「西蘭花通信」Vol.0631  スピリチュアル編 〜人生の春夏秋冬:賑やかな冬〜     2013年7月4号

ミリーの大親友で同い年のケイト。年齢は70代に足を踏み入れたところですが、中身は30代で止まったままのような、いつまでも不変な柔軟さを持ち合わせた人です。彼女の誕生日も秋です。双子として生まれ、四姉妹の家庭で育ち、常に周りに誰かがいる、仲良く、楽しく、明るい、笑いの絶えない子ども時代を送りました。

「母が一家の中心だったわ。父は物静かな人で、狭い家の中でもどこにいるのかわからないような人だった。先日も母と出かけた時に、『腰がもうちょっとよくなったら、あそこまで泳ぎたいわねぇ』と指差した先は、デボンポートよ!(注:ワイテマタ湾を挟んだ対岸)本人もう94歳で歩くのがやっとなのに。」 とケイトが語る母親は、彼女にそっくりでした。飛びぬけたユーモアのセンスと地に足の着いた強さは母親譲りなのでしょう。

18歳で家を出て仕事仲間とフラッティング(共同生活)を始め、相変わらず楽しく、笑い転げる日々が続きました。明朗活発で、面倒見がよく、天性の社交家だったケイトは今と変わらずどこへ行っても人気者で、たくさんの友だちに恵まれました。彼女もまたミリー同様に、豊かな秋を満喫した人でした。

22歳で仲間の1人だったブライアンと結婚。この頃から彼女の冬が本格化します。
「上の子ども2人が年子だったから、双子を育てているようだったわ。3人目も生まれて、もう無我夢中よ。母乳だし、布オムツだし、食器洗い機なんてないし。でもね、当時はみんなそうだったの。考えてる暇なんかなかったわ。毎日ただただ子育てに明け暮れていたわよ。」
彼女がそう言う傍らで、同年輩の他の友だちが盛んにうなずいています。

四姉妹の家に育ち、生まれたのも3人の娘。
「ずっと幼稚園か女子校のような所で暮らしてきたのよ。」
とケイトが言うように、家の中はいつも黄色い声が響く、華やかで、賑やかな場所でした。
「娘たちが学校に行っている間にワンピースを縫っておくんだけど、1人分だけ見せると大騒ぎになるから、3人分ができ上がるまで隠しておくの。でも、どういうわけか誰かが作りかけのを見つけ出して、けっきょく大騒ぎ。当時の洋服は高かったから、手作りでも何でも新しい服はビッグニュースだったのよ。」

女4人でワイワイキャーキャーやっている脇で、ブライアンはムスっとしていました。口数が少ないのは父親と一緒でしたが、彼はただ物静かなだけではなく、皮肉屋でした。
「また新しい服か。すぐに流行遅れだなんだと着なくなるくせに。」
と一言残しては立ち去っていく、そんな人でした。盛り上がっていた女たちはその場に固まり、ケイトは一生懸命縫っていた物が急に価値のない物に見え、続ける気力を挫かれました。

商業建築の技師だったブライアンは長期間家を空けることも多く、ケイトはその間1人で家を切り盛りしなければなりませんでした。けれど、女だけの気楽さもあって、さして苦にはなりませんでした。そうこうしているうちに長女が自立していき、次女も家を出て、残るは三女だけになりました。そんな時、ブライアンに地方での大きな仕事の話が舞い込み、引き受けたら2、3年は現地で暮らすことになりそうでした。

「私も行こうかしら?」
40代に入っていたケイトは自分でも予想外だった決心をします。彼女の季節は春に入っていました。三女はすでに高二。シスコンで週末ともなれば長女のフラットに転がり込んでいました。家が郊外だったこともあり、市内中心部の女子高までは通学に時間がかかり、長女と一緒に住むことを強く希望していました。長女はケイト似で面倒見のいいしっかり者。三女はやや頑固ながら勉強のできる真面目な性格。後は長女に託すことにしました。

生まれも育ちもオークランドで家が農家ではなかったケイトにとり、オークランドのすぐ隣のワイカト近郊の暮らしでも十二分に牧歌的でした。漁師が毎朝とりたての魚を売りに来る場所を見つけ、野菜はここ、玉子はここと、新鮮な食材を手に入れる方法を確保しました。朝焼けの中を市場まで歩き、夕焼けの中を散歩するそんな生活は、娘たちとの日々からなんと遠いことか。それはオークランドとワイカト以上の距離でした。

       (仔牛ばかりを集めた牧場の一角。ワイカト郊外にて→)


ブライアンとの2人だけの夕食は「お葬式のよう」だったものの、ケイトは毎日の新しい経験や発見が楽しくて、「壁に向って話すように」1人でその日1日の出来事を話し続けていました。
「狭い町じゃない?あっという間に私の方が知り合いが増えて、夫婦で出かけると、みんなが私に挨拶して話しかけてくるの。ブライアンは傍で黙ったままだったわ。」
娘たちとの賑やかな冬の後には、2人だけの静まりかえった春が待っていました。
(つづく)

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「マヨネーズ」
『創作実話』のつづきです(笑) エピソードも含め限りなく実話を基に、名前や職業など本筋とは関係のないところは変えてあります。特に話の趣旨から、その時々の年齢は私の知る限り忠実に記しています。彼女もほぼ20年ごとに転機を迎えているのには驚きです。ケイトの場合は「5」のつく年が特に重要なようです。

彼女の辞書には「気配り」という文字がないのではないかと思います。それは彼女にとり、脈を打つように呼吸をするように生まれつき備わったもので、意識に上ることさえないように見受けられます。私の不完全な英語で一言言えば、最後まで言わなくても100%理解してくれる聖徳太子のような人でもあります。

それに甘えて、伸びない私の英語もどうしたものか・・・・

西蘭みこと 

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