「西蘭花通信」Vol.0627  スピリチュアル編 〜人生の春夏秋冬:過去からの電話〜 2013年6月22日

確かNZに移住して2、3年経った、今から6、7年前のことでした。電話が鳴ったので、
「ハロー」
といつものように出てみると一瞬沈黙があり、
「間違い電話かな?」
と思った矢先、
「ハロー。もしもし。」
と遠慮がちな男性の声がしました。

驚いて、
「西蘭ですが・・・・」
と日本語に切り替えると、
「○○さん?」
と思いもかけない言葉を耳にしました。○○は私の旧姓でした。

電話をしてきたのは小中学校のときの同級生のNくんでした。
「昔の友だちと香港旅行の話をしてたら、○○さんが香港にいるって聞いて、親に聞いたら実家の電話番号がわかったんだ。親御さん元気そうだな。でも『今度はNZに引っ越しました』って言われて、この電話番号教えてくれたんだよ。ずっと海外なんだってな。元気にしてるか?」

Nくんは運動部の主将で、日に焼けた肌、短髪、元気溌剌な様子が思い出されました。出たがりとか兄貴肌だったわけではありませんが、突然ひょうきんなことを言い出したり、スポーツマンらしくフェアな性格だったため、よく学級委員をやっていました。どのクラスにも1、2人は必ずいるいわゆる人気者で、休み時間には自然と周りに人が集まり笑いの輪ができました。彼が誰かと仲たがいをしたり、悪口を言ったり言われたりしているのを聞いたことがありません。

帰宅部だった私はほとんど接点がなかったものの、何度か同じクラスになり何かの係を一緒にしたこともありました。中学校も同じでしたが、高校は別々でどこに進学したのかは知りませんでした。風の噂に両親が離婚して引っ越していったと聞いたのを最後にNくんは私の記憶から消え、中学生のまま封印されてしまいました。突然の電話はまるで過去からかかってきたかのようで、30年の歳月に眩暈を覚えそうでした。

大学を出るのと同時に日本を出て、台湾、フランス、香港、シンガポールを転々とした後に結婚したこと。香港に居を構え、男の子が2人生まれたこと。その間も会社勤めを続け、今はNZに移住してフリーランスになったことなど、問われるがままに駆け足で身の上を説明すると、
「そうか。海外でバリバリ働いて独立してるなんて、カッコいいよな。」
と、拍子抜けするほど素朴な感想が小さな声で返ってきました。

「こっちはまぁ、普通のサラリーマンさ。知ってるだろうけど、親が離婚して横浜を離れたんだ。お袋の実家の方で大学を出て、東京の会社に就職したんだけど、そこが倒産しちゃってね。40になってから地元の会社に転職したんだ。でもこの会社も芳しくなくて、この先どうかな?かみさんがパートに出てくれてるけど、持病があるからあんまり無理させたくないんだ。かみさんの病気のこともあって、子どもはいないんだよ。」

「本当にNくん?」
思わず聞いてしまいそうになるほど、記憶の中のNくんと電話の主はかけ離れた印象でした。内側から湧き出るような天性の自信と責任感に溢れ、それが人を引きつけ、引きつけられたみんなを笑いでもてなし、誰にでも慕われる人でした。しかし、電話の向こうのNくんはやや自信なさげで、以前のように軽口を叩いて笑わせてくれることもありませんでした。

「まだ香港に居るんだったら、旅行の時に会えないかなと思ったんだけど、NZじゃ一生行けないな。もう横浜に行くこともないから、そっちが帰国しても会う機会もないだろうし。まぁ、お互い元気でがんばろうや。」
そんな風に話は終わり、彼の自宅の電話番号を教えてもらった代わりに、こちらのメールアドレスを伝えました。

電話の後、突然心に浮かんだのが「人生の春夏秋冬」でした。「人生には四季がある」いつの頃からか漠然とそう考えてきました。このメルマガでも何度も取り上げたように、私の人生には10年ごとに大きな転機があり、それは月の満ち欠けのように正確です。転機の内容ときたら、自分のちっぽけな想像を突き破り、蹴散らすような突拍子もないものばかりでした。転機が2回で20年。どうもそれがひとつの季節のようなのです。

そう考えるきっかけになったのは、確か子どもの頃に祖母から言われた、
「あなたは冬生まれだから我慢強い。」
という言葉でした。その言葉はまさに我慢の連続だった子ども時代には、涙がこぼれそうになるほど重い一言でした。
「まだ我慢しなくてはいけないのか。」
そう思うと行く手が吹雪に包まれて見えなくなりそうでした。しかし、どの季節にも終わりがあります。子ども時代の私は凍土の下で人知れず春を待つ一粒の種でした。

そんな私に比べたら、子ども時代のNくんはさんざめく明るい光に包まれ、伸びゆく季節を謳歌する春か夏の時代にいる眩しい存在でした。しかし、30年後の電話の向こうのNくんは寂し気で、寒さが身にしみる秋か冬の時代にいるかのようでした。そのギャップに思わず、
「本当にNくん?」
という問いかけが口を衝きそうになったのです。

後日改めて電話を入れると、
「この番号は現在使われておりません」
というテープが流れ、彼からメールを受け取ることもないまま月日が流れていきました。(つづく)

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「マヨネーズ」
軽い気持ちで書き始めてみたものの、どうも何回かの連載になりそうな気配です。例によ.って、登場人物には実際のモデルがいますが、個人が特定できないようにデフォルメしているので、あくまでも読み物としてお楽しみ下さい。

我が家は私、夫、名古屋の長男・温(19歳)が厳寒の2月生まれ。これでいくと我慢強い一家?次男・善(16歳)だけは3月末の春生まれ、さて善の先行きは???

(冬本番のNZ。オークランドは雪が降らない温暖な気候ですが、暖炉をつけると情緒があります。今日は我が家も暖炉でした)

西蘭みこと 

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