「温のサバイバル・リスト」を地で行く毎日です。温はちょうど1年前に本人の意思で肉食をやめてしまったため、ハンバーグ、カレー、肉じゃが、牛丼、豚カツ、餃子といったごく普通のものがみな食べられません。どうしても料理のレパートリーが少なくなりがちなので本人も一生懸命で、一段の努力と工夫が欠かせません。

先日はコロッケを一緒に作りました。具は冷蔵庫の残り物を利用。温用のエビ入りシーフードカレーの残りでカレーコロッケ。作り置きの玉子+ピンクサーモン+刻みワカメ入りの炒り豆腐で豆腐コロッケ。どちらもマッシュポテトと混ぜ、硬さを調節して衣をつけて揚げるだけ。「残り物でもう1品」は料理で時間と労力を省くための基本のキでしょう。大学から帰って夕飯のためにコロッケを一から作るとなったら大変です。

温は料理を習うと、作り方をノートに書き込んでいます。出来合いのレシピを参考にするよりも一度でも手書きしたものは覚えもよく、忘れても思い出しやすいものです。私もよくそうしています。温が一番最初に覚えた「料理」は、ちょうど旬だったこともあり、筋子をイクラにする方法だったのは、今や笑い話です。なかなか上手になり忘れることもないでしょうが、果たして日本の学生生活の間に役立てられる機会があるのか?

家事は料理にとどまりません。アイロン掛けの基本を教え、何枚か練習しました。自分のシャツだけでなく、夫のYシャツにまで挑戦しました。アイロンを掛けると、襟の作りや縫い目までしかと目にするので、縫製や素材の良し悪しがひと目でわかるようになります。自分で手を掛けることを面倒くさがるか、楽しめるかは本人次第。願わくは後者となり、
「物を大切にすると物にも大切にされる」
という私の実感に、人生のいつかの段階で共感してくれたらなぁ、とも思います。

裁縫にも挑戦しました。本人は針などほとんど持ったことがないのですが、運針から始める余裕はなく、真っ先に教えたのがボタン付け。何回か練習してできるようになりました。「着いてりゃいい」ぐらいに低めにハードルを設定していましたが、なかなかです。次はまつり縫い。ズボンや上着、袖口のほつれを自分で直せれば、と思いました。縁がほつれたタオルを使って練習し、これもなんとかなりました。他には穴かがりとゴム・紐通し。紐通しの道具など見たこともなく、見てもなんだかわかりませんでした。

「日本に行ったらフライパンとか、へらとか、お玉とか買わなきゃ。ゴム手袋はボクのサイズもあるかな?」
「木ベらにしなさいね。シリコンのスパチュラはダメよ。お玉はなんでもいいけど、フライパンは底の厚い重いのがいいわよ。薄いとすぐ焦げるし。1人だとフライパンはけっこう使うからね〜」
「いいの買いたいけど、そんなにお金ないしな〜」
といった、料理をしない夫には目がテンになるような、母と息子の会話。

「日本のスーパーってケイジャンとか普通に売ってる?」
「魚屋に行けば鯛のお頭ってあるの?」
と温の疑問は尽きません。我が家は「ほんだし」や「コンソメ」など化学調味料を使わない家なので、鯛のお頭を木綿の袋に入れて大鍋で数時間煮出して1週間分のスープストックを作っています。日本人家庭でこんなことをしている家がまずないことが、温にはピンときません。
「そうねぇ。近所の魚屋さんと顔なじみになって、とっといてもらうんだろうね。変わった大学生だと思われるだろうけど〜(笑)」

そんな折、ガレージの保存棚に買い置きのコーヒー豆を取りに行くと、全く忘れていたフライパンと鍋が目に入りました。2つとも私が愛用しているアメリカのブランド「サーキュロン」のものです。以前ネットで購入した、NZでは市販されていないかなり厚手の鍋セットのうちの2つで、すでに同じサイズのサーキュロンを持っていたため、買ったままの状態で保存していました。

「そうか、このフライパンと鍋は温の日本行きのお供って訳ね!」
頭の中にピカッと明かりが灯るようでした。これが点いたときは今までの経験からいくとその通りになります。買ったのは今からちょうど1年半前(その時の話はコチラで)。「世の中に偶然はない」と信じる私は、この独り暮らしにピッタリな大きさの2点のサーキュロンに思わず微笑みかけ、想いを託しました。


「頼むわよ、温の自炊を支えてね!」

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「マヨネーズ」
サーキュロンはこちらのテレビでもときどき宣伝しています。料理をしている老婦人の二の腕にはタットゥーが・・・・「これを入れたのは後悔してるけど、サーキュロンを買ったのは後悔してない」とかなんとか。どっちも一生モノという訳です。

温はサーキュロンをほしがっていましたが、「でも、大学生には高いよね〜」と言っていたので、2点を見せると満面の笑みでした。日本のような物が溢れ返った国にフライパンと鍋を持って行く留学生も珍しいでしょうが、ここまで気に入っている品、末永く温の自炊の友となりますように。
「フライパンに鍋まで持っていくだって?!」
と、夫は再び目がテン!


西蘭みこと 

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