「西蘭花通信」Vol.0617  NZ編 〜オークランドの近未来〜                2013年4月8日

NZでは先月3月5日に国勢調査がありました。本来2011年に行われるはずでしたが、クライストチャーチ地震で2年間延期され、7年ぶりに実施されました。簡単な調査ですが、移民国という社会の実態を把握しにくいこの国にあって、これ以上の一次資料はありません。質問項目に記入しながらも、各項目の結果が知りたくてうずうずしてしまいました。

一番興味がある結果はオークランドの出身民族別人口比です。前回2006年の調査によれば、欧州系57%、アジア系19%、南太平洋系14%、マオリ系11%、中東系・NZ人・その他10%でした。先ず最初にお断りしておかなければならないのは、これらの合計が100%にならないことです。前回2006年調査より「NZ人」という項目が追加され、複数回答も認められたため、合計は111%になっています。混血の人が両方の民族を名乗ったり、移民が出身民族にこだわらず、自分をNZ人とするなど、さまざまなケースが考えられます。

これでいくと半数は50%ではなく55.5%になり、欧州系の57%がかろうじて過半数だったことがわかります。あれから7年の月日が流れ、シティーの中心部を歩くたびにアジア人、特に若い学生の多さに驚かされます。移住当初は中国系の多さに驚いたものですが、最近はインド系、中東系が急増しているのを実感します。

実際、移住枠の中の技能移民部門で永住権を取得する最大の民族は、今やイギリス系を抜いてインド系がトップです。彼らの多くは留学生として渡航してこちらで就職し、学生ビザ→労働ビザ→永住権と、出世魚のようにビザが変わっていくのです。永住権の取得には英語の試験が課される場合が多いので、英語を母国語もしくは公用語とするインド系やフィリピン系などの民族は有利になります。

今回の調査でオークランドの非欧州系が過半数になったのは、確実だと思っています。白人がマイノリティーになる日が来ることは多くのキウイにとって衝撃でしょう。しかし、この街の脱白人化が日に日に進んでいることは、数字に裏付けられた現実です。暮していて、
「カフェやデイリー(コンビニ代わりの食料日用品店)のオーナーがいつの間にかアジア系になっていた」
という経験は今や珍しくありませんが、その逆は稀です。

オークランドの現状は全国的に見ると非常に特殊な傾向です。2006年の段階で欧州系人口の全国平均は67.6%でした。人口の3分の1以上がオークランドに集中していることを考慮するまでもなく、かなりの地域で欧州系は70%に達しています。2番目はマオリ系で15〜20%、残りの10〜15%がアジア系+南太平洋系+その他で占められました(前述の通り合計が100%にならないので、多少の誤差はあるものの)。オークランドは全国最大のマオリ人口を抱えていても、その人口比は約1割と決して高くなく、比率も低下しています。

地域別アジア系人口をみてみると、オークランドへの一極集中がわかります。2006年にはアジア人の66%がオークランドで生活していました。3人に2人の割合です。人口全体ではオークランドの人口は3人に1人なので、その倍というわけです。上位5民族をみると、(1)中国系67%(2)インド系71%(3)韓国系69%(4)フィリピン系58%(5)日系44%でした。

日本人はアジア人としては全国に分散して暮している方で、居住地第2位はカンタベリーの22%でした(地震前の数字ながら、カンタベリーのアジア系では断トツ1位)。それだけ日本人は観光、外食、教育などオークランド以外でも雇用の機会があることの証明なのでしょう。NZらしい南島でのライフスタイルの追求、親類縁者に頼らない自由な移住スタイル、比較的少ない人種偏見といった点も、背後の要因かもしれません。

増え続けるオークランドの人口。20年後には全国の人口の半分がこの街で暮していると予想されています。個人的には今の勢いでいけば、20年もかからないとみています。時期はともあれ、オークランドの半分以上が非欧州系となれば、全国の人口の40%、5人に2人が非欧州系になっていることになります。その時でも地方は第一次産業に依存する産業構造から、人口比が大きく変わっているとは考えにくく、オークランドだけが多民族の巨大都市として、拡大を続けていくことになるのでしょう。

今年2月に中国や香港から中国正月を利用した観光客が大挙して押し寄せた結果、シティーでは宿泊施設が足りなくなり大騒ぎになりました。これなど「非欧州系が増えると消費動向も変わる」という好例でしょう。長年クリスマス商戦に照準を合わせてきた小売業界にとり、クリスマスを全く祝わないか、祝っても外食をするぐらいで、キウイのように親類縁者に配るためのプレゼントを50個も100個も買ったりしない人たちが、いつ、何に対し、いくらぐらいまで財布を開くのかを把握することは、非常に重要でしょう。

    (中華系やインド系の店が並ぶマウントアルバートの商店街→)

キウイ(大半がNZ生まれの欧州系、マオリ系)のオーストラリアを始めとする海外移住が止まらず、その分の人口減を補うために海外からの移民を受け入れるという現在の移民政策が変わらない限り、オークランドの脱白人化という特異性に歯止めがかかることはないでしょう。それはもう確実にやってくる、近未来なのです。

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「マヨネーズ」
移住の下見で来ていた10年前の2003年に、シティーで入ったカフェが韓国人オーナーだったことに驚いたのは、今や昔の思い出です。オシャレでおいしいコーヒーを出す店でした。大きなうねりの中で一アジア人としてどう生きるか、興味は尽きません。

西蘭みこと 

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