「西蘭花通信」Vol.0622  生活編 〜大人の休み時間〜                  2013年6月2日

先月、結婚22周年記念に夫婦で北の町ラッセルとケリケリを回ってきました。どちらも海沿いの風光明媚な町で、10年前に観光客として訪れて以来でした。ケリケリのレストランでランチをとっているとき、夫がふと、
「いつか僕たちも誰かと旅行したりするのかね。」
と言いました。近くのテーブルでは初老の夫婦2組が談笑しながらグラスを傾けていました。

旅行中にそんな話になったことは幾度となくあります。今や子育てが終わり、2人で旅行に出ることは、夕食に出るのとさほど変わらないほど容易になりました。とは言っても、そんなに頻繁には行かれないので、学校休みでお弁当の心配がないときを狙い1、2泊の短い旅行に出ています。旅先の食事時に2人組の夫婦を見かけることは本当によくあります。

NZに移住して早9年。あと2年もすれば家族で暮した香港の11年を抜くというのに、私たちには一緒に旅行に行けそうな夫婦の友だちがいません。香港や日本、インドやタイにはいるのですが、なぜかここではめぐり合えずにいます。旅行となると会食と違い、長い時間を一緒に過ごします。その中で、旅の目的、時間の使い方、食事の好み、宿泊先の選び方など、あらゆる面で個人の好みが問われます。

相手がその場所をよく知っていれば「お任せ」という手もありますが、大半は希望を出し合って行動や宿泊先を決めることでしょう。そんなすり合わせの中で興味、価値観、金銭感覚といった、なかなか他人に合わせることが難しい部分が問われてきます。
「まぁ今回は4人なんだし・・・」
と、自分の希望を引っ込めてもそれが吉と出ればいいのですが、
「残念だった・・・」
と後悔する結果になるかもしれません。その辺の感覚が左右の手袋のようにピタリと来る人たちが、今の私たちにはNZにいないのです。

夫の一言に真っ先に思い浮かんだのが、オークランドからクルマで3時間ほどの街ファンガレイに住むビルマ人医師夫婦のアリスとゾーでした。彼らとは2008年にミャンマーが巨大サイクロンに襲われ14万人の犠牲者を出したときに、何かしら支援がしたくて、つてを探しているときに出会いました、(この件は1度だけメルマガにしているので、〜ビルマへの道:旅するポケモン〜をどうぞ)以来彼らとは細々ながらお付き合いが続いています。

同年輩。無類の猫好き。アジア人。移民―――私たちの共通点はそんなものですが、気が合い、話が弾み、尽きることがありません。ミャンマーの現状、彼ら以外の難民として受け入れられたビルマ人たちの暮らしぶり、お互いの仕事やかかわっている慈善活動、料理、猫・・・・興味のポイントが近いので話題に事欠きません。彼らには子どもがいないので、話に子どもが出てこない代わりに、「私たちは」「あなたたちは」と自分たちのことだけで話が完結するのも、子どもが生まれる前に戻ったかのようで新鮮に感じます。

そんな彼らから不意に連絡が入り、久しぶりに再会しました。考えたらオークランドで会うのは初めてでした。
「ファンガレイは田舎じゃない?オークランドで美味しいものを食べるのが楽しみなのよ。どこかいい店に連れてって。」
というアリスのリクエストに、パーネルにある隠れ家的なオールド上海風のノスタルジックな中華料理店を選びました。

土曜日の昼だというのにお客は私たち4人だけ。完全に貸切でした。話題はゾーが麺作りにハマり、とうとうイタリア製のパスタメーカーを買ったというところから始まりました。2人は毎週末、自宅で「マスターシェフ」(有名シェフの登竜門になっているテレビ番組)ごっこをしていて、お互い相手に中身を知らせないまま料理を作り、どちらの料理の方が美味しいかで出演者兼審査員として、「厳正に審査して」(アリス談)勝敗を決めながら、料理を楽しんでいるんだそうです。なんてこなれた時間の過し方!

話は自然と今のミャンマー情勢や日本の円借款の話に。
「アウンサンスーチーは今でも、いつ暗殺されてもおかしくないほど危険な状態にさらされている。」
という意見と背後の理由には思わず息を飲みました。彼女の強さは「すべてをさらけ出したこと」ということで意見が一致。彼女の粗末なオフィスにはプラスチック製の椅子しかなく、外国の要人もそれに座って会見し、それが世界中に報じられる―――そんな命がけの手作りの民主主義が世界中から支援され、それがまた彼女のリスクを大きくしている―――

円借款の話から話題は日本の公的債務の話に飛び、日本人の貯金一辺倒の資産運用と国債の関係、その流れで、NZ人の貯金より借金重視の資産運用(今では私たちもそうなので耳が痛い話ではありますが)、果ては現在のキー政権への評価などなど、話が流れるように続いていきます。興味の対象やそれに対する意見が驚くほど近い証拠でしょう。もちろん、私たちにとっては耳目をそばだてたくなるような、医療現場の話もたくさん出てきます。

「この人たちとなら、一緒に旅行ができるかもしれない。」
あのケリケリでの直感がかなり正しかったことを実感しつつ、いつか4人でどこぞのホテルに泊まりながら、お堅い政治の話から料理の寸評まで、あーでもないこーでもないと、大人の休み時間を愉しんでいる姿が思い浮かびました。

まずは「お家大好き!」で、「趣味:家の掃除と模様替え」のため旅行に出たがらないアリスを"落とす"ところから始めなくては!
(ラッセルのホテル、デューク・オブ・マルボロ。この辺に呼び出すことから始めようかと、密かに作戦中→)

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「マヨネーズ」
50代の友だちですから無理はしません。常に自然体でいられる人、一緒にいて寛ぐ人と上質な時間を愉しみたいと思っています。友だちは「作るもの」ではなく「授かるもの」だとも思っているので、出会いを求めたりもしません。その結果、今のところは夫婦でばかりいる私たちですが、それが自然なら、それもまたよし。

西蘭みこと 

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