「西蘭花通信」Vol.0608  経済編 〜花火と経済:7.3%の衝撃〜                2013年1月20日

2012年11月5日の花火の日ガイフォークス・デーから3日後の8日。その日に発表された2012年第3四半期(7−9月)の失業率は7.3%という、衝撃的な悪化となりました。
「7%台?まさか?」
ニュースを目にしながらも信じられませんでした。1999年以来13年ぶりの高水準。2008年のリーマンショックなど軽く飛び越えた、1998年のアジア通貨危機後にまで遡る話だなんて!

「まさか!ガイフォークスであんなに景気良く花火が上がったじゃない!個人消費も持ち直しているし、家の値段も過去最高を更新中。クライストチャーチの復興もあって建設ブームだし、近所でさえ増築している家がいったい何軒ある?みんな『バスに乗り遅れるな!』といわんばかりじゃない?これで失業率が7%台?」

発表された内容を目で追いながらも、「まさか、まさか」と否定する気持ちが先走り、どの数字もピンと来ませんでした。それぐらい事前に発表されていた経済指標も金融市場の予測も上向きなもので、意外感から発表と同時にNZドルが反射的に売られました。「花火」以外にも、私が個人的に経済指標としている、前回お話した「越境入学」は2012年からかなり状況が変わっていました。

2月に新学期が始まると、次男・善(15歳)がスクールバスに乗っている新入生の多さに驚いて帰ってきました。前回お話したように息子2人は越境通学ながら、家がスクールバスの路線上に位置しているため、学校のバスを利用することができます。息子たちの路線は学区外の生徒も多く、人数の増加は「学区外の生徒をどれぐらい受け入れたか」、つまり「学区内で私立校に進んだ生徒がどれぐらいいたか」を大雑把に示しています。新たに越境してくる生徒は圧倒的に新入生なので、その数は指標になります。

長男・温(18歳)が越境入学した翌年から、景気の悪化により私立校への進学を断念する学区内の生徒が増え、学区外の生徒にとっては何らかの条件がない限り、「全滅」と言われるほど越境が難しくなりました。善は2010年に入学したものの、それは条件の一つである、きょうだい枠のおかげでした。学校は条件のない学区外の生徒に対し、可能性がないことを理由に入学申請をしないよう通達していたほどでした。

善は入学後3回目の新学期にして初めて、大勢の9年生でスクールバスが混み合う光景を目にしたのです。温の入学から6年が経過していました。その話を聞きながら、
「本格的に景気が戻ってきたんだな。」
と思ったものです。ちょうどその頃は不動産市場が久々に活気を取り戻し、投資物件の購入を検討し始めていた私たちも、オークションに足を運んでは市場の買い意欲の強さを目の当たりにしていました。

(2010年の高校入学当時の善。あの頃は温の日本の高校受験とその失敗で、親はてんやわんや。気がついたら善が高校生になっていました(笑) 今は家に子どもが1人で、善の天下?!→)

さらに、私が個人的に指標にしている3つめのものに「寄付」があります。7年前からチャリティー・ショップのボランティアとして週1回、寄付されてくる品の仕分けや値段付けを手伝っているうちに、寄付の量と質が驚くほど景気を反映していることに気付きました。寄付のタイミングは買い替えのタイミングでもあります。特にベッド、ソファー、家電製品は新しい物を買ったときに古い物を処分するので、指標の精度がグンと増します。これらは引っ越しの多さとも密接に関連しています。

家の売却⇒引越し(それまで住んでいた人もこれから住む人も同時に移動するので、不動産ブームの時には玉突き状態で引越しが増えます)⇒ついでに家具・家電の買い替え⇒不用品の寄付・・・・非常にわかりやすい経済の動きの末端に位置しているのが、チャリティー・ショップという訳なのです。

ここ数ヶ月はかなり質のよい厚めのマットレスが、キングサイズからシングルサイズまでよりどりみどり。こんなことは数年ぶりでした。家電製品よりも遥かに買い替えサイクルが長いベッドのような家具まで寄付されてくるということは、家の中の相当の品を買い換えている可能性があります。それを裏付けるようにリネン、台所用品、衣類、靴、玩具とあらゆる物が目に見えて増え、在庫の量に仕事量が追いつかなくなりました。

「花火」「越境入学」「寄付」という身近でリアルな経済指標まで、すべて上向きだった矢先の失業率7.3%がいかに衝撃的だったことか。実感のできない悪化に足下をすくわれるようで、ヒヤリとしました。失業率が発表された翌日の新聞は悪化の原因探しに躍起となり、ネット上でも識者の見解がいろいろ出ていましたが、
「そうか、このせいだったのか!」
という、誰にでもわかるような簡単な答えは見当たりません。

自分が実際に暮らし、景気の良さを実感してきた、この国の経済の中心であるオークランドこそ、失業率が8.6%に達し、全国の悪化を牽引していたのです。3ヵ月で9,900人、1日100人超の勢いで誰かが職を失っていたのです。
「いったい、どこにそんな不景気があるのだろう?」
本格的な夏の到来を思わせるどこまでも青く輝く空を見上げながら、心の中には厚い雲が垂れ込めていました。(つづく)

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「マヨネーズ」

ま・さ・かの年越し連載になってしまい、うかうかしていたら次の失業率が発表されてしまいます!(滝汗) しかし、イジイジと連載継続で今回も(つづく)。

善は友だちとオーストラリア旅行へ。と言っても観光目的ではなく、ここ数年すっかりハマっているアメリカのカードゲームの大会参加のためです。大きくなったものです。

西蘭みこと 

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